第11話 リングの行方


委員会が終わり、なんだか精神的に疲れていたので、まっすぐ家に帰る。夕飯を食べて、シャワーを浴び落ち着いたところで、今日連絡先を交換した如月さんにRINEを飛ばす。


【小夜】


●『よろしく。』


○『よろしく!!』


●『放課後も探してたみたいだけど見つかった?』


○『うんん、見つからなかった。』


これだけ探しても見つからないのか。


●『最後にリングを見たのはいつ?』


○『んーと、朝、制服に着替えた時かな!』


…ん?ちょっと待て。それは変だ。その時、僕の中でひとつの仮説が生まれる。…なるほど。いくら探しても見つからないわけだ。


●『いくつか質問いい?』


○『ん?なになに?なんでも聞いて!』


●『チェーンってどんなふうに切れてたの?』


僕は自分の仮説が正しいかを確認するように彼女に質問する。


○『正確に言うとチェーン自体は切れてないの。チェーンとリングを繋ぐ金具部分が切れたっぽい』


ふむ。僕は始業式に貰った学年の時間割が書かれたプリントを出す。時間割変更がなければ基本的にこの通りに進んでいく。確か2組だったな。


●『なくした日って学校で時間割変更ってあった?』


○『え?時間割?』


●『うん』


○『先生の出張の関係でいつもは5時間目の音楽が2時間目にきてたかな。なんで?』


●『ありがとう。明日の7:45に今日会った公園に来てくれる?』


○『もちろん行くつもりだけど、なんの質問だったの?』


●『それは明日説明するよ。じゃあおやすみ。』


○『えぇ!まぁいいや。おやすみ?』


次の日。待ち合わせの時間に公園を訪れる。


「おっはよー!」


「おはよ。それじゃあ行こっか」


「うん!今日は川の辺りを探そうかなって思ってる!」


「違うよ。行くのは学校。」


「えぇなんで!」


「いいから。ついてきて」


「まってよ!学校にあるの?」


「多分ね。ちなみに学校は探した?」


「一応、落し物コーナーは見たけど。この近くで落としたと思ってたから、そんなに探してない。」


「そっか。そのリングってやっぱり大切なものなの?」


「うん。中学の頃やってたバンドを解散する時にまたみんなで集まろうってお揃いにしたものなんだ」


「桐崎さんから聞いたよバンドしてたって。」


「そうそう!私はギター担当だったんだけどね!楽しかったなぁ。唯衣ね!めっちゃ歌上手いんだよ!あれはもうプロ顔負けだね!」


「へぇ是非聞いてみたいね。高校じゃしないの?」


「多分、しないと思う。ギターは続けてるけど、唯衣が人前で歌いたくなるまでバンドとして弾きたくない。」


「何かあったの?話したくなければ話さなくてもいいけど」


「んー?また今度ね。神谷くんだから話せないってわけじゃないけど、私も思うところがあるし。」


「そう。」


「うん。まぁ唯衣も気にしてないみたいだし。そんなに気を使わなくてもいいよ。」


「うん。わかった。」


「ねぇコンビニ寄っていい?」


「コンビニばっかだね。」


「あそこのメロンパン止められなくてさー」


「お弁当は?」


「いやー親が共働きで夜も遅いから、朝早く起きてお弁当作ってくれないんだよ〜。」


「学食は?日替わり定食とか栄養豊富だと思うけど」


「んーちょっと入学した直後に学食で揉めちゃってさー入りにくいんだよね。」


「大変だね。でもビタミンは取った方がいいと思うよ」


「そーゆう神谷くんはどうなのさ!」


「僕は毎日作ってるよお弁当。」


「えぇ!意外!なに料理出来るの!」


「そこそこできるよ」


「ならついでに私のも作ってよ〜」


「ん?別にいいけど」


「ほんとに!約束ね!楽しみにしてる!」


「うん。また作ってくるよ」


そんなに会話をしていたら学校についた。


「どこいくの?」


「先に落し物コーナーを見とこうと思って」


水筒、時計、ローファー、鍵、折り畳み傘、タオル、校章などなど多くの落し物があるが、リングは見当たらない。


「ここにないとすると。如月さんいくよ」


「どこ?」


「女子更衣室」


「変態!!!」


「ち、違う!そこにリングがあるんだよ!」


体育の時に着替えで使う更衣室。正直体育の度にここにきて着替えるのはめんどくさいと思う。男子なんて気にしないのだから教室で着替えさせればいいだろうに。


「あったー!!!!」


更衣室の中から嬉しそうな声が響く。よかった、やっぱりここにあったか


「よかったね」


「ロッカーの死角のところに落ちてた。よかったぁ。でもなんでここって分かったの?」


「まだSHRまでには時間があるね。さてどこから話そうかな。まず、僕が最後にリングを見た時を確認したのは覚えてる?」


「うん。朝、制服に着替えた時だよね」


「そう。リングをなくした日は平日だった。当然、学校もあるし、制服も着る」


「そうだね」


「僕の最寄り駅に来たのは放課後だよね?」


「うん。学校が終わって雨が降ってたから、どこかいつもとは違う場所を歩きたいと思って」


「で、そこでリングをなくしたと、でもその時制服を着てたなら失くようがないんだよ。物理的にね?」


「え?なんで?」


「特に転けたとか、人とぶつかったとかそういうのはないよね?あればきっと探してる時に行ってるはずだ」


「うん。特には」


「なら、チェーンが切れたとしても、落とすことはないね。制服の構造的に。」


「あ、そっか。シャツはインするもんね」


僕達の高校の制服は男女共にブレザーだ。カッターシャツは基本的にインする。その場合、例えリングを落としたしてもスカートがストッパーになる。


「うん。そして、きっと服の内側にリングは付けてた。大切なリングならできるだけ失くさないようにしたいはずだし」


「うん。まさにその通り。」


「服を脱がない限り落ちることはない。そして家でなくしたケースもほとんどない。家は多分もう隅々まで探してるでしょ?」


「探した。探して、家にはないって思ったから交番に行った。」


「てことは?」


「学校!それも体育で着替えた時に落としたのか!」


「そういうこと。その日は時間割変更があったため、音楽、体育、家庭科と連続の移動教室。時間が無くて、着替える時にリングの有無は気にしていなかった。」


「そっか。」


「もしチェーンが切れてたら気づいたのかも知れないけど。あいにく切れたのは金具部分だけ。チェーンは首に残ったままだったろうし、気づかなくても無理はないね。」


「なるほど。私なんでもっと早く、学校にあるって思わなかったんだろう。少し考えたら分かるはずなのに。」


「まぁ何はともあれ見つかってよかった。」


「うん!ありがとう!神谷くんって凄いね!」


まぁ僕は鷹だからな、と言いたいところだが、今回の話はすごく単純だった。如月さんも言ってた通り、少し考えれば学校にある可能性も考慮しただろう。しかし、如月さんは駅付近で落とした思った。人間は何が非日常のアクシデントが起こった時、他の非日常と結びつけたがる。いつもと違うことが起こった原因をいつもはしていない事をしたからだと思ってしまう。今回の場合は、リングを失くすという非日常とたまたま雨が降っていていつもとは違う道を歩いたという非日常を無意識に繋げてしまったのだ。ただ本当の原因は金具の老朽化であって、失くした場所も活動時間のうち1番過ごす時間が多い学校。思い込みというものは怖いもので、1度、そこにあると思ってしまったら、自分じゃ容易に抜け出せない。他人からみたらとても明白なことであってもだ。その1例が今回の件だろう。


「すごくないさ、たまたま気づいただけ。」


そう、たまたま僕が角でぶつかりかけた、他人第1号だった。それだけのことだった。

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爪隠し過ぎたらハイスペックコミュ障になった件 @Ha_re_B612

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