第9話 恋バナ


その日の夜。いくつか聞きたいことがあったので桐崎さんにRINEを送った。


【桐崎 唯衣】


●『いま時間大丈夫?』


○『大丈夫だよー!なに?もしかして今日のこと怒ってるの?笑』


●『怒ってはないけど、桐崎さんならやってくれるんじゃないかって思ってたから』


○『んー迷ったんだけどね。私がやっちゃうと神谷くんの練習にならないかなって思ってさ笑』


なるほど。桐崎さんとは話せても他の人と喋れなければコミュ力が上がったとは言えない。


●『なるほど。がんばるよ』


○『うん!がんばれ!』


○ スタンプが送信されました。


黒猫がFIGHTの文字が書かれた看板を持っているスタンプが送られてきた。


いつもならここで会話を終わらすが、今日はそうともいかない。


●『もういっこいい?』


○『なになに?』


●『桐崎さんって気になってる人とかいる?』


流石に碓氷くんの名前を出すわけにはいかないので、高校生大好きな恋バナから自然に話を進めることにする。


○『え?笑』


○『気になってる人?笑』


●『そうそう。彼氏とかいるの?』


僕と2人で居てもなにも言わないってことはいないのだろうが、一応確認しておく。


○『いないよ~笑』


●『気になる人も?』


○『んー?いるちゃいるかもね?』


●『おぉ、同じ学校?』


○『それは秘密。笑』


○『なんで急にそんな話?笑』


●『単純に気になったから』


○『なんでよ笑』


恋バナの話になってから返信のペースが上がった。すぐに既読になり返信が返ってくる。やっぱり女の子は恋バナが好きなのかな。


●『モテる人にも好きな人とか気になる人とかいるのかなって思ってさ』


○『ふーん。神谷くんは?』


●『僕はまだちょっと分からないかな。』


○『好きってことが?笑』


●『うん。人とあんまり関わってこなかったから』


○『その言いようじゃ初恋もまだっぽいね』


●『まだなのかな。僕の場合、まずは友達からかな』


○『確かにね。美化委員なったんだし伊織いおりちゃんと仲良くしたら?』


伊織ちゃんとは小鳥遊さんのことだ。


●『そうだね。がんばってみるよ。ありがとう。』


○ スタンプが送信されました。


これだけじゃ碓氷くんについてどう思ってるかはわからないな。ただ気になっている人はいるぽいな。1度2人の話しているところをみてみたら分かるかもしれない。もし桐崎さんも碓氷くんのことを気になってるのなら僕も全力で協力するべきだし。あの子に協力をしてもらうか。


次の日の朝。僕はいつもの時間に家を出たが電車には乗らずに最寄り駅周辺で如月 小夜を探した。

確証はないがきっと今日もここらへんにくるはずだ。昨日、登校時間よりも早くからここらをウロウロしてたのはきっと何か用事があるのだろう。そう思い探していると、家の近くの公園で如月さんを見つけた。


「如月さん」


「びっくりしたー。神谷くんか。何してるのこんなとこで」


「それはこっちのセリフだよね、何してるの?」


「ちょっと一昨日この駅付近に来た時に落し物しちゃってさ〜」


そんなことだろうと思った。


「大変だね。僕も一緒に探すよ。何をなくしたの?」


「えぇいいの?えっとねシンバーリング。内側に私のイニシャルが入ってる」


「リングって、普通指に付けてたら落とさなくない?」


「私の指に合わなかったから、チェーンつけて首にかけてたの。で気づいた時にはチェーンが切れてて」


「なるほどね。交番には行ってみた?」


「気づいた日の夜に行ったけど、届いてなかった。多分小さいものだし、まだ落ちてる可能性の方が高いかも。」


「ふむ。てかその日一日中雨じゃなかった?何してたのこんなとこで」


「雨の日って散歩したくなるじゃん」


「えぇそれは共感しかねるな。どこ通ったとか覚えてないの?」


「考え事しながら歩いてたから、あんまり覚えてない。でもこの公園は通った気がする。」


「とりあえず、登校時間ギリギリまで探してみよう」


結局、時間になり落し物を見つけることは出来なかった。また同じように少し時間をずらして登校し、授業に向かった。あの町のなかから小さなリングを見つけるのは至難の業だろう。とりあえず、連絡先の交換もして明日も手伝うことにした。ことが上手く終わったら、僕も頼みたいことがある。多分、如月さんは引き受けてくれるだろうが、気持ち的に協力してもらうなら相手にも協力したいのだ。


場面は変わって、教室。実は2週間後に初めての定期テストが控えてるということもあり、いつもよりみんな授業に集中している。もちろん、僕も授業中はガチだ。家ではまた違うことに取り組みたいので、学校の勉強は学校で終わらすようにしている。先生の言葉を聞き逃さずにメモをとり、大切な点はその時間のうちを覚えてしまう。幸いなことに休み時間に喋る友達もいないので、復習に最大限使える。


「熱心だね。ガリ勉なんだっけ」


「まぁね。桐崎さんは頭いいの?」


「まぁまぁかな。テスト勉強は平均点プラス10点くらいのイメージでしてるよ。」


きっとこの人は地頭がいいタイプだろう。敢えてテストに向かって勉強しなくても、平均点くらいならとれる。高校の成績は指定校推薦を狙う場合以外では基本的に必要がない。のでそれほど全力という訳ではないのだろう。


「そうなんだ。流石だね。」


「ねねね、数学得意?私、数学だけが少し苦手でさ、もしよかった教えてくれない?」


「あぁいいよ。上手く教えられるか分からないけど」


「ありがとう。できれば放課後がいいんだけどいつ空いてるかな」


「今日は委員会があるから、明日以降なら大丈夫だよ」


「じゃあ明後日の金曜日の放課後でいい?」


「問題ないよ。」


「じゃあ約束ね?よろしく」


人に教えたことはないが、自分が理解してるのなら大丈夫だろう。ついでに碓氷くんのことも上手いこと聞き出せるかも知れない。

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