第124話【イタズラ】

10月も今日が最終日。

土曜日にデートして以降特に変わったことは無かった。

毎日一緒に学校に行き、放課後は涼介の家で来週のテストに向けて勉強をする。

それの繰り返しだった。


土曜日の件からベタベタしすぎると我慢できなくなるということがわかったためハグなどの行為は1日1回となっていた。


もっと触れ合いたいと思うが凛華との約束がある。

それに高校生での過度なスキンシップは早すぎると涼介は思ったからだ。


別に今どき高校生でというのは珍しくないがデメリットなどを考えると今の涼介にはなんの責任も取れない。

そんなことを考えながらいつもの曲がり角に向かう。


◇◆◇◆◇◆


「おはようございます先輩」


手を振りながら凛華は涼介に挨拶する。


「おはよう」


そして自然と手を繋ぐ。

これもいつも通りだ。


「先輩、今日は何日か分かりますか?」


「あぁ、10月31日だろ?」


「正解です!

てことで、Trick or Treat !」


涼介は凛華の発音の良さに感心する。

文字にするとしたらカタカナではなくきちんと英語で表記される類の発音だろう。

そんなことを考えながら涼介はバッグの脇に入れて置いた飴を取り出した。


「あ、ちゃんと持ってきてたんですね」


「まぁな」


凛華のイタズラという名のスキンシップに耐えられるか分からなかったからだ。


「でも、つまんないですぅー」


凛華はつまらないと言わんばかりの顔で涼介を見ていた。


「そんなことを言うがお前は持ってきたのか?」


「聞いてみたらどうですか?」


「まぁ、そうだな

トリックオアトリート」


そう言いながら反対の手を出す。


こんなに自信満々に言うのだから持っているのだろうとは思っているがまぁ、こうしたやり取りも悪くは無いと言う気分だった。


「持ってないですよ」


「……え?」


だからこそ凛華のこの言葉は意外だった。


「どうしたんですか先輩?

Trick or Treatの意味知ってますよね?」


凛華の狙いに涼介は今更ながら気がつく。


「早く私にイタズラしてくださいよ先輩」


凛華は不敵な笑みを浮かべる。


「はぁやぁくぅっ」


何もせず無言でいる涼介に催促するように凛華は耳元でそう囁く。

凛華の息が耳にかかりゾクゾクする感覚に襲われる。


「………お、思いつかないな……」


正直な本心だった。

どこまでやっていいのか、何をしたらいいのか分からなかった。


「ちゃんと考えてくださいよ

つまんないじゃないですか」


どちらがイタズラする側でされる側か全くわからない状態になっていた。


「と言ってもな……」


「ならこれ使ってみてはどうですか?」


凛華はスマホの画面を涼介に見せた。


そこには困った時のハロウィンのイタズラリストと書かれたサイトだった。

丁寧にルーレットまでありかなり凝ったサイトだった。


「このルーレットで出たものをやらせるってのはどうでしょう」


イタズラをされる側からイタズラの内容を提案されるという奇妙な展開。

他のことが思いつかなかったためちょうど良くもあった。


内容も語尾ににゃんを付けるやご主人様と呼ぶや腕立て伏せ10回とかの簡単なものが当たる確率が高かった。


「やるか……」


涼介は恐る恐るスタートボタンを押した。

ルーレットはゆっくりと回っていく。

もうすぐで学校に着くため早くして欲しいという気持ちになる。


そしてルーレットは止まった。


結果は『相手にパンツを見せる』というものだった。


「「は??」」


2人は画面を見て唖然とした。

そして凛華は表の方にそんな項目があったかを確認する。


よくよく確認するとかなりの項目があった。

横には確率も書いており、先程のお題は一番下にあった。

確率として1000分の1………0.1%と書かれていた。


「………どーしましょうか」


「と、とりあえずこれは無しだな」


「そ、そうですね

なら先輩にはこれを上げます」


凛華はバッグから1口サイズのチョコが何十個も入った袋を渡した。


「持ってたのかよ……」


「ふふ、当たり前じゃないですか」


「ていうか、こんなに要らないな……」


「今日だからこその量ですよ」


「だとしてもさすがに多いだろ」


涼介が接する人なんて指で数える程しかいない。

それでもチョコは半分以上余るだろう。


「その時は全部誰かにあげればいいんですよ

それに……」


凛華はここで一呼吸おくと……。


「先輩にイタズラしていいのは私だけですからね!」


そう言って凛華は先に学校の門をくぐって行った。

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