春のスポーツ大会!決着!(1)

 さてーーーー勝つと意気込んだものの、実際に俺の出番が回ってくることはもうない。

 一輝は、最終回だけの出番となっている。


 これがこのルールの難しいところなのだが、これがないとみんな楽しくできないし、野球部がいない我がクラスは今頃コールド負けのオンパレードだったことだろう。


 だがしかし!それは向こうも同じ!

 各回に必ず野球部が出場しているものの、人数は限られている。


 だからこそ、俺らにも勝てるチャンスが「カキーン!」回ってくる可能性が「カキーン!」残されて「カキーン!」……いるかなぁ?


 気がつけば無死満塁。

 ピッチャーも、野球部達や一般の生徒たちの猛攻を受けて疲れきっている。

 ……うぅむ、まだ無死なんだけどなぁ。


 仕方ない。どうやら、ベンチ戻ってきたタイミングで『あの秘策』を使うしかないようだ。


『あの秘策』さえあれば「ホームイン!」きっとみんなも「ホームイン!」勢い付いて「ホームイン!」くれるに「ホームイン!」……違いない、と信じたいなぁ。



 さて、この回は暖かい目で見守る必要があるみたいだ。


 ……何点で抑えてくれるかなぁ。



 ♦♦♦



 結局、この回は8失点とかなり厳しいものになってしまった。

 ……まぁ、この回は仕方がないだろう。

 そこまで運動ができる人達が出ていたわけじゃないし、相手はほとんど野球部を出してきたからな。


 守備が終わり、戻ってきたメンバーの顔はかなり疲れてきっており、ベンチの選手達からも諦めムードが漂い始めた。


「望、これちょっとまずいよね」


 すると、不安そうな顔をした一輝が俺の元にやって来た。


「まぁ、流石にここまで序盤からキツい展開になるとは思わなかったが、まだ巻き返せる」


「……ということは、何か考えがあるんだね?」


「あぁ……本当はあまり使いたくなかったのだが、そうも言っていられないからな。『秘策』を使う」


「『秘策』?」


「そうだ。俺たちにしか出来ない、とっておきの秘策だ」


 俺はそう言うと、麻耶ねぇと先輩の元へと向かう。


「今、少しいいか?」


「どうしたの望くん?」


「ちょっとお願いしたいことがあってなーーーーー」



 ♦♦♦



「皆さんちゅーもくっ!!!」


 俺はベンチに向かって大きな声を張り上げる。

 すると、ベンチにいる我がクラスの生徒たちは、一斉に何事かと俺の方を向いた。


「この試合、絶対に勝ちましょう!そして、この試合に勝って優勝してみせましょう!」


 しかし、そんな俺の掛け声に対して皆の空気は重いものだった。


「けどよ、もう7点差ついてんだぜ?今更勝てるわけないだろ?」


「それに、そこまで本気で勝ちにいかなくても……」


「そうそう、どうせ授業なんだしー」


 そして、口々にネガティブな発言が飛び交う。

 みんな、この状況を見て諦めている。

 始めのあのやる気は一体どこに行ったというのか?


「甘ったれるなっ!!!」


「「「「「ッッッ!?!?!?」」」」」


 俺が一喝すると、ベンチから言葉にならない驚きの声が聞こえる。


「たかが授業?負けてもいい?お前ら!それでもB組の生徒か!?」


 生徒達は目を見開いて驚いているが、俺は関係なく話を続ける。


「貴様らは始めに言っていただろう!?いい所を見せたいと、褒めて貰いたいと、優勝をプレゼントしたいと!その言葉は嘘だったというのか!?たかが7点差をつけられたぐらいで、弱気になってしまうほどの軟弱者だったのか!?」


「「「「「ッッッ!?!?!?」」」」」


「違うだろ!?我らがB組は己の欲望に忠実に、そして目標に向かって突き進むーーーーーそんな人の集まりはずじゃないのか!?」


 俺の声にみんなは顔を上げ、その瞳には光が灯り始める。


「そうか……そうだよな!こんな所で諦める訳にはいかないよな!」


「神楽坂ちゃんに、優勝をプレゼントするんだ!」


「そうよね!結城くんに褒めて貰わないといけないから!」


 そして、俺の想いが届いたのか、ベンチにいるメンバーがゆっくりと立ち上がる。

 先程の負けムードは、もう感じられなかった。


「そうだ!それぞれ己が欲望を叶えるために、この試合勝たなければならない!ーーーーーそんな我が愚直なクラスメイト達為に、彼女達は応えてくれた!」


 そして、俺はベンチ隅で控えていた西条院達を指さす。

 すると、麻耶ねぇと先輩が一歩前に出た。


「頑張ってね〜!応援してるからっ!」


「この試合、もし勝つことが出来たら君たち一人一人にお礼を言いたいな」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


「「「「「きゃーーーーーーー!!!!!」」」」」


「他にも西条院や神楽坂、一輝も君達に直接お礼を言いたいと言っている!この試合に勝った君達に!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」


 ベンチのムードが、一気に高まる。

 その雄叫びは、たちまちグラウンドの空気を支配していた。


「ならば!彼女達の期待に応えるべく、俺達がやる事は一つのみ!優勝することだけだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」


 本当はこんなことしたくない。

 先輩と一輝はともかく、西条院や神楽坂、麻耶ねぇを利用するみたいなことは。

 それに、彼女達が他の男と話している姿を見るとーーーーモヤモヤするんだ。


 しかし、これも我が親友が勝利を願っているからこそ必要な事。


 みんなには、予め事情を話した上で協力してもらっている。

 ここまで協力してもらったからには、全力で勝たなければならない。


『お、おい……あいつら何であんなに盛り上がってんだよ?』


『しかも妙に気合いが入っているし……』


『普通に怖いんだけど……』


 おっしゃる通りです。

 俺も、まさかここまで勢い付くとは思っていませんでした。


「すごいね、時森くん!みんなやる気だよ!」


 すると、神楽坂が嬉しそうに俺の隣へとやって来る。


「あぁ……ここまで馬鹿ばかりが集まってくれて良かったと思う」


「……確かに、これでみんなの印象変わっちゃたな」


「素晴らしいくらいに恥ずかしいな……うちのクラスって」


 ……ほんと、こんなに馬鹿ばかりだとは思わなかったよ。

 しかも、女性陣もイケメンに対しては頭をお花畑にしてさ……嫌になっちゃうよ。

 まぁ、そのおかげで少し気合いを入れただけでやる気が出たので、扱いやすかったのだが。


「悪いな、変な事お願いして」


「ううん!これも佐藤くん為だもんね!お安い御用だよ!」


「そっか……」


 本人はこう言っているが、俺としては複雑な気分だ。

 大切な人がこうして他の男の為に頑張る姿を見せられていると、仕方ないと思う反面、嫉妬の心が生まれてしまう。


 けど、それも全て俺がやったことだ。

 今更、後悔しても意味が無い。


 だからーーーーー


「勝つぞ、神楽坂!佐藤の恋を成就させる為に!」


「うん!任せてよ!」




 こうして、俺達は圧倒的不利を巻き返すために、気合いを入れたのだった。


















「そう言えば、神楽坂って野球できるの?」


「………できません」


 ダメやん。

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