第2話
「アリスちゃん…?」
二人の白衣姿の人物に両肩を支えられ、虚ろな目をしたその少女はふと顔を上げた。
自分の名前を呼ぶ声を辿ると、そこにはどこか懐かしい面影が、ぼんやりと見えた。
「アリスちゃん!」
少女には微笑む力すらなく、覚束無い足でゆっくりと歩いていた。
その少女の名前を呼んでいたのは、一人の男性だった。
少女の両肩を支える二人の看護師は、名前を呼ぶその男性を無視するかのように、ただ無言で、薄暗い廊下を進んでいった。
あの声が聞こえてから、一体どれくらい経ったのだろうか。
目を開けたアリスは、見覚えのないところに居た。
「…?」
自分のベッドではなく、かたくてやけに白いベッド。
なんだか、どうも寝心地が悪い。
そんなことを考えながら、起き上がろうとした時、両手を拘束されていることに気づいた。
「!?」
仰向けに寝たまま、落ち着いて自分の身体を眺めてみると、両足も、腹部も、ベッドに拘束されていた。
起き上がれそうにないと思ったアリスは、辺りを見回した。
すると、ベッドの脇には自分の腕へと繋がる点滴があった。
腕には点滴が刺されていたのだ。
「…病院…?どうして…?」
「気づきましたか?」
振り向くと、そこにはいままで定期的に通院していた病院の主治医が立っていた。
「先生…ここ…」
「ここは、あなたが通っている病院です。ご両親の同意の上、あなたには入院してもらうことになりました」
「…どうしてですか?」
主治医は溜め息を吐いた。
「アリスさん、あなた、死のうとしていたんです。一歩間違えていたら、いま頃ここには居なかったんですよ?」
「…ごめんなさい…」
「とにかく、今はまだ拘束を外せません。暫くは安静にしてもらいますので」
そう言い残して、主治医は去っていった。
どうやらここは精神科病棟の個室らしい。
「そっか…わたしは、まだ生きているんだ…」
アリスは悲しみのあまり、声を押し殺して泣いた。
アリスにとっては、死ぬことが最善の選択だと思っていたから。
そんな選択すら許されないという悲しみに溢れた日々が、暫く続いたのだった。
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