第3話 「お手伝い!(という名の冒険)」
ルーシェとマーシェの日常は至って平凡。
祝福の夜に生まれた特別な子供だからといって、毎日誰かしらに甘やかされたり
苦労知らずに生活しているわけじゃない。
今日は村の若い衆に混じって、薬草の採集とこれからやって来る寒い時期に備えての
薪にするための木材集めだ。
もちろん子供で小さな二人は薬草を採っても木材を集めるために伐採をすることは
ないので、そこではゴーレムの出番となってくる。
「ルーシェ!いつもの、頼むぜ!」
「はーい!…いでよ!ゴーレムたち!」
ルーシェの作り出すゴーレムたちは大きくがっしりと丈夫なので多少のことでは
崩れたりしないし、一般的なゴーレムより多くの木材が運べるのだ。
おまけに土地によっては出来栄えに左右されるはずの土壌の質を、全く選ばずに頑丈
な彼らを作り出せるのだからかなり重宝している。
ルーシェがゴーレムたちに一通りの命令を出した後は、マーシェと二人で仲良く
薬草の採集へと森に潜る。
子供だけでは危ないので近くには必ず二、三人ほどの大人が付き添う。
「うーん…あった!これだよね、マーシェ。」
「えーと…似てるけど、違うよルーシェ。」
「あれ?じゃあ…こっち?」
「それもさっきのと同じ草じゃないかな?」
「マーシェの草と同じじゃないの?」
「ルーシェの草はね、ここが尖ってるんだよ。」
「あ!ほんとだ!」
ルーシェは薬草採集が苦手で、いつもマーシェに聞きながら草を選別している。
村の周辺に自生している植物の多くは怪我や病気に使える薬草なのだけれど、中には
やはり毒を含んだものも幾つか混じっている。
それらを幼い頃から手伝いとしてやってみせて覚えることにより、今の彼女たちが
大人になって自分の子供を持った時に生きる知恵として生活の役に立つ。
村で生涯を終えずに外の世界へ旅に出たとしても同様である。
けれど子供が大人しく採集ばかりをしてくれていることの方が珍しいわけで、双子も
例外なく手伝いに来ていた他の子供と一緒になって遊び始めた。
いつものことなので大人たちは仕方ないと子供たちの遊びに関しては寛容に受け止め
自分たちが採集の傍ら、彼らを見守っている。
「あまり遠くへ行ってはいけませんからね?」
「「はーいっ!」」
元気よく返事をして散っていった子供たちは複数のグループを作って各々の遊びに
集中し始める。
あるグループは可愛い花を集めて冠を作り合ったり、あるグループは手近な木の枝を
見つけては工作や戦う真似事をして楽しむ。
ルーシェとマーシェの二人も始めのうちはそのいずれかのグループに入って一緒に
遊んだりするものの、冒険心の強いルーシェがいつも先に飽きて大人たちの目を
盗んではその先へと足を伸ばしてしまう。
それを止めるのがマーシェの役目ではあるのだけれど。
「ルーシェ!みんなとはぐれたら危ないよ!」
「大丈夫!この辺までは何回も来たことあるんだから。」
「で、でもでも。おっきくてこわい、オオカミが出るって…」
「そしたら私のゴーレムでやっつければいいよ!」
「えぇ…危ないよ~…」
マーシェの引き留めはルーシェにはとても弱い。
だから結局はずんずんと足を進めて先に行ってしまうルーシェの少し後ろをついて
歩いて、マーシェは時折に声をかけることしか出来ない。
危険な目に遭ったことが無いだけに危機感の薄れたルーシェを放っておくことも
できないし、かといって無理矢理に引き戻せるほど力強くもない。
何かいい方法は無いかとマーシェが小首を傾げて悩んでいると――草陰がガサリと
揺れて何かが潜んでいることに気づいた。
狙われている。そんな予感がしてマーシェは咄嗟にルーシェへと駆け寄る。
その様子を察知したらしい草陰からは危惧していたオオカミが飛び出し、反応の
遅れていたルーシェは背後から勢いよくやって来たマーシェと一緒になって地面に
倒れ込んだ。
「マーシェ?!」
「ルーシェ!早く!ごーれむ!」
「う、うん!…ゴーレム!オオカミをやっつけて!」
ルーシェの声に反応して作られたゴーレムは、次の攻撃へと移って向かってきた
オオカミをあっさりと受け止めて追い払ってしまった。
一時的に危険が去ったことを確認してから、ルーシェはマーシェの左手にひっかき
傷が見えて慌てて服のポケットからハンカチを取り出す。
「マーシェ!大変、怪我してる!」
「…え?ううん。このくらい、大丈夫だよ。それよりルーシェは?どこも怪我して
ない?痛いところとか無い?」
「私はマーシェが庇ってくれたから平気よ。ごめんなさい。私のせいでマーシェが
痛い思いをしてしまった。」
「すぐに治るよ。でも…私が怪我したなんて、誰にも言わないで。」
「どうして…?秘密にして、酷くなったりしたらいけないよ。」
「お願い。こんな小さな怪我でみんなに心配かけたくないの。」
「でも」
いつもルーシェの言うことやることを優先して聞いてくれたマーシェは今回に限って
聞いてくれなかった。
マーシェはルーシェのこれ以上の発言を許さないかのように無事な右手で彼女の口を
塞いで、首を緩く横に振る。
「早く戻ろう?見つかったら怒られちゃう。」
「マーシェ…?」
にこりと笑った顔はいつも通りで、マーシェは何事も無かったかのように振る舞って
ルーシェを呼びながら来た道を戻って駆けていった。
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