【8-7】兵士が生る樹 下

【第8章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 帝国東征軍の総司令部は、いよいよ混乱をきたしている。


 混沌狼狽こんとんろうばいに拍車をかけたのは、ヴァ軍の兵数が事前の調査と合わないことである。


 1万5,000と言われていた敵左翼・オーズ師団が3万以上……軍団規模に膨張して、味方右翼を蹂躙している。



 2カ月前、ヴァ軍が布陣を改めはじめてから、兵力も再編しているとの情報も帝国軍は把握していた。


 しかし、それは、敵の涙ぐましい――足りない部隊から割いた兵員を、より足りない部隊へ割り当てる、あわれむべき所業――としか彼らは見ていなかった。


 ところが、敵の兵力増強は左翼だけでなく、右翼においても各所で確認された。


 副司令官のリア=ルーカー中将が、片眼鏡を外し右目を強くこすっても、1,000といわれたヘルヴェグ地区のヴァ軍は、3,000を超えるまでに増強されていた。


 また、参謀長のコナン=モアナ准将が、禿げ頭に汗を浮かべても、イアール地区では、2,000が5,000――。


 すなわち、当初7,000程度と目されていた、敵右翼のオリアン旅団は、1万3,000……師団規模にまで膨れ上がり、味方左翼のエイモン=クルンドフ少将(降格の上、総司令部から左遷)を押し返している。



「敵は、どこの部隊を両翼に回したのだ……?」

 ルーカーのこめかみから下がる鎖が、図上に力なく垂れている。


「『前面の敵が減った、もしくはいなくなった』という報告は、どの部隊からも届いておりません……」


 それどころか、左右両翼すべての戦線において、敵兵力が増強されているという。報告を終えた参謀・フォウォレ=バロル大尉の胸で、飾諸しょくしょが頼りなく揺れる。


 敗北に次ぐ敗北によって、ヴァナヘイム国内には、丙種合格者(兵役不適合者)はおろか、もはや徴兵適齢者すらほとんどいない――そのことも、度重なる諜報活動により、帝国軍は掴んでいた。


 つまり、敵における兵卒の総数は、減ることはあっても増えることはないはずだった。



 だが、目の前のヴァ軍は、すべての隊において兵数が加増されている。辻褄つじつまが合わないではないか。


 先任参謀・アラン=ニームド中佐がバロルらに詰め寄るも、明確な回答は聞かれなかった。


「……さらなる徴兵を民に課したのか」

 参謀長・モアナは、その禿頭を振りながら、うめくようにつぶやいた。


 そうなると、敵は老人や子どもまで、戦場に狩り出したのだろうか。


「……」


「……」


 副将・ルーカーから参謀・バロルまで、帝国総司令部の幕僚たちは、一様に言葉を失った。



 彼らは、黒狐・ターン=ブリクリウが残していった子飼いの将校であり、帝国軍のなかでは、有能な部類に属する。


 巨額な資産を保有している等の特別な事情でもない限り、低能・無能が、狐面の大将に重用されることなどないのだ。


 しかし、動くはずのなかったヴァナヘイム軍が突如とした攻勢に転じて以来、彼らの想定を超える事態が続いている。


 しかも、その展開の速さに、彼らのなかについていける者はいなかった。







【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴァナヘイム軍は、どのようにして兵力を増強したのか、疑問に思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「捕虜 上」お楽しみに。


「なに、敵兵を捕らえただと」

「はい、先ほどまでの戦闘で、所属する部隊からはぐれた模様です」


副官キイルタ=トラフから、敵兵3名を捕縛したとの報告を受けた時、レイスは塹壕内で部下たちと簡素な昼食をとっていた。

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