~エピローグ~一輝と望

 スポーツ大会も幕を閉じ、生徒たちは後片付けを始めていた。

 といっても、野球部の監督が「後はうちの部でやっておくから」と気前のいいことを言ってくれたので野球部以外は下校している。


 生徒会も本日はお休みとのことで、皆それぞれ帰ってしまった。

 神楽坂と麻耶ねぇに「一緒に帰ろ?」と誘われたのだが、今日は先に帰ってもらった。


「すごいね望は。野球部の監督に誘われるなんて」


「いんや、すごくねぇよ。俺は所詮付け焼き刃で、野球部の連中に比べたらそこまで上手くない」


「全打席ホームランの人が何を言っているのだか……」


 そう言って、夕日が差し込む教室の窓に寄りかかりながら、一輝は呟く。

 教室には俺と一輝の二人しか残っておらず、騒がしい我がクラスメイトも愛しの我が家へと帰ってしまった。


 だからこそ、教室が静寂に包まれている。


「……望」


「ん?」


「ありがとうね、僕の為にこんなことしてくれて」


 一輝は自分の机に座っている俺の方を向いて、真っ直ぐ言い放った。


「別に、俺だけじゃないだろ」


 そう、今回の行事も決して俺一人の力でできたわけじゃない。

 西条院に神楽坂、麻耶ねぇに先輩、そして野球部のメンバーに先生たち—————みんなの協力がなければ、こんな行事何て開けなかった。


「だけど、望がいなきゃこんなことできなかったからね。ほんと、やると決めたら愚直に進んでいくんだから……」


「それは褒めているのか?」


「褒めているさ。これ以上にないくらいね」


 そう言って一輝は野球部の声が聞こえる外を眺める。

 その姿は、たちまち女の子がカメラを取り出すほど絵になっていた。


 ……ったく、無駄に黄昏ちゃってまぁ。

 イケメンはどうして黄昏ただけで様になるのかね?


「やっぱり、望はすごいよ。自分に強い芯を持っていて、それに向かってどんな時でも前に進んで行く—————そんな望が羨ましいよ」


「なんだ?俺にでもなりたいってか?」


「ははっ、それは違うよ。望は望だからそこまで突き進めるんだから、僕じゃ真似できない。でも……僕は僕が気に入っている」


 それはそうだ。

 俺も一輝が羨ましいと考えたこともあったが、一輝になりたいと思ったことはない。

 だからこそ、俺達は長い事親友でいられたのだろう。

 ……たまに、あのイケメンフェイスを妬むことはあるが。


「知ってると思うけど、僕は桜田さんと出かけることができたよ」


「よかったな」


「この行事を通じて仲良くもなれたし、こうして一緒に出掛けることもできた————そして、やっぱり好きなんだなぁって思った」


 それは、見ていて分かったよ。

 桜田先輩と話す一輝の顔はとても楽しそうで、どれもクラスメイトや俺にも向けたことのない表情だった。


 桜田先輩も、一輝と話している姿は決して嫌というわけでもないように見えた。

 正直、俺からすればかなりお似合いの二人だと思う。


「だから、僕頑張るよ。望達がここまで協力してくれたから。後は、僕自身の手で仲良くなるよ」


「……そうか」


「僕は桜田さんとお付き合いしたいな。いつになるか分からないけど……絶対に僕のことを好きにさせてみせる」


 きっと、一輝は彼女と付き合えるのだろう。

 根拠も何もない。


 けど、一輝が顔だけがいい男じゃないのは知っている。

 人を見た目で判断せずに誰よりも相手のことを見てくれて、一生懸命になってくれる。

 そんな一輝のことを好きにならない女なんて、正直見る目がないと思う。


 まぁ、親友として贔屓目で見ているだけなのかもしれないが。


「それで、望はどうするの?」


「……何の話だ?」


「西条院さんと神楽坂と麻耶さんのことだよ。……まさか、僕が気づいていないと思ったの?」


 知ってるよ。

 お前が気づいていることぐらい。

 それに合わせて上手く立ち回ってくれていたことくらい。


 本来なら、西条院達と関わっているだけでクラスメイト達に殺されてもおかしくない。

 けど、今まで被害が少なく過ごせていたのも、一輝が上手く立ち回ってくれていたからこそ。

 ……俺の答えがしっかりと出せるように。


「心配すんな」


「ふぅん……ということは?」


 散々考えさせられてきた。


 どうすればいい?何が俺の気持ちだ?恋とはなんだ?

 けど、結局は西条院の父親が言っていたことが正しかったのかもしれない。


「あぁ……分かったよ。俺が誰のことが好きなのか」


 しっくりくるのだ。

 考えるのではなく、感じたことによって不思議と心のモヤモヤが晴れていった。


「みんな、いい人だよ。こんな俺の事を好きになってくれたし、彼女一人一人に眩しいくらいの魅力がある—————全員、俺の大切な人だ」


「そっか……じゃあ、当初のあの目的は果たせそうだね」


「そうだな……『彼女が欲しい』。この目標の為に、俺は頑張ってきた」


「あの時の望はすごかったよね、いろんな人に告白してさ」


「今となっては黒歴史なんだ、やめてくれ」


 昔の俺は『彼女が欲しい』という目標に向かって努力し続けてきた。

 そして、いろんな人に告白してきた。


「けど、違っていたんだよな。努力なんかしなくても、俺という人をちゃんと見てくれる人がいた。そんな俺を好きになってくれた人がいた」


「うん、彼女達は本当にすごい人だよ」


「あぁ……だからこそ、俺はちゃんと答えを伝えるつもりだよ」


 それが、俺なりの向き合い方だ。

 3人には、想いを伝えてもらった分真摯に俺の想いを伝えなければいけない。


 それが、最低限の人としての矜持だ。


「嬉しいね、望に好きな人ができたなんて……」


「それはお互い様だ」


 俺達は顔を合わせて、小さく笑った。

 だって、お互いに前に進めたのだから。


 互いが互いのことを喜んでいるんだろう。


「ちなみに、誰を好きになったのか聞いてもいい?」


「あぁ……いいぜ、親友。俺とお前の仲だ」


 静まり返った教室で、俺は口を開く。





「俺が好きなのは—————」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


※作者からのコメント


はい!というわけで春のスポーツ大会編はこれで終了いたしました!

今回はちょっと面白くなかったかな?と不安になっている作者です。


しかし、結果としてはいい方向に進んで行けたと思います!

次回はちなみに当初のホワイトデー編!


こうご期待!

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