髪の長かった女
「さてさて早速、と言いたい所なのですが、縛ったままではやりにくいのでこれから先に取っちゃいましょうか」
少女の時は拘束したまま行ったのだが、今回はそれを解いてやるらしい。随分と優しい対応だと訝しむ少女であったが、その判断は正しい。この女が人に気遣いなどする筈ないのだから。あるとすればそれは裏がある時だけだ。
「あなた!その子に何をし、ぁがっ、はっ、うぅっ」
「あら、ごめんなさい。苦しいところは外すつもりでしたけれど、もしかして鳩尾にでも入いりましたか?」
目隠しと猿轡の拘束を解かれ、口の自由ができた瞬間に少女について問いただそうとしたるみであったが、女の痛烈な肘鉄により呼吸もままならない状態にされてしまい、喋る余裕もなくなってしまった。
この間、るみを助けようと少女は何度も動こうとしていた、けれどその度に女が背中に隠し持ったナイフをチラつかせるせいで何もできずにいた。
「いいですか?私はこれからあなたを犯します」
「うっ、ふうぅ。なにを、言ってるの?意味が分からないわ、いい訳ないじゃない」
「でしょうね、では貴女が拒否すればあの子に酷いことをすると言ったら?」
「……最低ね」
るみとしては少女を引き合いに出されて断れる筈もなく、侮蔑の言葉を持ってして行為を受け入れた。
いくらなんでもそれはおかしいと、抗議のために少女が声を放とうとした瞬間。手に持ったナイフを突き刺している女と、決して少ないとは言えない量の血液で服を真っ赤に染めているるみの姿が少女の視界に現れた。
「どうして……るみ先生には痛いことはしないって」
「あー、あれですか」
「いきなりお腹を殴ったり……今なんてナイフで刺して……」
「あんなの嘘に決まってるじゃないですか」
怒りを通り越して絶句した。唯一、縋れると言ってもいい言葉に裏切られてしまった。
けれど女からすればそんな露程の価値もない約束事をわざわざ守る必要はない。
自分が殴りたいと思えば殴る、刺したいと思えば刺す、犯したいと思えば満足するまで犯す。
女からすればそれだけだ。
少女は女から「痛いことはしない」と聞かされた時に自分は痛いことをされ、るみ先生は気持ちいいことをされるんだ、と何となく思っていた。放っておけばいい少女の怪我を手当てし、その後には食事を運んできたのがそう思う根拠だった。
痛いのはとても辛いがゆりさんの娘のるみ先生が傷つくよりは何倍もいい、それに流石に殺したりはしないだろう。そう考えていた。
だが、そんな楽観的な考えはもう持てない。
あれは完全に致命傷だ、流れる血液の量が不味い。少女もかなりの量の血を流したがあれは女が上手く加減したのか致命傷にはならなかった。
「るみさん、次は手足も楽にしてあげるのでその後はベッドに行きましょうか」
「待って、そんなのムリ」
今のるみにとって喋るだけでも相当苦しいのだろう、弱々しい声音と今にも吐いてしまいそうなぐらいに青い顔からそれが窺える。
寧ろよく返事ができたと讃えるべきか。
ただそれは女が望んでいる言葉ではなかった。
ナイフの柄をぐっと握りなおす。
「ん~?お返事は『はい』でしょうっ」
「~~~~~~っ!!」
「悶えてないで、お返事は?」
「……はい」
血液混じりの肉を弄ぶ音が一際強く聞こえる。
目を見開き手足が縛られているのも忘れて痛みから抜け出そうと全力で抵抗したが、椅子が激しく揺れるだけに終わった。
声も上げられない程の痛みだったのだろう、涎と涙と鼻水で汚した顔がそれを証明している。それでもるみは懸命に返事をした。
何が起きたかと言うと女はあろうことか、るみの体に突き刺したナイフを出鱈目に動かしたのだ。
「はい!いいお返事でしたね!……あらあら?する前に死んでしまいましたか。思ったよりも粘り弱い方でしたね」
「え?」
あまりにも呆気なく人が死んでいく様とそれを平然と受け流す女の異常性が堪らなく怖くて少女はるみが殺されたことに関して怒れない。拷問とは違う恐怖が体をを縛りつけている。
けれど、少女には一つだけ聞きたいことがあった。
「どうして、私達にこんなことするんですか?」
この質問をしたところで助かる訳ではない、それでもこの女が何を考えているのか分かれば少しは気が楽になる。
分からないから怖いのだ、分かれば少しはマシになる。
「どうしてですか。そうですね、こうすればあなたは嫉妬してくれるのではと思ったからです」
意味が分からない。
「あ、そうだ。さっき敬語使いませんでしたね、後でお仕置きです」
先程の質問で少女が分かったのは、るみ先生は少女のせいで殺されたという情報だけだ。
始まり、過程、結果 シガ @siga723
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