第10話 ファン


放課後。とうとうきてしまった。憂鬱な委員会だ。何故か分からないが僕は小鳥遊 伊織に嫌われてるらしい。今日も何度か話しかけようとしたが全てスルーされてしまった。嫌われるほど関わってないだろう。


「た、小鳥遊さん。い、委員会。視聴覚室であるみたいだから。行こっか。」


「…はい。行きましょう。」


視聴覚室に向かうべく廊下に出るが、小鳥遊さんは急に立ち止まり。こちらを見ずに


「先に言っておきますが、わたしあなたのことをあまり好きではありませんので。そこのところでよろしくお願いします。」


と言い放ち、スタスタと自分のペースで行ってしまう。


「は、はぁ」


視聴覚室に入り、座席を確認する。当然のこどく小鳥遊さんの隣に座らなければならない。ついさっき嫌いな人宣言をされた人の隣に座るのは、気まずいものがある。プリントが配られて委員会が始まる。


「基本的なことはプリントに書いていますが、口頭で伝えることもあるので、必ずメモして下さい。」


「それでは第一回美化委員を始めます。まじ初めに…」


前で先生が喋っているが。僕は隣の人が気になって仕方がない。小鳥遊さんは妙にソワソワして周りを見渡している。1度目が合うが、キッと睨まれ、目線を逸らされる。あーなんとなく予想がついた。この人、筆記用具を忘れたのだ。ポンコツキャラなのか?逆に委員会などそれさえあれば何もいらないまであるだろう。見てられなくなったので、シャーペンと消しゴムを転がす。彼女は微妙な表情で会釈をして受け取る。なんだか不思議な人だな。


委員会も無事終わりやっと下校できる。面倒くさそうに見えた仕事も分担を決めてやるため案外楽そうであった。そしてなりより、分担を決める上で他クラスの人ともコミュニケーションをとる事ができた。自分から発言することは少なかったが、特にコミュ障だとは思われなかったはずだ。


「あの!」


僕が帰る支度をしていたら隣から声をかけられた。そう言えばシャーペンを貸していたと思い出す。彼女は赤面しながら、シャーペンを返してくる。


「あぁ、どうも。」


「貸していただきありがとうございました。助かりました。」


消して目線を合わせずに感謝の言葉を告げる小鳥遊さん。なんだか少し可愛く見えてしまった。


「お、お役に立ててよかった。です。はい」


「では」


小鳥遊はそそくさと帰ろうとする。


「まって!」


「なんでしょう」


「あ、あの、えっーと。な、なんで僕のこと、嫌ってるのかな?」


「はい?」


「特に身に覚えが、ないような気がして。」


「なぜ教えなければならないのですか」


「い、いや、いやなら、いいんだ。でも、えー出来れば、た、小鳥遊とも仲良くしたいなって思うから。」


小鳥遊さんは少し考えるような仕草をしてこちらに近寄ってくる。


「あな…………さ…と……い…から…す」


「え?」


「あなたが桐崎さんと仲がいいからです!」


「え?」


「なんであなたなんですか!隣の席だからですか?毎日毎日、仲の良さそうに喋ってますが、どうしてですか?わたしとあなたの何が違うんですか!私も桐崎さんと仲良くしたいです。おしゃべりしたいです!あんなに可愛い人の傍にいてほんとに羨ましい限りです!変わって欲しいくらいです!」


「は、はぁ」


「はぁはぁ、だから!私は桐崎さんに近づくあなたが嫌いです」


人気者だとは思っていたが、ここまで熱狂的なファンが女の子でいるとは思っていなかった。


「そ、そんな事言われても。」


どうしようもないだろう。


「なんであなたなんですか。私なんてきっと名前も覚えられていません。」


「そ、そんなことないよ!き、昨日RINEで、伊織ちゃんと仲良くしなって言ってたし」


「ほんとですか!私の名前知ってましたか!」


彼女の表情が急にぱぁぁぁと明るくなる。わかりやすい子だ。


「ほんとほんと」


「てか!RINEしてるんですね!羨ましいです!」


「う、あっ、そうだ、今度一緒にお昼でも食べない?桐崎さんも一緒に」


「いいんですか!!!」


手のひら返しがすごい。希望の眼差しで僕をみる。


「聞いてみるよ」


「なんですか?聖母ですか?神様なんですか?」


「そんな大袈裟なものじゃないよ。」


「約束ですよ!」


「うん」


「じゃあ!さよなら!約束ですよ!!」


「わ、わかったよ。さよなら。」


彼女は廊下をスキップしながら帰っていった。どこまでも自分の彼女に素直な人なんだろう。しかし、桐崎さんに聞かずにご飯を食べるとか言ってしまったが大丈夫なのだろうか。桐崎さんはいつも、友達と学食で食べている。一方僕は教室で食べるので、ご飯を食べたことは僕もない。まぁ多分、大丈夫だろう。小鳥遊さんのおかげで一気に疲れてしまった。僕はとぼとぼと帰路につくのであった。

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