エピローグ~こうして物語は幕を下ろす~

「なぁ……西条院」


「はい、なんですか?」


 俺が告白をしてほんの数分後。

 西条院の頬から流れる涙はすっかり消え去っており、隣にいる彼女の顔はとても幸せそうだった。


「俺達さ、これで付き合ったわけだよな?」


「えぇ、お付き合いしてますね」


 人生初の彼女。

 彼女が欲しいといった俺の目標は叶い、今は幸せな気持ちが胸の中に広がっている。


「だからさ、付き合いだしたカップルとして、スキンシップは認めるつもりなんだよ。俺も嬉しいし、好きなんだなぁーって分かるからさ」


「では、これからはどんどんスキンシップしないといけませんね」


 そう言って、隣にいる彼女は己の体を密着させる。

 そのおかげで俺の体に伝わるのは、彼女の柔らかい感触と—————関節が激しい唸りを発している痛みのみ。


「これはないんじゃないかなぁ~?あの告白の後に、見事な関節技はおかしいと思うんだよね~!さっきから、ドキドキも幸せも痛みによって上書きされているんですけど?」


 現在、俺は誰もいない科学準備室で関節技を極められていた。

 甘い空気はどこにいったのか?俺、さっき告白してOKもらって、ここからイチャイチャな生活が待っていたんだと思っていたんだけど?


「今回ばかりは時森さんが悪いです!なんですか!?私が頑張って……キ、キスしたのに「あ、西条院ってキスする時も胸当たらないんだな」って————おかしくないですか!?一瞬で気分が下がりましたよ!」


「あぁぁぁぁぁっ!!!西条院、そっちに腕はまがらなぁぁぁぁぁっ!?」


 いや、仕方ないじゃん!本当に当たらなかったんだからさ!?

 麻耶ねぇも神楽坂も、キスされた時に当たっていたんだよ!?ちょっと不思議に思って思わず口に出ちゃっただけなんだよ!


「はぁ……もういいです。あなたに空気を読め、というのが難しいというのは分かっていましたから」


 溜め息をつきながら、西条院は俺の腕を放してくれた。

 ……おぉう、関節がまた外れると思った。


「すまんすまん。……でも、これが俺達らしいじゃないか」


「……そうですね」


 俺がそう言うと、西条院は小さく笑う。


 これが、俺達らしいのだ。

 俺が馬鹿言って、西条院がそこにツッコんだり。

 ……変にイチャイチャするのではなく、こんなたわいもないやり取りこそ、楽しく感じる。


 西条院も、それが分かっているのか—————俺の手を握って微笑んでくれた。


「ですが、少しぐらいはイチャイチャしてみたいですね。折角、あなたとお付き合いできたんですから」


「ははっ……お手やわらかにな」


 もしかしたら、俺の命がなくなるかもしれないから。


 業腹な事に、どうやら俺はあまり女の子のスキンシップには強くないらしい。

 例え、それが好きな相手だからといっても、耐えきれるかどうか分からん。

 ……あれ、意外と俺情けなくないか?


「それでは、そろそろいいですか?」


「あぁ…今日のところはこれくらいでいいか」


 俺達は互いに視線を合わせると、折角繋いだ手を離す。

 名残惜しいと思ってしまったが、またどこかですればいいだろう。


 とりあえずは————


「もう、出てきていいですよ」


『『『『ッッッ!?』』』』


 西条院がドアに向かってそう言うと、複数の息を飲む声が聞こえる。

 はぁ……気づいていないと思ったのかね?


「ははは……バレてた、ひぃちゃん?」


「気づかれていたみたいだよ、神楽坂ちゃん」


 すると、ドアが開きぞろぞろと見慣れた顔が中に入ってきた。


「バレバレ———という訳ではありませんが、気づいてましたよ」


「もしかして、望くんも気づいていたの?」


「あぁ。何せ一度それで苦い思いをしたからな—————そうだろ、一輝?」


「まだ根に持ってるの……?」


 神楽坂に麻耶ねぇ、先輩に一輝。

 揃いも揃って二人きりの教室に現れる。


「始めから覗き見しやがって……少し恥ずかしかっただろうが」


「いや~!望くん達がどうなるか気になっちゃってね~!おねぇちゃん達、覗きに来ちゃいました!」


 本当に、恥ずかしかった。

 告白自体はそこまで緊張もしなかったし、恥ずかしくもなかったのだが……入口の方で見られていたことは恥ずかしかった。

 ……一世一代の告白を覗き見って、よくないと思うよ?


「……まぁ、麻耶ねぇ達だったら別にいいけどさ」


 どうせいつかは言うつもりだったんだ。

 その手間が省けたと思えば別にいいだろう。


「ひぃちゃん!」


 神楽坂は西条院の元に駆け寄る。

 そして、西条院の手を思いっきり握った。


「おめでとうって言わないからね!ひぃちゃんが隙を見せたら、すぐに奪っちゃうんだから!」


 なんと男らしい宣戦布告だろう。

 聞かされている俺は恥ずかしいし、少し嬉しくなってしまうよ。


「ふふっ、構いませんよ。絶対に隙なんて見せませんから」


「柊夜ちゃん、望くんを幸せにしなきゃだめだよ!もし、難しそうならおねぇちゃんが変るからね!」


 それは普通男が言うセリフではなかろうか?

 俺、立つ瀬がなくなっちゃうんだけど?


「おめでとう、望」


 そんな彼女達の姿を見ていると、隣から親友に声をかけられる。


「あぁ…ありがとうな」


「すまないね、少年。覗き見なんて真似しちゃってさ」


「いえ、気にしないでください。どうせ言うつもりだったんで」


 先輩も、俺の隣にやって来る。


「ほんと、先輩や一輝達には感謝してますよ……きっと、俺一人では無理でしたから」


「俺は何もやってないさ。少年の力じゃないか?」


「そうだね……これも、望だからできたことだと思うしね」


 いや……違うさ。


 きっと、俺一人では彼女達に出会うことも、好きになることもなかった。


 もし、あの時一輝が神楽坂達を科学準備室に連れて来なかったら?

 もし、先輩が俺の無茶を聞いてくれなかったら?

 もし、彼女達が俺を支えてくれなかったら?


 ————多分、今のこの状況は生み出せなかっただろう。


 俺は目の前で楽しそうにしている彼女達を見る。

 それぞれ、彼女達の中では様々な想いはあるのだろうが、関係は崩れることなく、変わらぬ仲のいい彼女達でいてくれていた。




 俺は、一期一会と言う言葉が好きだ。

 一生に一度しかない出会い。紛れもなく、彼女達に出会えた俺は幸運だと思う。

 だからこそ、この出会いを一生大切にしたい。



 それぞれ、彼女達には色んな想いがあった。

 そして、それを互いに支え合って乗り越えてきた。


 そんな彼女達は今、きっと幸せなのだろう。


「時森さん、あなたからも何とか言ってください!」


「時森くんも他人事じゃないんだよ!」


「望くん~!こっちにおいでよ~!」


 彼女達が俺に向かって手を振ってくる。

 それを見て俺は小さく笑うと————




「あぁ…今行くよ」



 俺も、幸せだ。








『彼氏が欲しい』『彼女が欲しい』。

 そんな目標から始まったこの物語。


 それは、目標を叶えたことによって終わりを迎える。


 目標が叶わなかった人もいる。

 それでも、俺達の関係は崩れることなくハッピーエンドを迎えた。



 まだ、俺達の物語は続くと思う。


 けど、とりあえずはこの物語の幕を下ろそう。






 これで全ての役者は台本を閉じた。


 全ての役者は、幕を下ろしても幸せそうに笑っていた。











































 物語の終わりまで


 後————






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


※作者からのコメント



みなさん!お疲れさまでした!

ついに『俺彼』完結です!


ここまで読んでくださった方には感謝の言葉しかありません!

ありがとうございました!


いろいろと最後に思うことはあるかもしれませんが、作者的にはこれで満足しています!


アフターストーリー、続編のどちらかは書いてみようと思いますが、これにてこの話はお終いです!


お付き合いくださった皆さんには最大級の感謝を!


そして、他の作品も投稿しているので、これからもよろしくお願いします!

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