【5-17】少女の冒険 ⑪ 脱兎
【第5章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428838539830
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ゴロツキやならず者から逃げるため、夜の路地を少女は走った。
しかし、次官の借家への最短ルートをとるため、昼間と同じく路地裏に入ったのは失策だった。
「子ウサギがそっちに逃げ込んだぞ」
「逃がすなッ」
「お嬢ちゃん、こんな時間にどこに行くのかな」
「おじさんと楽しいことしよーぜッ」
男たちは、弱った少女を言葉でいたぶることに、愉悦を覚えているようだ。
「痛くしないからだいじょうぶ」
「じっとしていればいいから」
下卑た笑いが、路地裏にこだます。
ついに、女たちに紅い後ろ髪を引っ張られ、少女は顔面から転倒する。
鼻をぶつけたことによる激痛に、うめき声も出ない。
「さっさと済ませちまいな」
「金貨を産みだす子ウサギちゃんを殺すんじゃないよ」
少女は
重い、臭い、気持ち悪い、怖い――。
悪臭ただよう毛むくじゃらの顔が至近に迫ったときだった。
一筋の光がこちらを照らした刹那、数発の銃声が立て続けに鳴り響いた。
けたたましい音と共に、耳元に銃弾が飛び込んでくる。1発は男の頬をかすめ、鮮血がたちまち噴き出す。
暴漢は悲鳴を上げ、下半身むき出しのまま
「うるさくて、眠れねえんだよ」
左手にはカンテラを、右手には拳銃を持った男が不機嫌そうに立っていた。
光越しでも、ひょろりとした背格好とその頂にある特徴的なボサボサ頭は、はっきりと視認できる。銃口は狂いなくこちらを狙っていた。
「次は、そのやかましい口に、鉛弾を馳走しよう」
言葉とは裏腹に、クヴァシルの表情はこれまでないほど険しいものだった。
体の大きな男が崩れると、ならず者たちは脆かった。強請女たちは舌打ちし、暴漢たちはズボンを戻しつつ、潰走していった。
「こんな時間に1人で出歩いちゃ、ダメじゃねえか」
軍務次官は膝を屈めると、その大きな掌を、少女の小さな頭にそっと載せた。
ソルは大粒の涙を止めることができなかった。顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。
軍務省次官・ケント=クヴァシルとその使用人は、夜中に自宅で困っていた。
なんとか、少女をここまで連れて来たはよいが、この貸家は彼ら2人、男所帯である。おっさんたちでは、めそめそが続いている少女を、どのようになだめるべきなのかが分からない。
そこで、クヴァシルは受話器を手に取った。
「怖かったね。頑張ったね」
バー・スヴァンプの女主人・レリル=ボーデンは、快く店を抜けてきてくれた。深夜にもかかわらず、彼女は辻馬車を飛ばして駆け付けたのだった。
ふくよかなママの胸に包まれ、ソルはようやく落ち着きを取り戻したようだった。ホットミルクを少し口に含むと、ぜんまいが切れたように眠りに落ちていった。
「なんだい、ろくな食材がないじゃないか」
エプロンを差し出した使用人は、ボーデンの視線によってしょげ返っている。青菜に塩とはこのことだろうが、塩はともかく、まともな野菜がストックされていない。
ボーデンは仕方なく、ひと口大に切ったジャガイモとニンジンを腸詰めの切れ端と一緒に炒める。塩と胡椒という単純な味付けながら、たちまち香ばしい香りが立ち昇る。それらを手際よく皿に盛りつけると、半熟状の目玉焼きをその上に乗せた。
「あの
マッシュルーム型のお店へと戻る女性マスターを、クヴァシルは表に駐めていた辻馬車まで見送った。
「ママ、すまない。助かった」
「11歳の子どもにあんまり吹き込むんじゃないよ」
ボーデンは掲げた右手をひらひらさせながら、車内に消えていった。彼女は次官から差し出された車代を受け取らなかった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「
大きな声量の意見や、数の多い側の行動が本当に正しいのか。それは帝国のやり方と同じではないのか。
夜、自室に隠れながら新聞を開いたソルは、首をかしげるばかりだった――。
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