【2-7】庭師将軍 上
【第2章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428630905536
【地図】 航跡 ヴァナヘイム国編
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
====================
ヴァナヘイム国軍・ヤンネ=ドーマル大将は、対帝国戦における3人目の総司令官であった。
しかし、戦死した先々代、捕縛された先代よりも、風采も戦果も上がらなかった。
新聞各紙は彼を「敗北将軍」・「庭師将軍」と名付け、無能・低能・無為・無策とあらゆる
さして家格の高くないドーマル家が総司令官に任じられたのも、「国王陛下が御執心の庭造りに、彼は最も秀でていたからだ」という。そのような噂話も面白おかしく記事にされた。
噂の出どころは、ドーマル家の家紋が樹木……あたりらしい。
ノーアトゥーンにおける彼の邸宅は、毎日のように投石を受けた。妻と子どもたちは王都から離れ、フレヤ外れのドーマル家領まで避難せざるをえなくなっている。
そのような司令官に、配下の将軍たちも愛想を尽かしはじめており、友軍たるフーゴ=ランディ准将の窮地にも、率先して動こうとする部隊はいなかった。
――同郷のフーゴまで見殺しにしては、私の求心力はなくなる。
3月14日、ランディ旅団救出のため、ドーマルは仕方なく自軍3,800でイエリン城塞から打って出ることを決したのである。付き従ったのは、アルベルト=ミーミル大佐とその麾下の各隊2,000だけであった。
しかし、蛇行して流れるヴィムル河付近にまで軍を進めてみると、ランディ麾下各隊は既に壊滅していた。そのままヴァナヘイム軍は、エレン付近を
たなびく「下弦の月」の旗から、この帝国軍はマグノマン旅団であると報告されたが、ドーマルは
救出すべき友軍が消滅していた以上、引き揚げるべきである。幕僚たちは口々に撤退を進言したが、ドーマルはそれを容れなかった。
この帝国軍は、おそらくランディ旅団を
――味方の仇を晴らさずにまた逃げ帰ってでもしたら、私の名声はいよいよ地に落ちる。
――フーゴのことだ、むざむざ敗北を喫したわけではあるまい。
ランディ旅団から救援の要請を受けて、幾日も経過していない。そのわずかな期間に同旅団を壊滅させたことから、帝国側も相当な無理を重ねたものと思われる――前方に展開するミーミル大佐の見解やよしである。
目の前の帝国軍は、それなりの手傷を負っていることを、ドーマルは期待したのであった。
3月27日、ヤンネ=ドーマル大将は、総司令官直轄軍およびミーミル麾下各隊に攻撃開始を命じた。
ドーマルの予想どおり、帝国軍は機敏さに欠けた。マグノマン旅団とやらは、しばしば敗北し、その都度退却した。
とりわけ、「咆哮する狼」の戦旗
彼らは帝国軍の攻撃をやり過ごすと、頃合を見計らって反撃に移る。整然と斉射が行われ、帝国軍の隊列が乱れる。その隙をつくようにして、同連隊は距離を縮めていく。
ヴァナヘイム軍司令部は沸いた。局地戦ではありながらも、ヴァ軍の久々の勝利であった。ドーマルは、幕僚たちの自分を見る目が改まっていくことを肌で感じた。
それでも、くだんの帝国軍は一定の距離で踏みとどまると、健気にも反撃をしてくる。しかし、それも弱々しいもので、ミーミル連隊が鋭い打撃を加えるや、次第に崩れはじめていく。
ヴァナヘイム軍の勝利は続いた。ミーミル連隊の狼の旗が、月の旗掲げる帝国軍を西へ西へと追い込んでいく。
「言うことを聞かない将軍どもが、この場に居ないのは残念ですね」
「ああ、オーズの猪あたりにでも見せつけてやりたいわ」
幕僚たちを前に、ドーマルの鼻息は自然強くなった。従軍記者たちが追いつき始めたのを見ると、これ見よがしに自らも陣頭に立ち、サーベルを振るって攻撃を指示したのである。
総司令官ヤンネ=ドーマルが局地戦での勝利を重ねているという報は、後方イエリン城塞に籠るヴァナヘイム各軍にも伝わった。
なかでも、エレン城塞奪還の一報は、将校たちを
帝国軍に対する勝利の効果は大きかった。
これまで、総司令部の命にまったく従わなかった将軍たちのうち、ムール=オリアン少将・ヘルゲ=ウプサラ准将・ディック=フューリス准将が、ドーマル大将の意向に沿う姿勢を示し、中軍に合流したのである。
このため、ヴァナヘイム軍は、総勢2万近くまで膨れ上がった。ヴィムル河流域の戦場だけであれば、帝国軍を圧倒する数字である。
帝国軍は、遂に河の西側へ退かざるをえなくなった。
「猪どもは来なんだか……」
ヴィムル河を前にして整列した各隊を巡視しながら、ドーマルは鼻をひと吹きし、不平の意を鳴らした。
オーズ、ベルマン、アッペルマンなどヴァ軍の主力を成す将軍たちは、グラシル方面からの帝国軍に備えるとして、イエリン城塞を動かず、こちらに合流していない。
「ここで、さらなる戦果を挙げられれば、ヤツらも閣下を無視できなくなります」
幕僚たちの言葉に、ドーマルは馬上ひとつうなずくと、河の先に視線を向けた。
【作者からのお願い】
「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
宜しくお願い致します。
次回、「庭師将軍 下」お楽しみに。
4月24日午前8時、
この先も「航跡」は続いていきます。
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひこちらから、フォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます