【10-10】 フレイヤ
【第10章 登場人物】
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ヴァナヘイム軍総司令官以下5名を乗せた馬車は、オーズ邸の前庭を抜け、玄関前の車止めに停車した。
照り付ける陽光にもかかわらず、ロータリーの円形庭園には、色とりどりの花が咲き乱れている。
焦げ茶色の三角屋根3つを冠し、壁全体に赤褐色や黄褐色のタイルが配された建物は、その大きさの割に圧迫感よりも、メルヘンチックな印象を訪問者に与える。
ヴァナヘイム国一の猛将の雄々しい屋敷というよりは、絵本作家のほんわかとした隠れ家といった風情なのである。
馬車において5人で確認した作戦――首飾り返還後、即座に離脱――は、たちまち破綻した。
【10-9】 大陸一の英傑 下
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紺色ワンピースにフリル付きの白エプロンをまとった者たちによって、彼等は応接間に通され、紅茶と焼菓子まで提供されてしまっている。
何度も辞退しようと申し入れたが、「それでは私たちが奥様に叱られます」と、使用人たちに押し切られてしまったのだ。5人の耳には「私たちが奥様に討たれます」と聞こえたような気もする……。
「……」
ミーミルは白手袋を外し、無言のまま焼き菓子をつまんでいる。
帝国軍を翻弄したヴァナヘイム軍の名将も、どうもこの戦場……屋敷では、勝手が悪いのだ。
通された応接室は、大きな館の1階であることに加え、風通しが良く、また複数の扇風機のおかげで、暑気を忘れるほど涼やかだ。
ミーミルたちが、やむなく紅茶を口に含みつつ、退室のタイミングを見計らっていた時である。
部屋の外にパタパタとした足音が聞こえたかと思うと、ノックのあとそっと扉が開く。そして、その合間から小柄な少女が1人姿を現した。
桃色のボレロには、腕から胸にかけてフリルが
両の眼はパッチリと開かれている。光沢のある栗色の巻毛を側頭部に結え、肩から前へ流している様は、実に可憐であった。
――オーズ中将の御息女だろうか(奥方……お祖母様似なのだろう)。
――中将の面影なく、何と愛らしいことか。
――あの猛将に似なくて、実によかった。
――親父さんに似ず、めちゃくちゃ可愛いやん。
――隔世遺伝万歳。
ミーミル(総司令官)
ローズル(副司令官)
フルングニル(参謀長)
シームル(階段将校)
セーグ(階段将校)
が、ヴァナヘイム国一の猛将・アルヴァ=オーズ中将(夫妻?)に対して、思い思いに失礼なことを頭に浮かべている。
すると、栗毛の少女は「ごきげんよう」とドレスの裾を広げ、右足を左足の後ろにクロスし、腰をわずかに
お辞儀――カーテシー――に合わせ、裾を飾る二対のリボンと大きなフリルが上下する。
きちんと挨拶ができたリトル・レディに答礼しようと、ミーミルたちは立ち上がり、左胸に手を当て、頭を下げる。彼等は自然と笑みがこぼれる。
「軍務省次官・ケント=クヴァシル中将の名代で参りました。アルベルト=ミーミルでございます」
以下、副司令官・ローズル、参謀長・フルングニルが続く。そして最後に両少佐。
「まぁ、総司令官閣下ご一行でいらっしゃいましたか」
少女の声は明るく、響きも柔らかい。
今度は、そんな
童話のなかから出てきたようなこの屋敷は、この
「アルヴァの妻・フレイヤと申します。軍の皆様におかれましては、夫が大変お世話になっております」
――うんうん、御父上に似なくて良かった……な、なに?……つ、つま?
ミーミルが顔を上げたのは、部下たちが混乱を超越し、救いを求めるような視線を彼に集めたのと同時であった。
そのまま、5人は顔を見合わせた。そこには、全員が驚愕の色を隠せないでいる。
この
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
見た目は子ども、中身は……オーズ夫人は、コ〇ン君みたいだな、と思われた方、
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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「
「も、申し訳ございません。クヴァシルは本日業務が立て込んでいるため……」
ミーミルの言葉に、奥方の大きな瞳は落胆の色に支配される。
「次官様は、今日ももじゃもじゃでしょうか……」
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