第13話 服

 ストレジアから頼まれた仕事を終えたエウたちは、再び彼女を

部屋の中へと呼び出していた。

 以前までの乱雑していたものとは見違えた部屋の光景を見て、歓喜の

声を上げるストレジアの姿があった。


「ありがとう! いつもお仕事が丁寧で助かるわ!」


 物静かな部屋に響き渡るストレジアの声を聞いて、静かに頭を下げる

2人の人形師。

 しかし、何処か複雑な表情を浮かべながら自身へと顔を向けるその様子に

ストレジアは疑いの視線を向けていた。


(さっきと様子が違うわね……疲れているという感じでもなさそうだけど……)


「何だか様子が変な感じだけど……何かあったの?」


 即座に自身の疑問を口にするストレジアに対し、エウとアフィエスは先ほど

自分たちが見たものの話を彼女へと伝えた。


「写真ねぇ……見たのはこの中かしら?」

「はい、そちらに戻しておきました」


 エウの返事を聞いたストレジアは指された書物を手に取って中を

開くと、先ほどエウたちが見ていた写真がストレジアの目へと留まった。


「ふふ、随分と懐かしい写真が目に入ってしまったみたいねぇ」


 ストレジアは懐かしげな顔でしばらく写真を眺めていると、その様子を静かに

見据えていたエウたちへと向き直る。


「察している通り、いま貴方たちが着ているその服はまさにこの写真に

写っている服と同じもの」

「私の主である、この双子ちゃんが着ていたものよ」


 自身の答えに気まずそうな視線を向ける2人を見て、ストレジアは

不思議そうな声で問い掛ける。


「あら? お下がりは嫌だったかしら?」

「いえ、そういう訳では……」


 自分たちとは真逆の態度で接するストレジアに対して言葉を詰まらせる

2人であったが、その口を先に開いたのはエウの方であった。


「その……そんな大切なものをお借りして本当に良かったのですか……?」

「だって私は着れないし、だからと言って取っておいても仕方がないでしょう」


 ストレジアの答えを聞いて、尚も複雑な表情を浮かべるエウとアフィエス。

 そんな2人の態度をよそに、ストレジアは2人の姿を見つめながら口を開く。


「それにしても本当にぴったりねぇ……まるでこの服が貴方たちを待っていた

みたい」

「それに2人とも凄く似合っているもの、やっぱり着てくれないと勿体ないわ」


「…………」

「そういう訳だから、もし嫌でないのなら気にしないで着て頂戴」


 穏やかな声を発するストレジアを見て、エウとアフィエスも普段の真面目な

表情でストレジアへと向き直ると、自然と声を揃えて口を開く。


「……ありがとうございます、大切にします」

「その方が喜ぶわ、その服も……あの子たちもね……」


「あ、でもちゃんと着るのよ? 大切にし過ぎてお仕事に支障を出すのは厳禁ね」

「……はい」


 2人の返事に聞いて、満足そうな表情を浮かべるストレジア。

 すると今度は何かを思い出したように声を上げる。


「そうだ! せっかくだしあの写真も……」


 ストレジアは先ほどと同じ書物を再び手に取って開くと、中から見つけた

1枚の写真を嬉しそうに取り出した。


「これ見て! 昔の私なのだけれど、素敵な格好でしょう!」


 無邪気な態度でエウたちの目の前へと差し出された写真。

 そこに映っていたのは、まるで王族を思わせる高貴な衣服を

纏ったストレジアの姿であった。


「え、ええ……凄くお綺麗ですね……」

「そうでしょう! 若いうちに着ておいてよかったわぁ!」


 誇らしげな笑みを浮かべながら問い掛けるストレジアに圧倒され、再び声を

揃えながら同意の声を上げるエウとアフィエス。


 その言葉を聞いて喜ぶストレジアを見据えながら、2人の人形師は

心の中で同じ言葉を重ねていた。


(若いって……服装以外の容姿は今と全く変わっておりませんが……)

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Marvel-Hall(マーベル・ホール) 小本 由卯 @HalTea

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