【7-14】貴婦人 下 《第7章 終》

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 イエロヴェリル平原は、間もなく夏本番を迎える。という名の持つ広大なにとどまる帝国軍は、猛烈な日差しに、連日さらされることになる――。


 目の前に座る白皙はくせきの男は、政治から軍事まであらゆる分野に精通している。森羅万象を知りつくす様から、「歩く帝立図書館」とも言われているのだ。


 そのような相手に対し、幼年学校の地理のような解説をすることに、クヴァシルは気が引けた。


 しかし、このヴァナヘイム国・軍務省次官は、指毛の生えた武骨な手で白磁のカップをソーサーに戻すと、居住まいを正し声に力を込める。


「我が主君は、貴国と手を携え、共に帝国に対抗しようと申しております。貴国も立ち上がって頂けないでしょうか」



 隣国の使者からの提案に、さしたる興味を覚えないかのように、ラヴァーダは反問する。

「……貴国と我がブレギアは、この30年しのぎを削ってまいりました。それなのに、ここにきて、にわかにをなさるものなのでしょうか」


 幼き頃、カーヴァル家に養子に出された現・ブレギア国主が、初陣を飾ったのも対ヴァナヘイム戦である。以来30年、両国は攻防を繰り広げてきた。


 この宰相は、これまでの人生の大半において、幼馴染である第八王子を補佐してきた。彼の視点からすれば、両国の対立はブレギア建国から十数年にとどまらない。


 否、この草原ヘールタラの民族衣装をまとった美丈夫は、自分たちの入植以前、はるかいにしえより繰り返してきた両国の西征東伐まで見据えているはずだ。



 想定どおりの質問とはいえ、クヴァシルは、ゆっくりと言葉を選ぶように応じた。

「我が主君……いえ、我が軍の総司令官アルベルト=ミーミルは、このように申しておりました」











くちびるを失ったら、歯はさぞや寒いことでしょう』――と。




 投げかけられた言葉に、ラヴァーダのすみれ色の瞳がいっそう色を濃くした。その瞳にかぶさる長い睫毛まつげは、彼の知性をもっともよく表しているように思われる。



『このようにお伝えすれば、宰相閣下はきっとご理解いただけます』


「そのようにミーミルは申しておりました」

 クヴァシルは、てのひらに汗をかいていた。それが軍服のズボンにも伝わったのだろう。もものあたりが冷たい。


「……」

 ヴァナヘイム国・総司令官の言葉に感じ入るものがあったようだ――ブレギア国・宰相が沈思したのは、わずか数瞬のはずだった。しかし、ヴァ国・使者一行の体感としては、悠久の時間ときのように感じられた。



「……貴軍の司令官殿は、面白い表現をなさる」

 ラヴァーダの美しい口もとが、三度みたびほころんだ。





第7章 完

※第8章に続きます。




【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴァナヘイム国軍務省次官と、ブレギア国宰相のやり取りを楽しんでいただけましたら、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第8章「ヴァ軍の反撃」が始まります。


総司令官としての公的色合いを強め、

草原の国・ブレギアの支援を勝ち取り、

そして……。


3つの準備を整え、いよいよ、ヴァナヘイム国軍大将・アルベルト=ミーミルが動き出します。

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