【15-8】生存欲
【第15章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859351793970
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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休憩明けも帝国軍総司令部では、ヴァナヘイム軍・元総司令官の処遇について、議論が続いていた。
「ミーミルの消息が
「さよう、万が一ということもありうる」
シェイ=グラフ少将をはじめ意見を述べる将軍たちは、いつの間にか生存欲を出世欲で隠しきれなくなっている。
そんな彼らへ、冷や水を浴びせるように口を開いたのは、先任参謀・セラ=レイス中佐であった。
「ミーミルなど、もはや打ち捨てておいても、さしたる問題はありません」
将官が議論をしているさなかに、佐官が発言を許されるはずはないが、この背の高い紅毛は、元来そんな風習に
何より、彼はノーアトゥーン入城における最大の功労者であった。彼を
しかし、この若造の鼻にかけるような物言いは、相変わらず
「何を言うか、
「そうだ、敵の残存勢力がミーミルを担ぎあげたら、どうするつもりだ」
コナン=モアナ准将などは、頭皮と同じく心うちも隠そうとはしなかった。
この禿頭准将を皮切りに、生存本能に忠実な発言が、異口同音にして紅髪の先任参謀へ注がれる。
名誉欲や出世欲は、生存欲の隠れ
【15-7】人探し 下
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しかし、当の本人は目を閉じ、耳の穴を小指でほじったまま、批判の声もどこ吹く風といった体でやり過ごしている。
「願ってもないことです……」
レイスは小指に息を吹きかけるや、その
「
ヴァナヘイム国中に、敵の残党が乱立してしまった時こそ厄介なのだ、と紅毛の先任参謀は言う。
帝国軍がいくら薙ぎ払っても、散りつつ再びたかってくるハエのように、各所でゲリラ戦を繰り広げられたら、始末に負えない、と。
ミーミルという磁石に砂鉄が集まっていた方が、対処ははるかに楽なのだ、と。
「しかし、ふたたびミーミルにまとまった戦力を持たせてみろ……」
「そうだ、誰もミーミルを打ち破ることはできなかったのだぞ」
将官たちの声が震えている。レイスは鼻を鳴らした。
そんなこたぁ知ってるよ。揃いも揃って
どいつもこいつも正面(渓谷)を突破できなかったからこそ、俺が背後(王都)を獲ってやったんじゃねぇか。
そのおかげで、お前等はこうして、王都でふんぞり返っていられるんだろうが。
――こんな
上官の鼻息成分――先任参謀の胸のうちを、トラフは勝手に推測していた。
彼女はその灰色の瞳で、礼拝堂内をざっと見回す。
軍議の端席4つを占めるブランチ少将父子(父親と3兄弟)は、葬式のように静まり返っている。
ただでさえ夜戦は兵馬を用いるに難しいというに、なまじ複雑な作戦を立てて、ことごとくミーミルに裏をかかれた。悔やんでも失った将兵は戻ってこない。
参謀部の指示に背き、ミーミル撃破の好機を逸したルーカー中将は、穴があったら入りたいのだろう。
頭というスコップで足下を
ヴァナヘイム軍の不穏分子がミーミルという
「最初から我々がそれに対処する必要はないのです……」
ヴァナヘイム国には、収穫した穀物をエーシル神に供える前に、台車に乗せて町中を練り歩く風習がある。
ここで、レイスの思考の肝が開陳された。
彼の高調子な声は、礼拝堂の高い天井に心地よく響き、各将軍の耳もとに届いていく。
いつの間にか、不遜な若者が
「……ミーミルの身柄を差し出さないのであれば、それも大いに結構。ヴァナヘイム審議会を、散々揺さぶってやりましょう」
レイスは、思考の展開をこのように結んだ。
聴く者に、その長さをまったく感じさせないものだった。
もはや紅毛の上官は、帝国東征軍の頭脳そのものとなっている。
彼の背後に立つ黒毛の女性副官は、
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
いったい、レイスはどこまで見通しているのか――トラフと共に感動を覚えられた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「
「
帝国暦384年2月下旬のある日、先任参謀・セラ=レイスは、総司令官・ズフタフ=アトロンの宿舎へ、始業前から呼び出されていた。
どうやらこの総司令官は、和議の条件にはない砦破壊の黒幕が、先任参謀であることに気付いているようだった。
レイスの姑息なやり方は、アトロンの騎士道と相容れないのだろう。
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