好きなコトアレルギー

asai

好きなコトアレルギー

多くの研究者が集う学会で、

一番大きな会場の壇上に上がった教授は静かに語り始めた。


「私は長年、アレルギーについて研究してきた。


昨年まで体調を崩し、リフレッシュ休暇をいただいて2、3年ほど現場を離れていたが、今日は、新しく得られた結果を含め、これまでの私の研究で得られた知見を発表したい。


アレルギーはみなさんご存知だろう。

免疫反応が特定の抗原(アレルゲン)に対して過剰に起こることだ。


アレルギーが起きる原因は大きく分けて二つのパターンがよく見られる。

花粉や、ハウスダストのようにアレルゲンを受動的に接触した場合や、

ネコに過剰に接したり、パンを食べ過ぎたりと能動的に接触すると罹患する場合がある。


長年、物質のみが抗原になると考えられていたが、

私は今回、常識を覆す発見をした。


それは花粉や食べ物だけでなく、”人や行為もアレルゲンになる”ということだ。

私はこれを“好きなコトアレルギー”と名付けた。


例えば皆さんにも、恋人のことが好きすぎてフラれてしまったという経験はないだろうか。

当事者は、過剰な愛が相手にとって負担となってしまった結果フラれたと錯覚してしまいがちだ。


しかし実際はそうではない。


恋人に接触しすぎた故に、

身体が恋人をアレルゲンとみなして免疫機能が働いたことによるものであることがわかった。


そのアレルギー反応として、自らフラれるような行動を無意識にとるようになり、結果フラれるのだ。


我々はさらに踏み込んで考えた。

もしフラれなかった場合どうなるのだろうか。

実験で検証してみたところある結果が得られた。


いわゆる“生理的に受け付けない”という状態になる。


思春期の女性を例にとってみよう。

彼女らは父親の衣服と一緒に洗濯したがらなくなったり急に反抗的になったりと、突然父親が嫌いになる。

これは好きなコトアレルギーによる“生理的に受け付けない”状態だ。


幼少期に父親にベタベタしていた女性ほど、嫌悪感の度合いは高まる。

身体が父親をアレルゲンと認識し、第一フェーズの無意識の嫌がらせを経て、第二フェーズの意識的な嫌悪が発現するようになる。

個人によって閾値は異なるが、父親との接触時間が累計70000時間を超えると発症する。


好きな人や好きなモノであればあるほど、アレルギーの進行は早く深刻になる。

芸能の分野でも古参のファンが急に過激なアンチになったりするのも同じメカニズムで説明できる。


自己防衛機能が認知機能まで及んでいることがわかり、

非常に興味深い結果が得られた。


その先の病状については詳しいことはまだわかっていない。

好きなコトアレルギーで苦しむ人々を1日も早く救うべく、より力を入れて、これから研きゅウッッ?!?」


博士は倒れそのまま病院に運ばれて息を引き取った。

好きなことアレルギーによるアナフィラキシーショックだった。

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