エピローグ2

それは、アヤたちが最奥部に向かう少し前の話だった。


サイズは最奥部のエリアの祠に腰かけ、思考を巡らせていた。


エリアも馬鹿ではない、見えないところで何かしら手を打ってくるだろうが今の自分に人間如きがいくら来ようが敗北は無いとサイズは考えた。


そして、あのガルドという男の事を考える。


あいつは俺の顔に二回も泥を塗っ。絶対に許さない。そのためにわざわざ奴と仲が良さそうだった人間を一人ゴーレムに連れてこさせてたんだ。せいぜい楽しませてもらうかね。


そんなことをサイズが考えていると、入口の扉から白いローブを来た女性が入って来た。女性はローブ越しにもその豊かな肢体を確認できるほどで、顔については道化師のマスクをつけている。


「ウーノか…」


やや苛立った声でサイズが言うと、ウーノと呼ばれたローブの女は少しオーバーに両手を広げた。


「まず、報告だ。人間が数名、こちらに向かっている。」


ウーノはやや冷たい印象を受ける声でそう話した。


「来たか…こっちはいつでもいいぞ!」


少し興奮気味に声をあげるサイズ。ウーノはそんな様子など気にせず続ける。


「それからお前の帰還についてだが今は無理だ。」


「なんだと!?話が違う!」


サイズは激怒する。余程の怒りだったのかその場のものが魔力放出によって少し削れるほどであった。


「まぁ落ち着け、お前は封印されていた身だ。考えてもみろ?何年も姿を見せなかった奴が、昔馴染みだから入れてくれという要望を聞くほど、うちが甘くないのはお前だって知ってるだろ?そのため委員会は条件を出してきた。」


「条件?どんな条件だ?」


「この地の完全制圧だ。それが叶った時…」


ウーノはくるっとその場で一回転する。


「陛下はお前と直接話をするそうだ。」


「そ、そうか!陛下に…陛下にお会いできるのか!」


サイズは心の底から歓喜した。この日をどれだけ待ちわびたことか…


陛下へ再びお会いする…この願いのためだけに今日まで戦ってきたと言える。


人間たちに協力したのも陛下からの命令だったからだ。とはいえソレイスとかいう人間の命令に従う日々は、サイズにとっては苦痛だった。


しかし、陛下の為に何かできることは無いか?と考え、使役した人間の魂を集めた。その結果、自らも限界以上の強さを手に入れることが出来た。


ところがエリアは人間を信徒とし、その中で最も優れる者を戦士として送り込んできた。エリアは魂喰らいの術を施した武器を人間の戦士に渡し戦いを挑んできた。


結果、死ぬことはなかったが瀕死の重傷を負った状態で封印されてしまった。


だが、最近になってこの女、ウーノが封印されているこの場所に侵入し、ゴーレムを使い封印に穴をあけてくれた。お陰で封印が弱まり、更にご丁寧にエリアの祠まで破壊してくれた。これで弱体化したエリアの吸収し、とりあえずの力を得た。


「復活させてやったからには、再び陛下の為に働いてもらうぞ?」


ウーノが言っていることは正直半信半疑ではあったが、ウーノの格好や桁外れの魔力、そして帝国からの命令書を読み、恐らく陛下の使いだろうと思った。


そして夢から糸を引き、人間たちを操る準備をした。そしてウーノからの魔力支援もあり、力もかなりの所まで回復した。


またいつの間にかウーノが町に魔物数体を放ったこともあった。全部駆除されたようだが、結果町には大打撃を与えることが出来た。ウーノは人間の魂がいくつか必要だったらしく、不必要な分はサイズが受け取った。


そんな作業の中、あのガルドという男に出会った。奴は1度目の夢の中で黒い影に刺され、2度目はエリアが手を貸したのか、明らかにこちらを殴りつけていたのだ。


こいつは自分を封印した人間と同じだと直感的に思った。だから今度はしくじらない。確実に仕留める為にこいつの仲間を用意して誘い込むようにした。


仮にエリアが協力して、何かしらの武器を渡したとしても、エリアの消滅寸前な弱々しい加護を受けた程度では何一つ出来まい。仲間を引き連れていようが今の自分が負けることはまず無いだろう。ガルドを殺せばこの苛立ちも消えてると確信している。

自ら止めを刺すために、敢えてこの南部坑道には魔物も兵士も少量しか配置していない。


元よりサイズは人間などどうでも良かった。それよりも陛下との再会こそサイズの願い。サイズが最後に陛下を見かけたのは随分と前の事だ。


陛下に仕える事こそサイズの生きている意味そのものであった。そしてどんな理不尽な任務にも耐えてきたのは全て陛下の為と信じていたからだ。


そして、陛下にこれまでの報告と、命令を頂く。たとえこの場で死ねと言われても、幸福に包まれながら自害する事も出来る。


「陛下は近く人間たちがデューランドと名付けた場所へ向かわれる。その時にでもと仰られていた。」


「デューランド…ああ、南端の小さい国か…何かあるのか?」


「さてね。では私は失礼するとしよう。武運を祈る。」


そういうとウーノはその場から立ち去った。するとサイズは町の制圧のためのゴーレムを用意することにした。サイズは期待感を胸に作業を進めた。



ウーノは南部鉱山の入口に向かって歩いていく。そして入口に着くと透けるように施錠された扉を突破し外へ出た。外に出たウーノは何か杖のようなものを出し、封印を施した鍵と鎖に杖をかざす。刹那、鍵と鎖は焼き切れるようにして切断され、地面に落ちた。すぐ後ろの出来事にも関わらずサイズが操っている兵士は全く反応しなかった。


そのままウーノは空へ舞い上がる。その高さは既に近くで一番高い山よりも高い位置だった。そしてそのまま空中で止まり、こちらに向かってきてる4人組を確認した。


「あれが…」


そういうとウーノはどこからか小さい石板を取り出す。石板の大きさは手のひらとほぼ同じ大きさだった。ウーノはそれを見て何か納得したようにうなずいた。


「さて、私も帰るか。もうここに来ることも無いしな。」


そういうとウーノは転移魔法を展開しその場から消えた。

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赤い蝶は夜空を舞う ペケックス @pekexer

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