髪の長い女

あれから一週間経った、その間に三人死んだ。

七日前は二十代の髪の長い女。

五日前は四十代の背の高い女。

二日前は十代の芯が強い小女。

縛られ、犯され、殺された、捕らわれた少女の目の前で。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「今から女の子を連れて来るので見て覚えてください」

「……はい」


「なにをですか?」と問おうとした少女だったが不必要なことをして痛い目に合うのは堪らないと思い、黙って従うことにして女を見送った。

女の子を連れて来るということは少女にしたことを他の人間にもするということだろう。それを見て覚える。つまりはあの鬼畜な所業を見て覚えろということか。

見知らぬ誰かを叩いて切って、両手を真っ赤に染める自分。そんなもの、想像するだけで吐き気がする。


少し前にワゴンに乗せられてきたパンが喉を駆け上がった。これなら何もいらないと押し通せば良かったかもしれない。


十分ほど待って、物音が聞こえてきた。キャスターが転がるような音と、苦しそうな呻き声、耳障りだと思いたいのに思えない綺麗な女の声だ。


「お待たせしました~」

「んーー!!!」


女が連れてきたのは髪の長い二十代くらいの女だった。いや、連れてきたというのは正しくないか。正確に言えば拉致してきた、と言った方がいいだろう。背もたれ付きの椅子に手足を縛られ、目隠しと猿轡をされているのだから。

その髪の長い女に少女は見覚えがあった、休みの日以外は必ず顔を合わせる人。


「るみ先生!」

「っ!」

「あら、お知り合いでしたか?偶然ですねぇ?」


白々しい、口には出せなかったが少女はそう思った。女は少女の家族や友人の名前を言い当てたぐらいなのだ、先生と呼ばれた女が少女の担任であることなど調査済みであるだろうに。


「先生をどうするつもりなんですか」

「あなたと同じことですよ」


逆らうつもりなんて一切なかった、けれどこればかりは我慢ならない。だって先生に酷いことをしようとしているのだから。少女が憧れてやまない、ゆりさんの大切な一人娘である先生に傷をつけようとしているんだ。そんなことをしたら、ゆりさんがとても悲しんでしまう。

そうやって女への憎悪を膨らませている少女であったが、自分が今、るみ先生の心配を微塵もしていないことに気づいていない。ゆりさん、ゆりさん、その人物が傷つけられるのを嫌悪しているだけで、るみという女のことはあまり頭に入っていない。


「と言いましても、好きな子の先生を傷つけるのは少々憚られるので痛いことはしません」

「もしかして……」

「そう、痛くない方ですよ」


怒りで赤くなっていた少女の顔が羞恥で赤くなる。

いくら相手が犯罪者でもまだそういった経験が少ない少女にとっては恥ずかしさが込み上げてきてしまう。

女が乱暴者であれば恐怖や怒りが湧いてくるのだが、まるで本当の恋人のように接してきたせいか上手く怒れないのだ。

突然拉致し、無意味に拷問にかけられ、更には犯されたとなると普通なら烈火のごとく怒っても不思議ではないのだが、そうならないのは女の美貌の成せる技なのか。とにかく質の悪い女である。

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