この守ってもらった日常

(※麻耶視点)


「おいっ、クソ親父!いい加減、神楽坂に抱きつこうとするのはやめろ!」


「いーやーだー!銀髪美少女さんと熱い抱擁を交わしたいー!」


「今まで何回も連れてきてるだろ!?もうそろそろ落ち着けや!?」


「……あはは」


 最近では見慣れた光景。

 私の家の玄関で、そんなやり取りが繰り広げられていた。


「あらあら〜、これで何回目かしらね」


 そう言って、お母さんは慣れた手つきで、手に持ったスタンガンをお父さんの首元に当てる。

 すると、お父さんは一瞬体を震わせると、無言のまま床に崩れ落ちてしまった。


 ……はぁ、どうして私のお父さんはいつもこんな感じなんだろう。

 もう少し、大人らしい振る舞いをして欲しいよぉ……。


「ごめんねアリスちゃん、うちのお父さんが……」


「いえっ、大丈夫です!……もう慣れましたから」


 そう言ってくれるアリスちゃんの顔はかなり引きつっていた。

 ……うん、そろそろお父さんを本格的に殺らないといけないかも。


「母さん、父さんの処理お願いしていいか?俺は今から夜飯作るから」


「分かったわ〜」


 今日は週に一度の望くんが家に来る日。

 最近では望くんに連れられて、アリスちゃんも家に来るようになった。

 今では、お母さん達もアリスちゃんも家族のように思っている節がある。


「あ、望くん!私も手伝うよ〜!」


 そう言って、キッチンに向かう望くんの後ろをついて行く。


「お、悪いな麻耶ねぇ。じゃあお願いするわ」


「うん!任せて!」


 ふふっ、望くんと2人でお料理!


 これが、私の週一回の楽しみ。

 というのも、「たまに来る時ぐらい、料理を作らせてくれ」と望くんが言い出したことが始まり。


 多分、望くんなりに親孝行したいんだと思っての行動だと思う。

 それを分かってなのか、お父さんもお母さんも、望くんが料理を作ることに何も言わない。むしろ、息子の手料理が食べれて喜んでいるくらい。


 そして、それを毎回私が手伝っている。

 アリスちゃんには申し訳ないけど、ここばっかりは譲って欲しいかな!


 だって、これって夫婦みたいで幸せな気持ちになるんだからっ!



 ♦♦♦



「う〜ん!美味しいです、麻耶先輩!」


「そうね〜、やっぱり私の息子はいい腕してるわ〜。私より美味しいんじゃないかしら?」


「マイハニー、酒とってくれ」


 家の食卓に私達が作った料理が並ぶ。

 みんな美味しいそうに食べてくれるから、私の気持ちが暖かくなるのを感じた。


 ちらりと横を見る。

 そこには、頬を緩ませながら食べている望くんの姿があった。


 その姿はーーーーー幸せそうだ。

 いつも通りの日常だけど、その些細な幸せを噛み締めているように見える。



(そういえば、望くんがうちに通い始めてもうすぐ2年になるんだよね〜)


 望くんの両親が亡くなって2年が過ぎようとしている。

 そういえば、もうそろそろ命日だったかな?


 あの時から、望くんは私の家でご飯を食べに来るようになった。

 始めは、望くんも私達によそよそしくて、今みたいに和気藹々と過ごしていない。

 けどいつの間にか、望くんの中の壁が消えて、こうして私の両親を「お母さん」「お父さん」と呼んでくれるようになった。


 そして、お母さんもお父さんも、望くんのことは実の息子のように思っている。


 ……私も、そのうちの一人だ。


 実の姉のように思いながらも、1人の女として望くんと接している。

 できればこのまま本当の家族になりたいけど………私は高望みはしない。



 だって、この当たり前の日常は、望くんに守って貰ったから。



 あの時、私が屋上から落ちていたら。

 あの時、私が手首の傷を手当しなかったら。


 今のこの幸せな日常は、守れなかった。


 お父さんが、楽しそうにお酒を飲んで。

 お母さんが嬉しそうに、料理を食べて。

 アリスちゃんが、笑いながらお父さん達と話して。


 ……そんなこの日常は、私には味わえなかった。


 だからこそ、私は今でも望くんに感謝している。

 望くんは、「俺の方が感謝している」と言っていたけど、そんなことない。


 望くんは私を守ってくれたし、この日常も守ってくれた。

 それは、誰にでもできることじゃないし、望くんにしか出来なかった。


 だから、私は望くんに胸を張って自慢して欲しい。

「俺のおかげで、一人の女の子が幸せになったんだ!」って。


(けど、きっと望くんは自慢しないんだろうなぁ……)


 当たり前のことだから、麻耶ねぇが傷つくことを見たくなかっただけだ……って。


 嬉しいけど、同時に寂しく感じる。


 望くんは、もっとみんなに褒められて幸せになって欲しい。

 彼には、私が守って貰った以上に幸せになって欲しい。


 だから、私は望くんを見守り続けるんだ。

 彼が幸せになってくれるよう、彼が幸せにあり続けれるよう。





 だから、私は今日も幸せな日常を謳歌する。


「麻耶ねぇ」


「なに、望くん?」


「美味しいな」


「……そうだね」




 望くん、私の日常を守ってくれて、ありがとう。




















































 物語の終わりまで


 後4日

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