たとえば、ひとつの物語が終わるときーⅠ
花陽炎
第1話 「ルーシェとマーシェ」
―――とある国の、とある村で生まれた少女たちのお話をしよう。
夜空の黒をそのまま授かったような黒髪に、満天の星々の輝きを閉じ込めたような
くりくりとした大きな琥珀色の瞳。
お揃いのワンピースを着て、お揃いの靴を履いて、お揃いの花の髪飾りをする。
そして――お揃いの顔で笑い合う、双子の少女。
一人は『ルーシェ』
双子でも僅かに先に生まれたから少しだけお姉さん。
一人は『マーシェ』
ルーシェのほんの少しだけ後に生まれたから妹。
二人はこの世界でずっと昔から言い伝えられている”祝福の夜”に生まれた。
祝福の夜とは、十年に一度の星降る夜のことを指していて、その日に生を受けた者は
天の星々に愛され特別な力を授かるとされている。
実際に今までにその日に生まれてきた者たちは住まう国や村に繁栄をもたらし、
多くの人たちに幸福を振り撒いてきた。
ある者は――枯れた土地を新たな技術で蘇らせ、
ある者は――困窮した村を解放して救い、
ある者は――長く絶えなかった戦争を初陣で終わらせた。
そんな数々の事象が、決して『言い伝え』などというだけで朧げに霞むことなく
存在し続ける彼らの起こしてきた奇跡が、当然ながら彼女たちにも授けられている
のだろうと村の者たちは強く信じ期待している。
しかし具体的にどのような事柄に長け、どのようなタイミングで才能が開花し、
年齢も関係してくるのかといったことがわからないまま。
子供の時から自らの能力を発揮した者もいれば、成人してからだったり老齢を迎え
年の功によるものなのか判断に困る場合もあった。
だから村の人間たちは双子の成長を見守り、大事に育んでいくことにした。
いつか彼女たちが花開いて広い世界の各地――遠くへ巣立っていってしまうことが
あっても、最後にはまたこの村に帰って来て『ここに生まれて良かった』と笑顔で
誇ってくれるように。
そしてこの世界では”祝福の夜”とは別に、不思議な現象がある。
それが―――
「「いでよ!ゴーレム!」」
村の少し外れにある、広いお手製な訓練場でいくつかの声が木霊する。
彼らの声に導かれるようにして、ただの土の塊はボコボコと何かのカタチを形成
していき――儚く崩れた。
懸命に何度も繰り返し練習する子供たちを指導する大人たちの傍らには、しっかりと
した姿形を保ち且つ自力で動くことのできる――『ゴーレム』がいる。
この世界では摩訶不思議なことに、人間の”声”や”意志”に反応を示す土壌が
豊富で、コツを掴めば誰でも簡単にゴーレムを使役することができる。
出来栄えには個人差があるものの…彼らにとってゴーレムは生活を助ける暮らしの
相棒であり、心強い味方。
欠かせない存在ではあるのだけれど、やはり得手不得手があるのも事実で。
「マーシェ!もう一回っ!」
「うぅー…っ…い、いでよ!ごーれむっ!」
必死に練習するマーシェの呼び声に土は反応を示すが、どうにもカタチが定まらず
盛り上がってはぐしゃりと潰れて崩れてを繰り返す。
すぐ隣で応援するルーシェの掛け声も虚しく、その日は結局一度も成功しなかった。
「ふえぇぇ…ルーシェは一回で出来たのに…っ」
帰宅してからずっと、マーシェはぐすぐすと泣いて落ち込んではうじうじする。
「昨日は雨が降ってたから、マーシェの所は土が柔らかすぎたんだよ。しかもほら、
今日のおじさんって抜けてるので有名だから…そこに気づかなかったんだよ!」
それをいつもルーシェは優しく慰めて次も挑戦できるように勇気を分けてあげる。
二人はいつだって、どこに行くのも何をするのも全部一緒。
双子だから何を考えているのかも何が好きで嫌いなのかも、言葉にしなくても
目だけでお互いに意思疎通が図れる。
だけど神様は全部をお揃いにはしてくれず、ルーシェはゴーレムを作るのが得意
でもマーシェは全然作れない。
村の子供たちは基本的に七歳から練習を始めて、十歳を迎える頃にはある程度の
小さなゴーレムを作れるようにはなるはずなのだが…つい先週あたりに九歳を迎えた
マーシェの出来は――壊滅的である。
「わ、わたしには…才能が無いのかなぁ…」
「だーいじょうぶ!マーシェとルーシェは同じなんだもん!できるよ!」
夜の間中、マーシェに希望を持たせるのにルーシェは毎回奮闘して、そしてまた
迎えた朝に訓練場へと二人で向かう。
果たしてマーシェに立派ではなくてもカタチあるゴーレムは作れるのか。
それは神のみぞ知る…。
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