第8話 美化委員


現在時刻13:40

暖かな日差しと心地よい風が吹き、昼食後でお腹も満たされ、多くの生徒が睡魔に襲われる5時限目。僕らのクラスでは委員会を決めていた。見たところ全ての生徒が委員会に入らなければいけない訳ではなく少数選抜らしい。時間を取られる委員会系には部活同様で入る気はないのでこの時間は暇である。そういえば部活体験期間が終わり、部活に入る人はもうほとんど入部届けを提出しているみたいだ。この学校の委員会は割と仕事が多く、基本的に部活をやっていない人が委員会をやるのがセオリーだと担任の横井先生が言っていた。


桐崎さんは部活に入ったのだろうか。はたまた学級委員でもやるのだろうか。そんなことを思いながら隣の席をみるとバッチリ目があった。


「ねぇ神谷くんは部活しないみたいだけど、委員会はしないの?」


「し、しない、つもりだよ?」


「ふーん。友達作るチャンスかもよ?」


確かにその可能性があることは否めない。部活をやってしまったら、その分野だけに時間を奪われるので入らなかったが、委員会くらいはコミュニケーションの練習がてら入ってもいいかもしれない。


「んー。迷うね。桐崎さんは?部活には入ったの?」


「入ってないよ。」


「そうなんだ。中学は何かしてたの?」


「軽音部でバンドしてたよ。」


「へぇ。ちなみにどこのパート?」


「一応ピアノ担当だったけど、途中からはずっとボーカルだけ」


「歌上手いんだ。」


正直意外だった。バンドを組んでいるイメージはなかった。どちらかと言うと如月さんとかがやってる方が想像がつく。


「人並み程度にね。さっき話してた小夜もメンバーの1人だよ。」


「あぁやっぱり」


思っていた通りだった。


「ふふ、確かにあの子の見た目ならバンドとかなってそうだもんね。」


「うん、すごいやってそう。高校ではしないの?確かあったよね軽音部。」


「んー。ちょっといいかなぁ」


「そっか。」


珍しく煮え切らない様子だったので、それ以上深入りはしなかった。


「おーい。誰か美化委員やってくれる人いないかー?」


横井先生がクラスに声をかける。どうやら美化委員は人気がないらしい。前の黒板をみると美化委員の2枠と図書委員の1枠が埋まってない。確かに面倒くさそうだもんな美化委員。


「先生〜それって女同士じゃだめなんですかー?」


「一応男子女子1名ずつってことになってるな」


「えぇーどーするー?」


「あみ行きなよ〜綺麗好きじゃん」


「綺麗好きは関係ないよ〜それに私部活もあるし」


「男子誰かやんないのー?」


「俺、図書委員ならやってもいいよー」


「お!じゃあ図書委員は藤堂と森本に決まりな!あとは美化委員だけだぞー。チャイムなっても決まるまで帰れないからなー」


なかなか決まらずクラスがわちゃわちゃし始めた。先程配られた委員会の仕事内容をみると確かに面倒くさそうな内容ばかりだ。ポスター作り、掃除用具チェックなど、時間の割に目立たない仕事が多く、これじゃ人気が出ないのも仕方がない。


しかし、決まるまで帰れないというのはまずい。今日は放課後に絶対に外せない予定があるのだ。特にやりたくはないが、これも桐崎さんが言ったようにコミュニケーションの練習だと思って、僕は手を挙げた。


「僕、やります。」


「おぉ!神谷やってくれるか!ならあと女子だな!」


さて、ここで問題なのは相手が誰かという点だ。正直、未だに女子と喋るには不安がある。桐崎さんや如月さんのように明るく、話を振ってくれるような人ならまだ喋ることが出来るが、お互いに喋れないとなったら、ペースを崩した如月さんとの会話のようになってしまう。桐崎さんに懇願の視線を送る。しかし桐崎さんは僕の気持ちをわかっていて、笑顔でスルー。


「私、やってもいいです」


手を挙げたのは桐崎さんではなく、黒髪に大きな黒縁メガネ。確か名前は小鳥遊たかなしさんだ。


「よし!決まりだな!」


横井先生は黒板に名前を書き入れる。


学級委員

・天王寺

・山下


体育委員

・碓氷

・佐々木


風紀委員

・井上

・志田


美化委員

・神谷

・小鳥遊


図書委員

・馬渕

・戸塚


「早速、明日の放課後に第一回委員会があるから、よろしく頼むな。お、チャイムなったな、号令省略でいいから、帰っていいぞー」


一応、仮にも同じ委員会になるので、挨拶をしといた方がいいかなと思い、僕は小鳥遊さんの席を行き、ひとつ深呼吸。


「よ、よろしく」


「…よろしく」


冷たい目付きで僕をみて、ぶっきらぼうに挨拶をした。そのままカバンを持って帰ってしまった。

え?もしかして嫌われてる?何か悪いことしたかな?委員会に不安が残る日だった。

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