12:24 pm
午前中の作業を終えた白渚は帽子を脱いで、汗に濡れた坊主頭を純白のタオルで触りながら、ぞんざいな口調で長髪の青年に尋ねる。
「よぉサク坊…今日の朝なんだけどよ、羊の奴ら…やけに騒がしくなかったか?」
それは素朴な疑問であり、休憩時間における些細でありふれた茶飲み話の類である。
付き合いの長さからそれを理解する佐久田は肩意地を張らず、「そっすねぇ…」と適当に合わせて煙草に火を点けた。
たっぷりと煙を肺に入れて、数秒後大きく吐き出した佐久田は白渚に同意する。
「確かに、俺らがたたき起こす前からちょっとばかりメェメェ鳴いてた気もしますけど、おおかた腹でも減ってたんじゃないっすか?」
その言葉に追従するように帽子を被り直した白渚は豪快に口を開いて、大きな声でハハハと笑う。
「かもな! 羊どもが交わす言葉なんか飯かセックスくらいのもんだろうな!」
「そっすよ。まさか哲学や政治の話じゃないでしょう? さ、俺らも畜生にならって
食欲に素直に従った佐久田は咥え煙草のまま立ち上がり、甘ったるい香りの紫煙を残して緩慢な動作で食堂に足を向けた。
注釈をしておくならば、彼達はそれなりに善良な人間であり、別段偏った思想を持たない代わりに余りにも平和的で無知な生物である。
その証拠に彼達は知らないのだから。
数時間前に
数時間後にジャックと名乗る羊を先頭に畜産動物達が自らの権利と自由を求めて蜂起し、攻めてくることなど知る術もない。
更に詳細に説明するのならば、その端はこれより三十分後に牧場の敷地内に落下した隕石――その表面に付着した地球外生命体であることなど夢にも現実にも思わなかっただろう。
尤も、現代社会を慎ましく逞しく生きていて、文化的かつ原始的でもあるアンビバレンツな
何故ならば、地球外知的生命体の傀儡となり、人知を超越した頭脳に常識を覆す肉体を持った羊達によって、彼達を含めた人類の一切が全滅するまで。
さほど時間を必要としなかったからだ――。
フリーダム・イン・ザ・プリズン 本陣忠人 @honjin
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