第12話 ストレジアの頼み事
……翌日、魔導人形の屋敷。
人形たちに囲まれた賑やかな部屋の中、自身の仕事へと就くエウの姿があった。
接する人形たちへ穏やかな態度を向けつつも、何処か真剣な表情を浮かべる
エウであったが、彼女のいる部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
その音にエウが言葉を返すと、扉の向こうから聞こえたのは
「……今、手を離せますか?」
「ええ、大丈夫です」
エウの返事を聞いたアフィエスは、落ち着いた声でその用件を口にする。
「ストレジアさんがお呼びです」
「分かりました、今行きます」
部屋を後にしたエウは、扉の先で待っていたアフィエスと共にストレジアの
いる向かいの部屋に近づくと、その気配に気が付いた彼女が姿を現した。
「ありがとう、来てくれたわね」
そう言うとストレジアは、疑問の表情を浮かべたまま自身へと視線を向ける
2人に問い掛ける。
「貴方たち、暗くて静かなところは平気かしら?」
「はい、平気ですが……?」
「……? 僕も平気です」
突然の問い掛けに少し困惑しながら答える2人の声を聞いて、ストレジアは
笑みを浮かべながら再び口を開く。
「それなら良かった、ついて来て頂戴」
「……?」
「奥の部屋で貴方たちに頼みたい仕事があるの」
ストレジアに連れられて、屋敷の奥へと歩いていくエウとアフィエス。
やがて目的の部屋の前へと辿り着くと、2人は他の部屋とは何処か違う
雰囲気に、その扉を静かに見つめていた。
「何の部屋だろう……?」
ストレジアは懐から部屋の鍵を取り出し、手慣れた動作で部屋の錠を外すと
背後でその様子を見ていたエウたちへと声を掛ける。
「それじゃあ、中に入ってもらえるかしら?」
その声に合わせて薄暗い部屋の中へと入る2人の視界に映ったのは、作業台の
上へ無造作に積み上げられた書物や年季の入った数々の道具。
何処か興味を示した表情で部屋の様子を見据える2人の人形師をよそに
ストレジアは説明を始める。
「これ、私がこの屋敷に来たときに前にいた場所から持ってきた物なのだけれど
そのうち片付けようと思っていてもなかなかこっちまで手が回らなくてねぇ……」
難しい顔を浮かべながら事情を話すストレジアであるが、彼女の元で働く2人に
とって、その多忙さには相当なものを感じていた。
ましてやそれが自分たちが雇用される以前の話となれば、尚更のことであった。
ストレジアの話から、その内容を理解した2人は彼女へと問い掛ける。
「つまり、これを私たちで……?」
「その通りよ、お願いできるかしら?」
「私物と言うことですが……万が一見てしまっても……?」
「もちろん、見られて嫌なものだったら初めから頼まないわ」
「……了解しました」
「お願いね、何か気になることがあったら遠慮せずに聞いて頂戴」
そう言い残してストレジアが部屋から立ち去ると、エウたちは部屋の様子を
見渡した。
再び静寂が訪れた部屋の中で、先に口を開いたのはアフィエスであった。
「……いつも通り、分担しながら進めましょうか」
……。
物静かな部屋の中、置かれた品々を慎重に仕分けていく2人の人形師。
その与えられた仕事に終わりが見えてきたその時、エウが手にした本の間から
1枚の小さな紙がこぼれると、その付近で作業をしていたアフィエスの足元へと
滑り落ちた。
「……?」
気が付いたアフィエスがそれを拾い上げると、エウは追うように彼の傍へと
近づいた。
「ごめんなさい、この本から落ちたみたいで……」
駆け寄ったエウにアフィエスが紙を差し出すと、エウは慌てたようにそれを
受け取る。
「ありがとうございます……あれ?」
「……何か?」
手に持った紙を見ながら驚くエウにつられて、アフィエスも紙へ
視線を向けると、次に浮かべたのは彼女と同じ表情であった。
本から落ちた紙の正体は1枚の古びた写真。
そこに写るのは、ストレジアとその両隣に映る男性と女性の姿である。
しかしエウとアフィエスが驚いたのは、そこに映る人物たちではなく
ストレジアと一緒に映る2人が纏っている衣服。
その見覚えのある衣服はまさに今、それぞれ自分たちが纏うそれと
同じ形状のものであった。
「まさかこの服……」
「……思った以上に大切なものだったみたいですね」
写真から察したその事態に2人は複雑な表情を浮かべていると、エウは
何かを思い出したように声を上げる。
「逸らしてすみません……お仕事を終わらせちゃいましょう!」
「……そうでしたね」
エウの言葉にアフィエスが同意の言葉を返すと、2人は再び
仕事へと取り掛かった。
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