星辰機

安良巻祐介

 二十一世紀羅馬國製の『星の計測器』は、様々な銀河の恒星・惑星・衛星の座標とディティルを、数字で絶え間なく表現するらしい。

 青い硝子盤の上に、内蔵された半永久機関によって赤光文字シャッコウモジで打ち出されるそれらの数列は、一見何の規則も脈絡もないようでいて、記録を取って細かく査読してみると確かに、ある種の数秘学の法則に基づいて、宇宙的な発光体たちの情報を示している。

 識者によれば、地上の学問の上に、星の動きは太古より影を落としていたという。それも、比喩的な意味ばかりではなく、直接的に。

 歴史を述べているといつまでもきりがないので詳しいところは割愛するが、様々な学問法則を数値化して硝子製の平面座標上に配置し、光点のそれぞれを線で結ぶと、星々の動きや形を表すことになる、というのを、百年ほど前、各国の数秘学者たちが同時多発的に発見したのである。

 彼らは今日では、「近代の三博士」などと華々しく呼称されているが、実際には、事実の一部を書きとめただけで、夜明けが来る前に全員が死んでしまっていた。

 現場を調べた結果、いずれも自死であり、恐らく、何かに耐えられなかったのだろうと目された。

 彼らの遺した断片的なノートをかき集め、さらに多くの命を供犠にして、『星の計測器』は完成されたという。

 古い水晶細工のような精緻の意匠を凝らされ、宝石類よりも妖しい輝きを放つその美しい装置は、発見後も研究者たちに幾度かの死をもたらしたのち、事態を重く見た帝都の管理下に入り、最終的に、人の手に余る物品の数々を意図的に死蔵する、かの頽叡タイエイ博物館ミウゼウムへと収められた。

 今では、最奥の暗室の一角で、入れ子構造のクリスタル・ケースの中、遠い星たちの知らせるそれぞれの挨拶や現況を、誰も見ていない薄闇の中で、静かに囁き続けている。

 噂によれば、クリスタル・ケースの表には、古代の箴言らしい一節が、金の文字で記されているという。

『美しいと恐ろしいとは、本来、同じ言葉である』と。

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星辰機 安良巻祐介 @aramaki88

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