第2話 「みんなにはナイショだよ」


ルーシェたちの村では年に一度、『音の集い』というお祭りがある。


村の人々が腕によりをかけて作ったゴーレムたちを使って音を奏でさせ、一番美しい

旋律を導き出した者が勝利を掴み取るのだ。


ゴーレムの出す音の良し悪しは彼らが生成される時に土壌の中に含まれている特殊な

石――”音の石”の形や数、配置されたバランスによって変わってくる。


音の石は一見しても普通の石と同じにしか見えず、人が叩いて鳴らしてもカチカチと

奏でるどころか互いの石がただぶつかり合う音しか出せない。


それがゴーレムによって音を出させると不思議なことにオカリナを吹いているような

温かみのある音へと変化するのだ。


その魅力に憑りつかれた者たちは年々増加傾向にあり、より質の良い音を求めて外へ

出た若者が旅先で故郷の話をして戻ってくると、祭りの時期にはいろんな地方から

人が集まってきた。


それぞれが『ウチの土壌が一番!』と豪語して参加し、その土地ごとで異なる音色に

審査も徐々に厳しくレベルの高いものへと変わった。


ゴーレムが音を出せることを知った、今は亡き三代目村長が始めたこの祭り。


村の中だけで楽しむ小さな催しだったのに、現在では噂が飛びに飛んで各国の要人

までもが訪れるといった大きさにまで発展してしまった。


なので先代から今の村長は毎年、お祭りの時期は忙しなく走り回っている。


ルーシェとマーシェはそんな村長やお手伝いで動いている大人たちを家の屋根から

眺めるのが好きで、村に活気が溢れる感じが楽しくて仕方ない。



「ねえねえマーシェ。村長さん、また転びそうになったよ。」


「そうだねルーシェ。村長さん、あれで六回目。」


「あっちの人たちはまた喧嘩してるの。いっつも同じことで。」


「こっちの人たちもまた混乱してるの。いっつも同じなのに。」



お互いにくすくす笑って観察を終えた後、双子も大好きな両親に呼ばれて手伝いへと

下に降りて行く。


音の集いは日暮れ少し前から始まる。


朝から日中まではそれぞれに畑や家畜の世話などの先に片づけなければならない

大切な仕事があるからだ。


村の住人だけではすまなくなった外からの祭りへの参加者や観戦者の為に新しく設け

られた会場は、村から少し離れた場所にある。


受付の済んだ順番で参加者たちは自慢のゴーレムに音を奏でさせて競い合う。


そしてその参加者の中に、ルーシェは潜り込んでいる。



「げっ…ルーシェ、また参加するのかよ!」


「大丈夫!今年こそはちゃんと事前に確認してきたんだから!」


「おーう!お転婆お嬢じゃないか。今回もいい音聞かせてくれんのか?」


「もっちろん!自信作なの!」


「はっはっは!そいつは楽しみだ!」


「あんまし煽らないでくれよ…親父さん…。」



豪快に笑ってルーシェに期待を寄せる壮年の男性に対して、あまり良い顔をしない

青年はため息を溢していた。


その理由というのも、ルーシェは確かにゴーレムを作るのが得意で出来栄えも同じ

年齢層の子供よりしっかりとしていて文句のつけどころが無い。


無いのだが…どうにも『音を奏でる』となった時に酷い有様となる。


彼女が初めて祭りに参加したいと意気込んだときは、祝福の夜に生まれ且つゴーレム

の生成が上手いのだからと村人たちも大きな期待を寄せたものだが。



―――会場内に突如として響き渡る、金切り声にも似た音。



村の若者たちは真っ青な顔をして両手で耳を覆い、慣れてしまった老齢の強者たちや

各国の来賓たちは朗らかに笑っている。


ルーシェのゴーレムは奏でるというよりも、悲鳴を上げるのが得意。


一時はその酷さに参加を止めさせる声も上がったが、逆にこれはチャンスなのではと

機転を利かせた若者たちが彼女の参加を継続させた。


それは、ルーシェの順番のすぐ後に続けば自分たちのゴーレムの音が如何に良い音

なのかを審査員に濃く印象付けられるからだ。


現に成功を収めて前の年よりも良い成績を残したり、はたまた優勝してしまった者が

存在するので今では誰もその考えを否定しない。


ルーシェ自身も優勝にこだわるというよりも自分のゴーレムで多くの人たちが笑顔に

なってくれたり楽しんでくれたりするのが見たいだけ。



夜も深まり満天の星々が空を覆い尽くす時間。


祭りは一人の優勝者を決めて祝福の宴に大いに盛り上がっていた。


音の集いが終わった後は、ルーシェとマーシェは決まって二人だけで村の誰の目にも

つかない場所へと移動する。


今年は最近に散歩で見つけた――月光花の咲き誇る綺麗な花畑。



「マーシェ!はやくはやく!」


「ルーシェ!そんなに急いだら転んじゃうよ!」



月明りだけを頼りに花畑の真ん中らへんまで来て双子はその場に座り込む。



「ここだったら、誰も来ないよね。」


「誰も知らないと思う。知ってても、みんなお祭りに夢中だもん。」


「皆にはナイショだもんね。マーシェ!早く聞きたいな!」


「うん。私の歌はルーシェにだけ。とっても特別だから。」



マーシェはゴーレムを作れない。


でもその代わりに、彼女の歌声は全てを虜にしてしまうほど美しい。


村の人たちが聞けばマーシェはすぐにでも歌姫として持ち上げられるかもしれないが

ルーシェにはマーシェがそれを一番に望まないことがわかっていた。


だから誰にも言わないし、マーシェが歌いたい時は人目の無い場所を探してひっそり

と二人だけで短い時間を過ごしている。


けれども双子は知らない。


その美しい旋律は遠くまで広がって、たくさんの影を背後に集めていることなんて。

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