4
真夜中の2時頃。
人気がない場所に金髪の女性が歩いている。
その顔は化粧もせず、老けているように見える。
目は虚ろに、ただひたすら進む。
その腕には7歳程だろうか、子どもが抱えられている。
子どもはぐっすりと死んだように眠っている。
女性は辺りを見回し、裏路地に入る。
慣れた足取りで、奥へ奥へと進む。
住宅街から離れ、近くには森が見える。
怪しげなフェンスを乗り越え、怪しい小道を抜けていく。
と、大きな建物が現れた。
何かの施設だろうか。
入口にはサングラスに黒いスーツを着た男達が立っている。
その体には不思議な紋章が刻まれている。
女性は子どもを片手にその男たちに声をかけた。
「Infinite possibility…」
「誰だお前は?何故その言葉を…」
「は?これでも分からない?」
そう言って女性はスカートを捲る。
その太ももには、禍々しい赤黒い烙印が押されてあった。
「!!お前はもしかして…」
「…久しぶりだなぁ…『瞬殺の鬼女』…」
女性が後ろを振り向くと、サングラスを掛けた大男が現れる。
顔には大きな傷があり、その手の甲には同じような赤黒い烙印が目立つ。
その風貌は周りの男とは違う、重々しい威厳を放っている。
足が悪いのか杖を着きながらゆっくりと進んでくる。
黒いスーツを着た男はその大男に深々と頭を下げる。
「よっす。久しぶりだな。刃乃」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ…今は外だ…てめぇ今更何しに来やがった」
刃乃と呼ばれたその大男は女性に近づく。
以前からの知り合いのようだ。
刃乃は手に持った子どもに気がつくと眉をひそめた。
「なんだ…そのガキは」
「…分かるんだろ?」
「まさか…」
女性は大男に見せつけるように子どもを差し出す。
子どもをじっと見つめ、刃乃は険しい顔になる。
「こいつぁ…てめぇの子か」
「他に誰がいるんだよ」
「何だこの力は…異常だ…異常だぞ…」
そう呟く刃乃の、サングラスの奥が輝いてるように見える。
女性は真剣な顔で見つめる。
「これやるよ。育てれば最強の兵器になるだろ?」
「ふふ…こんなんでてめぇ…罪を晴らしたつもりか」
刃乃がスッと杖を抜く。
持っていた杖は刃物が仕舞われている仕組みになっているらしい。
女性の首筋に刃先が当たる。
「まぁ待て、待てよ。こいつの能力がどんな物か教えてねぇだろ」
「本当に使えるのか?所詮ただのガキが」
「こいつは…死なねぇんだ。いくら殴っても蹴っても死なねぇんだよ…!あはは!」
女性は目を見開き、笑い出す。
その姿を見て、刃乃はニヤリと口元を緩ませる。
「このガキ…本当に不死なのか…?」
「不死っつーか再生しやがる。傷も綺麗さっぱりな」
「へぇ…なるほどなぁ…そりゃあ…」
杖を仕舞いながら子どもの顔を眺める。
顔には痛々しい無数の傷がある。
しかし、整った綺麗な顔立ちをしている。
「お前に似て顔もいいな…取引の時も役立ちそうだ…」
「こいつを上手く育ててくれよ。‘’犯罪者‘’として」
そう言って女性は徐に袋を取り出す。
中には相当な金額が入っているようだ。
「チッ…ガキのお守りは好かねぇんだがなぁ…」
「足りねぇことは分かってる。また返しに来る。」
「まぁこいつにはそれなりの価値があることは分かった…俺に任せろ…」
刃乃が静かに手をあげると、先程の黒いスーツの男達が女性から子どもを受け取る。
子どもはまだ深く眠ったまま、動かない。
「あぁ…こいつは何て名前だ…?」
「……綺理……。綺麗の綺に理。」
「きり…か…似合わねぇ名前だな。」
「じゃ、よろしくな」
女性は軽やかな足取りで去っていった。
刃乃は施設の中に連れて行かれる子どもを横目に考え込んでいた。
暫くして黒いスーツ男を呼び付け、紙を受け取る。
何かをさらさらと書き、ニヤリと笑う。
そして夜空に浮かぶ満月に紙を掲げた。
「今日からお前は刃乃鬼利…鬼利だ…」
どことなく不気味な笑い声が響き渡った。
Nightmare うみのも くず @Kuzha_live
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