見慣れてしまった日常

(※柊夜視点)


 あのスポーツイベントも終わり、何も無い平日。

 今日もいつもと変わらない日常が始まろうとしています。


 私は下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替えると教室へ向かいます。

 その際に何人かの生徒たちから挨拶されました。


 ふふっ、皆さんおはようございます。

 朝の挨拶というものは気持ちがいいものですね。


 ここ最近の私は少し浮かれています。

 というのも、あと約1週間でホワイトデーだからです。


 私がバレンタインデーにあげたチョコは時森さんだけ。


 彼はどんな風なお返しをくれるのでしょうか?

 彼のことですから、きっちりとしたものを返してくれるかもしれません。

 手作りだと……嬉しいですね。


 それに、あの告白から1ヶ月が経とうとしています。

 その間、色々な出来事がありましたが、きっと彼ならそろそろ応えを出してくれるでしょう。


 急かすことはない。

 私はいつまででも待っていますから。


 それに、きっと彼ならホワイトデーにーーーーー


「おはようございます」


 私は自分の教室へと着くと、ゆっくりとドアを開けます。


『待てお前ら!俺を殺るより一輝を殺った方がいいと思うんだ!』


『望!そこで売るのは酷いと思うよ!』


『だまれぇい!貴様らの罪は万死に値する!大人しく我らの鉄槌を受けやがれ!』


『鉄槌って比喩的な表現だよな!?実物じゃないよな!?』


「……はぁ」


 何故、教室に入った途端にこのような光景が広がっているのでしょうか?

 最近は無くなりつつあるな、と思っていたのですが……。

 このクラスは、どうしてこんなにも過激な人が多いのでしょう?


「あ、ひぃちゃんおはよう!」


 私がその光景を見て溜息をついていると、サラリとした銀色の髪をなびかせながらアリスが私の元にやって来ます。


「えぇ、おはようございます」


 私の親友に挨拶を返す。

 すると、アリスは可愛らしい笑みで微笑んでくれました。


 ……やっぱり、アリスは可愛いですね。

 こう、愛でてあげたくなると言いますか、守ってあげたい気持ちになるといいますか……。


 どちらも私にはない、アリスの魅力ですね。

 少し、羨ましいです。


「ところで、あれは何ですか?」


 鈍い音を響かせながら、集団で鈍器を振り下ろしている光景を指さして尋ねます。


「なんかね、昨日どこから知られたのか分からないけど、私たちがチョコをあげたのがバレちゃったみたい」


「……なるほど」


 なんてしょうもない理由なんでしょうか……。


 つまり、私達からチョコを貰った時森さんに嫉妬して、あのような目にあっているという事ですかね。

 ……今更ですが、私達のクラスの男子は嫉妬に素直じゃありませんか?


「でも、もうそろそろ終わると思うよ!」


 人間の慣れというのは恐ろしいですね。


 あの純粋無垢で優しかったアリスが、この状況を見ても平然と眺めているのですから。

 それだけ、このクラスでは日常茶飯事ということでしょうか……。

 まぁ、そう言っている私も特に驚かなくなりましたが。


『ヒャッハー!やっぱり気持ちいぜ!』


『チョコを貰っていたことを黙っていたとは……死!』


『殺っちゃうよ〜!今日という今日は殺っちゃうんだからね〜』


 ……本当に、驚かなくなりましたね。

 慣れというのは本当に恐ろしいです。


「それより、早く座りましょうか」


「そうだね!」


 あの騒ぎも後数十分もすれば終わるでしょう。


 だから、今は放置していても問題ありませんよね。



 ♦♦♦



「酷い目にあったわ……」


 顔を腫らして痛そうな素振りを見せる私の想い人。

 逆に、私からしたらあの惨状でよくその程度の怪我で終わりましたね、と褒めてあげたいくらいです。


「本当に、何度味わってもあの痛みには慣れないよ……」


「それな。登校してきたかと思えば、いきなりスタンガンで体を怯ませた後、両手両足を拘束、抵抗できないように数度頭にメリケンサック付きの拳、そして最後には思い思いの鈍器の殴打ーーーーー流石にあれは慣れないよな」


 ……よく、その程度の怪我で済みましたね。


「ねぇ、なんでバレちゃったの?」


「そういえば、確かに何でバレたの?しかも、僕は元々バレていたのに今更報復だなんて……」


「ん?……あぁ、昨日山田とラ〇ンしていた時「いやー、俺そういや3人からチョコ貰ったんだよな!」って言ってしまってな」


 素晴らしいほどの自滅ですね。

 無駄に自分の首を締めただけじゃないですか。


「……ということは、僕は望の巻き添え?」


「……すまん、今度何か奢るわ」


「……いや、いいよ。この前は手伝って貰ったし」


「……本当に、何か奢るわ」


「こ、これが男の友情……っ!」


「アリス、違います。あれは友情じゃありません」


 どこからどう見たら、あれが男の友情になるのでしょうか?

 明らかに肩を叩きながら謝っているだけじゃないですか。

 しかも、友人の一方的な自滅に巻き込まれただけの。


 だからアリス、顔を赤くしてチラチラと見るのをやめてください。

 そういう趣味は持ってはいけません。


 ……はぁ、最近アリスが少しだけ変な方向に向かって行っている気がします。


 これも、時森さんの影響……なのでしょうか?

 だとしたら、私が後でお仕置しないといけませんね。


 ……まぁ、多分時森さんの所為ではないと思いますが。




「そろそろ席に戻りましょう。ホームルームが始まってしまいますよ」


「「「は〜い(ほ〜い)」」」


 そう言って、私は3人に席に戻るように促します。



 こうして、いつもと変わらない日常が始まりました。






























 物語の終わりまで


 後6日

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