終点【二人声劇】

ぽぽろん

終点(1:1)【声劇台本】

台本 終点 


作者 ぽぽろん


男性1:名無し 女性1:少女 


所要時間:20~30分


(M):モノローグ


少女:(M)私は今、無断でバスに乗車している。本来、このバスは特別な乗車券がなければ乗ることが許されていない。だから、私は少し罪悪感に苛まれていた。


名無し:こんにちは、今からバスの掃除をしたいんだけど、えっと…。


少女:あっ!はい、すみません。私、早く乗ってしまったみたいで。


名無し:一応、確認なんだけど、乗車券は持ってる?このバスは特別なバスなんだけど?


少女:あ、あの…あなたはこのバスの運転手さんですか?


名無し:いや、違うよ。運転手は別にいる。


少女:そっかぁー。良かった。あの…実は、私、乗車券持ってなくて…。


名無し:それはいけないな。今、すぐバスを降りた方がいいと思うよ?


少女:えっと、あの!!何でもするので!!どうか運転手さんには私の事、内緒にしてもらえませんか?


名無し:んー、どうしようかな。じゃあ、とりあえず、時間もないし、黙っている代わりに一緒にバスの掃除とかでも手伝ってもらおうかな?


少女:えっと、ごめんなさい…。私…生まれつき目が見えないんです。だから、できることが限られちゃうと思うんですが、それでも、大丈夫ですか?ごめんなさい…。


名無し:別に謝らなくていいよ。そうか、目が見えないんだね。じゃあ、もしかして、その分、耳が良かったりするのかな?


少女:はいっ!耳には自信があります。音を聴き分けたりするのは得意です。


名無し:それなら、君にぴったりの仕事がある。それを手伝ってもらうことにするよ。これからバスを発車させるから、着いた停留所でどんな気持ちになるか教えてもらえるかな?


少女:分かりました。それで黙っていてもらえるなら、頑張ってお手伝いします。でも、なんであなたは、運転手さんでもないのに、バスを走らせることができるんですか?


名無し:それは、運転手から乗客が問題なく終点まで辿り着けるように、これから通る道の下見をするように頼まれているんだ。


少女:なるほど、そういう理由でしたか、納得しました。それはそうとして、音を聴いて気持ちを話すってどういうことですか?


名無し:うーん、なんでもいいよ。楽しいとか、悲しいとか、懐かしいとかそういった君の気持ちを教えてよ。


少女:すみません、ちょっとイメージがわかなくて、もう少し具体的な例とか何かありませんか?


名無し:じゃあ、これから何ヵ所か停留所に止まるから、そこで音を聴いて、その音に関する君の想い出を聞かせてもらえるかな?それならわかりやすいでしょ?


少女:分かりました。そういうことなら、任せてください。私の想い出を話せばいいんですね?それで運転手さんに私のことを黙っていてもらえるなら、それでお願いします。


名無し:じゃあ、交渉成立ということで、内緒にするよ。約束する。


少女:ありがとうございます。私、頑張りますね!


名無し:じゃあ、今からバスを掃除をして、エンジンをかけて、出発するから少し席に座って待っていてくれるかな。


少女:はい!わかりました。そうだ!すっかり聞くの忘れてたんですが、あなたの、お名前は?私の名前は…(申し訳ないんだけどにかぶせる)


名無し:申し訳ないんだけど、名前は規則で言えないことになっているんだ。んー、でも、呼びにくいだろうから…名無しさんとでも呼んでくれ。だから、君の名前も言わなくていいよ。


少女:はい…。わかりました。


少女:(M)このときの私は藁をもすがる思いで、このバスの終点に辿り着くことしか考えていなかった。だから、気持ちに余裕なんてないはずだったのに、バスのエンジン音や振動が心地よく感じられて、本来の目的を忘れそうだった。


名無し:よし、掃除も終わったし、そろそろ、出発するかな。準備はいいかな?


少女:大丈夫です。私は停留所で、音を聴いて自分の想い出をお話しすればいいだけですよね?


名無し:うん。そうそう。すぐに着くから待ってて。じゃあ、よろしくね。


少女:はい、よろしくお願いします。


少女:(M) 本当に数分で着いた。とは言っても私は目が見えないので、時間の感覚が正確ではない。だけど、そんなに時間はかからなかったように思う。


名無し:着いたよ。じゃあ、バスを止めるね。どんな音がするかな?


少女:えっと、雨の音がします。


名無し:そうだね。なんの変哲もない。ただ、雨が降っている場所だよ。それじゃあ、君の想い出を聞かせてもらってもいいかな?


少女:雨ですか…。えっと、私、さっきもお話したんですが、目が見えないので、雨のにおいとか音には敏感なんです。でも、急に降ってくるにわか雨だけは、いつも対応ができなかったんです。そんなときはいつも大切な友達がよく傘を持って来て、傘をさしてくれたんです。


名無し:今の君、すごく暖かい顔をしているよ。とても仲が良い友達だということが伝わってくる。


少女:そうですね。その友達はとても親切で、私が困ったときは、必ず助けてくれる人でした。


名無し:じゃあ、きっと急な雨が降る度に、その友達が助けてくれたんだね?


少女:そうです。あの日も助けてくれました。


名無し:じゃあ、雨は好きな音なのかな?僕は雨も雨の音も結構、好きなんだよね。君はどう?


少女:いえ。私は雨の音が嫌いです。


名無し:どうして?


少女:言いたく…ありません。ごめんなさい。


名無し:そっか、顔が急に険しくなったから、理由は聞かないでおくね。じゃあ、気を取り直して、次に向かうね。いいかな?


少女:はい、お気を悪くさせてしまったら、すみません。お願いします…。


少女:(M) 名無しさんの言う通り、私は雨がの音が本当は好きだった。友達が来てくれることが多かったから、でも嫌いになった…。


名無し:さて、次の停留所に着いたよ。今度は何の音が聴こえるかな?


少女:えっと、ピアノの音ですか?曲って言った方がいいのかな?


名無し:どちらでも、大丈夫だよ。


少女:そうですか。それに私の知っている曲に似ている気がします。


名無し:そうなんだ。それじゃあ、その想い出を聞かせてもらってもいいかな?


少女:えっと、実は、私、少しピアノが弾けるんですよ!目が見えないのに、すごくないですか?


名無し:それはすごいね。目が見えないのに、ピアノが弾ける人なんて少ないんじゃないかな。


少女:そうですね。少ないかもしれませんね。えっと、容易に想像がつくと思うんですが、最初は指が思うように鍵盤に触れられなくて、上手くいかなかったんです。でも、聴いてほしい人がいたから、何度も何度も練習して、一曲だけ弾けるようになったんです。


名無し:そうなんだ。すごく努力をしたんだね。今、ここにピアノがあったら、ぜ

ひ、弾いて聴かせてほしいな。


少女:きっと、名無しさんも驚きますよ。その弾ける曲がこの外から聴こえてくる曲にそっくりなんです。もしかして、同じ曲なのかな。


名無し:さぁ、同じ曲かどうかは分からないけど、僕は好きな曲だな。君にはどんな風に聴こえるのかな?


少女:すごく心地よくて、暖かい曲ですね。


少女:えっと、バレバレだとは思うんですが、さっき話した友達に聴かせたくて、ずっと練習してたんです。実際に、聴いてもらったら、彼が即興でバイオリンを合わせてくれてすごくすごく嬉しかったのを今でも覚えてます。


少女:彼と何かを一緒に出来ることって、本当に限られてたから、すごく嬉しくて、そのあと、お願いして何度も一緒に弾いてもらいました。


名無し:そうなんだ。とても暖かい思い出だね。そんな思い出の曲なら僕も聴いてみたいな。今度、機会があったら弾いてもらえないかな?


少女:名無しさん、ごめんなさい。ピアノはもう弾かないことにしたんです。


名無し:どうして?また雨みたいにピアノが嫌いになったの?


少女:いえ、嫌いじゃないんですが、ピアノはもう弾かないことにしたんです。


名無し:僕は聴いてみたいけどな…。でも、理由は聞かないでおくね。


少女:ごめんなさい。


名無し:そう君が決めたなら仕方ないね。じゃあ、次の停留所に向かうとするかな。


少女:はい…お願いします。


少女:(M) この曲を弾くと友達の事を思い出して、辛くなるからもう弾けない。名無しさん、聴かせてあげられなくて、ごめんなさい。


名無し:停留所に着いたよ。今度は何の音が聴こえるかな?


少女:え!?まさか!?花火の音ですか?


名無し:そう、花火。君は実際に見たことはないんだよね?


少女:ええ、そうですね。目で見たことはないです。あっ!でも、線香花火はやったことがあります。夜空に浮かぶ花火の小さいイメージだって、友達に教えてもらいました。


名無し:たしかに、そうだね。夜空の花火も丸く円を描いて360度、四方八方に光を飛ばして、音が鳴って、最後は、余韻とともに消えるもんね。君はどちらの花火の音が好きなの?


少女:どちらの花火の音も素敵ですよね。でも、あえて選ぶなら、私は夜空に浮かぶ花火の大きな音もよりも、線香花火の小さな音の方が好きです。


名無し:それは、どうして?


少女:遠くの大きな花火の音だと、同じものを意識しているって気がしないからです。目の前の小さな音だったら、火薬のにおいもするし、友達と同じ時間や空間を共有しているって思えるんです。


名無し:じゃあ、友達と一緒にする線香花火は好きなんだ?


少女:そう…ですね…嫌いではないですね。


少女:友達と一緒にどっちの方が長く、線香花火を灯らせていられるか、よく勝負をしました。私、目は見えないけど、音で分かるので、ズルはさせませんでした。うん、すごく楽しかったな。


名無し:もっと、一緒に線香花火やりたかった?


少女:いえ、もうしなくて、いいと思っています。


名無し:そっか…でも、君と同じで僕も線香花火の方が好きだよ。


少女:本当ですか?なんだか、名無しさんに共感してもらえると嬉しいなぁ。


少女:(M) 私は名無しさんに自分の想い出を語ることで癒されていた。そして、同時に少しずつ後悔をし始めていた。そして、次にどこへ向かうのか、楽しみになり始めていたが、その願いは叶わず、音の旅は急に終わりを告げた。


名無し:ごめん、君の話に夢中になってしまったせいで、本来の発車時刻までに元の停留所に戻れなくなってしまった。これは僕のミスだ。申し訳ない。


少女:それじゃあ、これからどうするんですか?私はどうしてもこのバスの終点に辿り着きたいんです!!!


名無し:うん、君はそうだよね…困ったなぁ。とりあえず、このバスは僕が終点まで運転することにするよ。


少女:それなら、私も一緒に連れて行ってください!名無しさんと私の目的地は同じですし、運転手さんにも内緒で行けて、都合がいいじゃないですか?


名無し:それはできないかな。君はここで降りて元の場所に帰りなよ。一緒に連れてはいけない。


少女:どういうことですか?さっき、約束したじゃないですか?お手伝いしたら、運転手さんに内緒でバスに乗せてくれるって。


名無し:もう君は、このバスに充分、乗っただろ?僕は終点まで君を連れていくとは約束していないし、僕が約束したのはあくまで、運転手に黙っておくということだけだよ。


少女:名無しさん!ずるい!そんな、こじつけや屁理屈、私は認めないわ!!!


名無し:君はさっき、雨の音は嫌い、ピアノはもう弾かない、花火もしないって言ってたけど、本当にそう思っているのか?終点に辿り着いてしまったら、もう二度と聴くことも、弾くことも、花火もできなくなる。それにこれから出会える新しい可能性を捨てることになるんだぞ?それで本当にいいのか?


少女:私の世界はもう終わったの…。名無しさんには関係ないでしょ?私はどうしても終点に行きたいの!


名無し:強情なところは相変わらずか…。実は、君に黙っていたことがもう一つある。終点で降りるためには特別な乗車券が必要なんだ。だから、君は終点で降りることはできない。だから、君はここでバスを降りて、元の場所に帰るんだ!


少女:じゃあ、名無しさんは?名無しさんはどうなの?名無しさんは終点まで行ったら降りるんだよね?なんで降りれるの?


名無し:僕は、きちんと乗車券を持ってるんだよ…。


少女:えっ…どういうこと?


名無し:元々このバスは僕のために用意されたものなんだ。それなのに君が先に乗っていたから、正直、驚いたよ。


少女:そう…だったんですか。じゃあ、運転手なんてそもそもいなかったんですね。名無しさんの嘘つき…。名無しさん、もしこのまま、私がバスに残ったら、どうなるんですか?


名無し:たぶん、一生、この小さな何もない、箱の中で過ごすことになると思う。


少女:じゃあ、名無しさんが一緒にいてよ?それなら、私、寂しくないし、楽しく想い出を語ったりもできるし、名無しさんの話も聞きたい。私…名無しさんともっとしゃべって、あなたのこと知りたい。


名無し:ごめん。この乗車券を与えられた持ち主は、必ず終点で降りないといけないんだ。そういう決まりなんだよ。


少女:そんなの、知らない!さっきから、決まりだとか、規則だとか知らないよ、そんなの…。私には関係ない!それに私は必ず終点で降りる。絶対に!


名無し:もう、時間がないんだ!到着時刻までに終点で降りなければ、僕は消えてしまう。困らせないでくれ。だから、君はここで降りるんだ。頼むよ。


少女:ねぇ、本当にどうしようもないの?何か名無しさんと一緒にバスを降りる方法はないの?


名無し:…。


少女:ねぇ!黙ってないで、なんとか言ってよ!ねぇ!ねぇってば!名無しさん!


名無し:もしかしたら、一つだけ…二人で降りる方法があるかもしれない。


少女:なにっ!?どうすればいいの?


名無し:それは…僕の乗車券を半分に切って、君に渡す方法。それなら、もしかしたら二人とも終点で降りられるかもしれない。


少女:そんな方法があるのに、どうして黙ってたの?


名無し:それは、半分の乗車券じゃ、君も僕も終点で降りられないかもしれないからだよ。乗車券を半分にするなんて普通は誰もやらないし、最悪、二人ともバスから一生降りられないかもしれない。


少女:私はもう帰る気はない!どんなに危なくても可能性があるなら、私はその可能性にかけたい!!わがままをいっているのは分かってるんだけど、私もここまできたらもう譲れない。だからお願い!


名無し:わかったよ。じゃあ…。乗車券を半分にちぎって渡すよ。ほらっ。どうぞ。


少女:うん。ありがと。それに、ごめんなさい。私のせいで危険な目に合わせてしまうかもしれない。


名無し:大丈夫だよ。気にしないで、どんなことになっても絶対になんとかするから。


少女:(M) 今、思えば、私は最後まで彼に救われていた。そして、私は、ずっと気が付いていなかった。耳が私にとって唯一の自信だったのに…。


名無し:さぁ、終点に着いたよ。じゃあ、きちんと降りれるか確かめるために、僕が先に降りるから、君は後から降りてきて。


少女:わかった。降りたら、どこにも行かないで、私を待っていてくれるんだよね?


名無し:もちろん、すぐに会えるよ。じゃあ、またあとでね。


少女:またあとで、って降りたらすぐに会えるのに。変なの。


少女:(M) 名無しさんが先に降りて、私が降りようとしたその瞬間、バスのドアが閉まる音がした。私は、最初、何が起きたか分からなかった。


少女:名無しさん!どういうことですか?


名無し:君は強情だからね。こうしないと最後まで付いてきたでしょ?


少女:どうして?何で?嫌だ、開けてよ。お願いだからこのドアを開けてよ。


名無し:あとの事はお願いします。君はまだこっちに来てはダメだよ。また向こうで会えるから、そのときはよろしくね。


少女:えっ!?どういうこと?なんで、どうして?


名無し:最後に会えて、嬉しかったよ。


少女:名無しさん、ねぇ、名無しさん、ねぇってば。私を置いていかないでよ…お願いだから。


少女:(M) もう声は返ってこなかった。しばらくして、私の肩にやさしく、暖かい手が触れた。その瞬間、私は理解した。最初から運転手は乗っていたのだ。なぜ、運転手さんが最初から私をバスから降ろさなかったのか、その理由は分からなかった。その人は優しく席まで案内してくれた。


少女:(M) 私は半分にちぎられた乗車券を握りしめながら、呆然としていた。いや、違う、半分にちぎられたのは乗車券ではなく、ただの紙切れか何かだったのだろう。でも、そんなことはもうどうでもいい。私はまんまと彼の優しい嘘に騙されたのだ。そのうちにバスは発車し、花火の音、ピアノの音、雨の音、それらの音色が聴こえてきた。来た道を帰っていることが分かった。


少女:(M) その間、私は聞いているかどうかもわからないのに、なぜ雨の音が嫌いになったのか、なぜピアノを弾くのを辞めたのか、なぜ花火をしなくていいと思うようになったのか。運転手さんに向かって話し始めていた。


少女:(M) そして、すべてを語り終えた私は、泣き疲れて眠ってしまった。


少女:(M) 目が覚めると私はベッドの上にいた。


少女:ずるいよ。結局、私はいつもあなたに助けてもらってばかりで何も返せなかった。あの雨の日、私をかばってあなたが交通事故に遭わなければ、私が死んでいたのに。


少女:君の心臓をもらってまで、私、生きたくなかった。だから、死のうと思ったのに。でも結局、君に助けられちゃった。ずるい…でも、ありがとう。私、もう少し強くなるよ。だから、これからは近くで見守っていてね。


少女:(M) 心臓が強く、鼓動したように私は感じた。




《設定ならびにネタバレを含む》


少女

 生まれつき目が見えない。体が弱く病弱で、心臓移植を受けないと延命ができない。少年が交通事故になる原因を作ってしまい、移植後に彼女は自殺を図る。


名無し(少年)

 少女の幼馴染で雨の日に少女をかばって交通事故に遭い、病院で彼は最後に自分の心臓を意識を失っている彼女に移植してほしいと頼んだ。


⦅お願い⦆

 こちらは声劇台本となっております。

描写の表現をあまり入れていないので、演者様が想い想いに想像して、完成させていただけますと幸いです。

 

※ 目の見えない少女を主人公としているため、配慮のない改変だけはしないようにお願い致します。



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終点【二人声劇】 ぽぽろん @poporonium

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