エピローグ
その頃…
アーストンから出向した一隻の船が夜の海を進んでいた。この船はアーストンを出港して二日目になる。明日には近隣の港に到着する予定だ。
そこに白いフード付きのマントを来た少女がいた。
船は霧に包まれており、辺りを確認することが出来ない。甲板には彼女以外の足音は確認できない静かな甲板だった。
ふと落ちていた新聞を拾い、腰かけながら記事を読むと少しニヤリとする。
「ちょっと騒ぎになってるじゃん!面白~い!」
そうやって笑っていると、風が吹きフードが脱げる。
フードの下から出てきたのは白い色のおかっぱ頭の女だった。歳は10代後半くらいだろうか。整った顔立ちをしている。金色の眼が彼女が人間離れした存在であることを証明していた。
「テンコ、ここに居ましたの?」
そういうと、おかっぱ頭の少女テンコは振り向く。そこには金髪のロールした長い髪に赤い目、仕立ての良いドレスを着た女性が立っていた。こちらの女性も顔立ちが整っており、見た感じは10代後半と言ったところである。
「あれ、ミレース?もう食事終わったの?早くない?」
ミレースは「やれやれ」という感じで両手を上げる。
「どうしてこう…船の上というのは食事がまずいのでしょうね…。普通に美味しいと言いながら食事をしている貴女がうらやましいですわ。」
「そりゃねぇ…あたしは普通に魚とか食べてるからじゃない?ミレースも食べればよかったじゃん!」
「そうしようとしたら、貴女が暴れ始めたのですわ!」
ミレースが怒りながらそう言い終わると、船が霧から抜け、月明りに照らされる。そこには大量に人間の死体が転がっていた。ほとんどの者は驚いた表情のまま絶命している。
「だってさぁ…別に脱ぐのは構わなかったんだけど、お触り厳禁でしょ?で、一人殴ったら死んじゃったみたいで…それから襲い掛かってきたらちょっと折檻しただけじゃん?みんな死んじゃったけど。」
だが、不思議な事に死んでいる人間に対して飛び散ったであろう血の量があまりにも少なかった。そしてミレースの口は犬歯らしきものが見えており、唇は血で赤くなっていた。
「ミレース、口元ばっちぃ!」
そういうとテンコはミレースを見て笑った。ミレースは顔を赤くしながら慌ててハンカチを取り出し、口元をぬぐった。
「せ、背に腹は代えられないというやつですわ!それにこの船の食事と言えば、魚と缶詰ばかり…人間も人間で油が多すぎ…やはり少女の血が欲しいですわ。」
そういうとミレースは味を思い出しながら少しうっとりする。一方テンコは少し困った顔をして悩んでいた。
「でも…マジでどうしよっか?あたしもミレースも船の操舵は出来ないしね…てか、ミレース泳げないし。」
「それは私が泳げないのではなく、私の種族が泳げないのですわ!…水辺は結構好きなだけに残念ですわ。」
ミレースが落ち込んでいると、テンコはそれを無視してマントの下からクリスタル製の四角いものを出す。
「しょーがないから、ウリヤに迎えに来てもらうか…ウリヤ怒るだろうけどしょうがない!」
そういうとテンコはクリスタルを付き向ける。すると、クリスタルが青白く光り始める。そして、クリスタルを甲板の上に置くと、階段を使い船内へ降りる。
船内も甲板と似たような状況だった。死体の山が築かれており、ミレースが血を吸ったのか思ったより血は飛び散っていない。その通路をテンコは口笛を吹きながら歩いていく。そして、奥にある食料貯蔵庫に着くと扉を足で蹴り飛ばす。すると、男が居た。男は頭にバンダナを巻いており、テンコに向かって手に握った銃の銃口を向けている。
「く、来るな!て、てめぇ…この船を嗅ぎつけた国の犬だろ!?誰の差し金だ!モーリスか!それともユリゼンか!」
震える銃口を向けながら、大声でしゃべっている男をテンコは全く気にせず食料を探す。
「き、聞いてんのか!?なめんじゃねーぞアマ!!」
パァンッ!パァンッ!と銃声が二回響き渡る。男は口を開けて驚いていた。先ほど自分が撃った銃弾がテンコの手前に落ちていたからだ。何が起こったか全くわからなかった。
「ん?うるさいな…」
そういうと、テンコの身体から一匹の白い獣が現れる。大きさは犬より大きいだろうか?その獣は男に襲い掛かる。男は反応する暇も無く首を食いちぎられ絶命した。食糧庫はその男の胴体から噴き出た血で赤く染まった。
「あ~あ…こりゃ血の味とかしそう…やだな~…」
そう言いながらテンコは血まみれになった食糧庫を後にした。
甲板に戻るとミレースが退屈そうにどこからか持ってきた椅子に座っていた。
テンコは「食料あった!」と言いながらミレースにリンゴを投げる。ミレースはテンコの方を向くことなくそれを受け取った。
「そういえば、今回はどうでしたの?私が来る前は随分逃げ回っていたようでした?」
ミレースがテンコをチラっと見ると、テンコは缶詰を美味しそうに食べていた。
「え?ああ、やっぱりあの蝶の娘が居たよ。あの娘もしつこいねぇ~。諦めてくれると良いんだけど…。」
「そういえば、まだ一度も戦ってませんよね?というよりお互いの姿もよく知らないのでは?テンコもあの娘の事をよく知らないのでは?」
ミレースがそういうと、テンコはやや寂しい顔をした。それはどことなく自分を追っている黒いマントの少女の事を思っての顔のようだった。
「いや、やめとくよ。多分本気でやり合えば本当にそこら辺一体更地にすることになるだろうし…それに…」
そこまで言ったところで甲板の上が明るくなる。見ると大きな鳥がランタンを抱えて飛んでいた。
「…さて、迎えが来たね!ミレース、帰ろうか?」
そういうテンコの表情は元の明るい顔に戻っていた。
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