『永遠の日常』

 帰りの会が終わり、放課後。僕は毎日、学校の校庭で遊んでから帰る。数人の友達とサッカーや野球をやるのだ。放課後の学校はなんだか閑散としてるので、それまで賑やかな学校と相反して、寂しい。

 2015年、3月4日、水曜日の15時30分。僕はいつも通りクラスのみんなと校庭へ向かった。僕は校庭に着くなりランドセルを校庭の隅に放り投げ、学校から借りたサッカーボールを蹴った。サッカーボールはきれいな放物線を描き、かすれたラインパウダーの上に乗った。すると、友達全員がボール目掛けて全力疾走。いつもと変わらない楽しい時間が始まる。

 17時。学校からもう帰れと放送が鳴った。今日の楽しい時間ももう終わりだ。みんな全力で遊んで、疲労困憊といった様子。気持ちよさそうに肩を伸ばしながら帰りの支度をしている。

「じゃあ、今日も僕がボール返してくるよ」

「おう、いつも悪いな」

それから僕はゴールネットの中に入ったボールを取りに行った。夕日に照らされたネットの網目がボールに映り、なんだか気持ち悪かった。

 僕はボールを手に取った。みんなの方を見ると、僕に向かって手を振っていた。僕は手を振り返して、心の中でため息をついた。ここ一週間、ずっとこの日の繰り返しなのだ。僕はこの日、3月4日から抜け出せない。

 遡ること一週間前の3月4日。僕はいつも通り学校で授業をこなし、放課後は校庭で遊んだ。そして17時に放送が鳴り、みんなは帰りの支度をして僕はボールを職員室に返す。返した後、僕は家に帰り、おいしい夕食を食べるはずだった。だが、僕が校舎を出たところで15時30分に戻された。当然僕は困惑したが自分の体が思い通りに動かせなかった。意識と行動が乖離してしまっているようだった。3月4日の15時30分からの僕の言動全てになぞらえるように僕の体や口が勝手に動く。心の中の僕は嫌だ嫌だと必死に抵抗するが、外見の僕は変わらない。僕は必死に思考を巡らせたが、どうやら僕の日常は切り取られてしまったようだ。つまり、15時30分から僕が職員室へボールを返すまでの時間が繰り返されているというわけだ。

 初めてこのサイクルにはまった日から1ヶ月。未だに今日は3月4日だが、心の中の僕は外見の僕に融合しつつあった。最初の乖離がどんどん薄くなっていく。僕の自我は消えてしまうのか。

 それからさらに2ヶ月。あれから外見の自分に乗っ取られそうになったが、なんとか自我を強く保ち、安定して来たところだった。冷静にこの状況を把握する余裕も生まれてきた。他の友達もこういう状況なのか。そもそもなんでこんな状況に陥ったのか。いくら冷静になったって疑問は尽きないが、確かめる術はなかった。

 僕が過ごしていた何でもない日常は切り取られてしまった。僕の日常は永遠に繰り返される。そして僕は何年もの間、嫌だ嫌だと嘆き続ける。


「じゃあこの時間の頭とケツを切って、永遠に繋げちゃおうよ!」

「うん、いいね。楽しそう!」

「それにしてもこの『時空間編集アプリ』っておもしろいね!」


 これまでのものに比べて短い作品だったが、海斗は最も恐怖を感じた。もし自分がこうなったら。考えるだけで恐ろしい。

 店主の孫はかなり変わった性格のようだと海斗は思った。協調性が高く明るい性格にも関わらず、陰気な発想ができるからだ。ここまでの所、必ず主人公はマイナスの方向に向かっている。また、読破した4作品を通じて奇妙な点が1つあった。それは日付けが具体的過ぎるということだ。日付けを明確にする作品は、大体それが物語と関係している。だが、これの場合接点が見つからない。無駄な情報を追加するのは小説としてはいかがなものかと彼は思った。やはり、店主の孫は小説家には向かない。

 

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