番外編〜結末が鷺森麻耶だった場合〜②

 という訳で、今日は付き合い始めてから初めてのデート。

 もう、麻耶ねぇご機嫌。デートをするって言い始めてから本当にもうご機嫌なのよ。

 家から出るまでずーっと鼻歌を歌いながら俺の背中に抱きつく始末。


 ……全く、本当に麻耶ねぇには困ったものだぜ。

 可愛し柔らかしいし嬉しいから許してしまうのだけれども。


 というわけで、俺達はデートにレッツゴー!

 久しぶりな時間にウキウキしながら────


「いい湯だね〜」


「……そうっすね」


 温泉に入っています。


 ちゃぽーん。


 なんて音が聞こえてきそうだ。

 ついでに「ばばんばばんばんばん♪」なんて歌も聞こえてきそうだ。


「望くん、どうしてそんなに離れてるのかな〜?」


 髪を纏め上げ、ほんのりと蒸気で朱に染める麻耶ねぇがグイッと近づく。

 それに呼応するかのように俺もすかさず


「……なんで避けるのかな〜?」


「……どうして近づくのでしょうか?」


「お姉ちゃんとして……ううん、彼女としては当然のスキンシップだと思うんだけど?」


 いや、まぁ……スキンシップと言われればスキンシップなんだろうけどさ?

 俺としても、スキンシップは大歓迎だ。もっとやろう。


 だがしかし、今回は状況が状況だ。

 見て欲しい、この姿。わたくしめはもちろん腰に一枚タオルのみ。

 麻耶ねぇに至っては胸までを大きく隠すバスタオルだけ。っていうか、普通に胸を隠せてない。


 ばいんばいんだからうちの彼女は! 本当にもうばいんばいんなんだよ!?


 目に毒……じゃないや、目にアルギニンなんだよ! 

 そんな麻耶ねぇが近くに寄ってきたら? もうね、理性が持たないの。やっぱり、初めてはちゃんとしっかりした場所と雰囲気で……したいんです。

 だから────


「……麻耶ねぇ。俺の紳士たるプライドを守る為に……どうかっ! どうかご容赦を……っ!」


「そ、そんな真面目に────あ、そっか〜♪ うんうん、分かったよ〜」


 俺が苦渋の顔をしてお願いすると、どうやら麻耶ねぇは理解してくれたらしく、ちゃんと離れてくれた。

 ……流石は幼なじみっす。よく俺の事を理解してくれている。


「……それにしても、デートが温泉ってどうなのよ?」


「う〜ん……なんとなく?」


「おぉう……俺はなんとなくで男のプライドを失いかけたのか」


 恐るべし麻耶ねぇ。

 ともより、一緒に来た俺も大概なんだが……。


 話は戻って、現在電車で北上すること三時間。

 そんな場所にある旅館────ではなく温泉地へと足を運んでいた。


 なんでも秘湯の地……らしく「どこ行きたい?」「じゃあここにしようよ〜」なんてやり取りで来ることになった。


 ……ざっくりな説明でしょ?

 本当にざっくりなんとなくで来たからこうなっちゃったのよ……ごめんね?


 でも、今にしてはしっかりと確認しておくべきだった。

 ここが────


「まさか混浴だっただなんて……ッ!」


「いいじゃん混浴〜♪ だって望くん、普通に一緒に入ろって言っても断るでしょ?」


 今なら断らない自信があります。

 ……いや、嘘です。時と場合によっては普通に断ります。


「でもさ……たまたま、俺達しかいなかったけど────」


「けど?」


「……他の人がいたらどうするわけ?」


 俺は麻耶ねぇの体には顔を向けず、明後日の方向にジト目を向ける。


「う〜ん……いなかったらよし! ってことにしない?」


「しない」


 何を考えてるんだこの彼女は……。


「あのねぇえ? 麻耶ねぇがよくても俺は嫌なの。なし崩しで入っちゃったけど、麻耶ねぇの体を他の奴に見られたくないの。分かったかね?」


「ご、ごめんね……」


「まぁ、誰も来る気配ないからもういいけどさ……次からは絶対行かないぞ?」


 ちゃぷん、と。

 湯船に口元まで浸からせる。


 本当に、麻耶ねぇはもう少し己が美少女だと言うことを自覚して欲しいものだ。

 ついでに、もう誰のものになったかも……その、自覚して欲しい。


「ふふっ……」


 すると、しょんぼりしていたはずの麻耶ねぇが急に笑いだした。


「……何かおかしかったか?」


 別に特段おかしな事は言ってなかったんだがなぁ……?

 あれか? 独占欲が強いって思われたのか?


「ううん〜、おかしくはないよ〜! けどぉ────」


「ふぁっ!?」


 すると、麻耶ねぇがいきなり俺の背中に抱きついてくる。

 いつもであれば服というガードがあったのだが、今ではなんと何も……なくはないが、薄すぎる!


 それによって感触が直に来るし、柔らかいすべすべするし息子が元気になりそう!


 だから思わず変な声が出てきちゃったんだけども。


「お姉ちゃんちょっと嬉しかったかな〜♪ だって、それって私を大事にしてくれて、自分のものだって思ってくれてるってことでしょ?」


「……」


「それに対しては本当にごめんね……でも、やっぱりお姉ちゃんとして……ううん、望くんの彼女として、やっぱり嬉しく思っちゃったな」


 嬉しそうに、俺の顔なんて見ずに麻耶ねぇが俺の背中に顔を埋める。

 互いの温もりを感じれるように、その鼓動が伝わるように。


「……そうか。なんかアレだな……その言葉は複雑な気持ちになるよ」


「え〜、何それ〜」


「いいだろ、別に……」


 それから、俺達の間に会話はなかった。

 ただ、麻耶ねぇが後ろから抱きついて、その体勢から変わらず、互いが湯船から出ようとせず。

 その間、俺達以外に誰も入ってくることは無かった。


「……本当に、大好きだよ


「そうだね……私も大好き」


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