最終章 ホワイトデー編
プロローグ
外は暗く、皆が寝静まったとある日の夜。
神楽坂が寝静まった我が家で俺は一人、キッチンにいた。
「ふぅ……こんなものでいいだろ」
額に少しばかり浮かんだ汗を拭い、少しの灯りが灯っているキッチンを見る。
そこには綺麗にラッピングされた3つのチョコ置いてあった。
どれも作りは同じで、俺がかなり本気で作ったものだ。
スポーツ大会も終わり、いよいよ一週間後にはホワイトデー。
そのためのチョコを作っていたというわけだ。
本当は前夜とかに作るのが一番いいのかもしれないが、こればかりは仕方ない。
神楽坂がいない間に作っておきたいと思っているので、今日というチャンスを逃したらいつ作れるか分からなかったからだ。
市販のチョコは嫌だ。
彼女達が一生懸命作ってくれたのであれば、こちらも一生懸命作るというのが筋というものだろう。
そして————
「もらった想いにはしっかり応えをつける……」
バレンタインデーで、彼女達からはそれぞれの想いをもらった。
それはどれもこれも俺に対する好意や気持ち————初めて知った想いもあれば、改めて布告されたものもある。
待たせてしまった……と思っている。
あれから一ケ月が経とうとしていた。
普通であれば、その場でしっかり答えを出すのが当たり前なのかもしれない。
けど、俺にはそんなことはできなかった。
3人とも、俺にはもったいないほど魅力的な人たちだ。
それぞれのいい部分を持っていて、俺をことあるごとに支えてくれた————俺の大切な人。
だからこそ、おいそれと簡単に決められなかった。
けど、それももうお終い。
俺は、俺の気持ちを彼女たちに伝えよう。
このホワイトデーという絶好のイベントで。
西条院の父親から教えてもらった。
源さんからは気づかせてもらった。
考えるのではなく、自分が素直に感じた感情こそ————俺の好きという感情。
分からなかった。
好きというのは、本当はどのような気持ちだったかなんて。
始めに俺が大勢の人に告白した時とは全く違う感情。
その人を思い出すだけで、幸せな気持ちになる。
あぁ…これか。これが好きということなんだ。
俺はそう気づかされた。
俺は改めて綺麗にラッピングした3つのチョコを見る。
3つのチョコはどれも変わらない、同じクオリティのもの。
優劣をつけようとは思わない。
3人が全員、俺の大切な人だ。
けど、『異性として好き』と思える人は————1人だけだった。
この想いを告げたら、もしかしたら今までと同じ関係にはなれないのかもしれない。
きっと、4人の関係は変わってしまうだろう。
不安はある。
俺だって、出来れば今まで通りの楽しい関係が続けばと思ってる。
けど、それじゃあダメなんだ。
彼女達は、関係が壊れても、変わってでも俺に想いを告げてくれた。
だからこそ、俺がそれに答えないでどうする。
「始まりは、どこからだっけな……」
俺はふと昔を思い出す。
麻耶ねぇとは、あの時の屋上で。
神楽坂と西条院とはあの空き教室で。
それぞれの関係が始まった。
『一期一会』なんて四字熟語が、俺は好きだ。
彼女達だけじゃない。
先輩や一輝、クラスの連中達とも出会えたこの運命は、大切にしたいし、感謝してる。
一つの出会いを大切にして、これからも大切にし続けよう。
だって、この彼女たちに出会えた今という瞬間が……俺は好きなんだ。
(あぁ、昔の俺は今、こんなに幸せになっているなんて想像つかなかっただろうなぁ……)
彼女達と出会えたことも、好きだと言ってもらえたことも、俺にとっては胸がはち切れそうなほど嬉しいもの。
きっかけはなんだっていい。
けど、明確にはっきりと分かっているのは、あの出来事から俺たちの関係は少しづつ変わっていったんだと思う。
『彼氏を作る』『彼女を作る』。
そんな目標を、俺達はそれぞれ掲げていた。
ギブ&テイク————当初の俺たちの関係はそんなものだった。
しかし、いつからか————それぞれ同じ時間を過ごしていき、次第に気持ちが変っていった。
そして、今では俺が一歩踏み出せば、その目標は叶う。
だが、俺が選ぶのは1人だけ。
必ず、2人の想いには答えることができない。
けど、それでいいんだ。
俺がしっかり応えなければ、それこそ彼女達に失礼だから。
あぁ……そろそろ、幕を引かなくてはならない。
それぞれのきっかけで始まった、この物語。
彼女達はそれぞれ台本を閉じた。
彼女達は、自分の物語の役目を終えた。
役者は全て舞台から退場し、残るは想いを待つ3人の少女だけ。
『彼氏を作る』『彼女を作る』という目標から始まったこの物語———————————
俺が、終わらせる。
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