春のスポーツ大会!(3)
さて、試合も順調に進み残る試合は後一つ。
最後は我がB組と、野球部たくさんのD組を残すのみとなった。
ちなみに、何故か分からないが我がクラスは5戦4勝1敗という好成績。
そして、D組も俺らと同じ5戦4勝1敗で、この試合に勝った組が優勝という流れになってしまった。
……本当にね、野球部もいないのによくもここまで勝てたと思うよ。
俺はちらりと我がクラスのベンチを見る。
「いいか!この試合に勝って、我らが学園3大美女の方々に優勝をプレゼントするのだ!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
「いい、何としても優勝して、結城くんと佐藤くんに褒めてもらうわよ!」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」」」
……うちの学園って、どうして頭の悪い子ばかりしか集まらないのだろう?
隣を見てよ。
西条院も神楽坂も麻耶ねぇも……すごい顔引きつってるじゃないか。
先輩は————嬉しそうだった。
流石先輩。
僕もいつか、女子達にそんなこと言われてみたいっす。
「別に優勝を貰っても困るんだけどなぁ……貰うなら、時森くんから欲しい」
「……あげれたらあげるよ」
「望くん、私サヨナラボール欲しい!」
「……打席が回ってきて、尚且つホームランが打てたら考えてやるよ」
「私はウィニングボールが欲しいです」
「……俺がピッチャーだったらな」
こいつら、俺を超人とか思ってないか?
どうして俺に最後の場面で活躍して欲しいみたいなことを言っているのかね?
これ、みんなのスポーツだから。誰が活躍してもいいの。
それより、俺としては試合よりも————
「佐藤くん、意外と野球できるじゃない。始めはできないとか言っていたくせに」
「ははっ、たまたまですよ」
ベンチの隅では、一輝の想い人である桜田先輩と一輝が仲良さげに話している。
どちらかというと、こちらメインだからね?
何故、君たちは俺の方を見て目を輝かせているんだ?
「時森、お前の打席だぞ!」
はぁ……。
本来なら、一輝達の傍でフォローできるような態勢でいたかったというのに、何故か試合にはめちゃくちゃ出されるし、解説はみんな真面目にしないし……。
まぁ、今回の試合は最後ということもあって、実況も解説もお休みなのだが。
『プレイッ!』
でも、本当にどうしようかな……。
『ストラーイクッ!』
仲は良くなったように見えるんだけど、後一押しが足りないように思えるんだよなぁ……。
そうだ!後ろでカンペみたいなもので、俺がアシストしてやればいいじゃないか!
『ボール』
そうと決まれば、この打席が終わったら————
『ホームランッ!』
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
カンペ用意するかな!
♦♦♦
(※一輝視点)
僕は今、桜田さんとベンチの隅で談笑している。
始めは少し緊張したけど、今となっては落ち着いて、それなりに楽しく話せてる。
それに—————
(やっぱり……ドキドキする…)
彼女と話していると、不思議と胸が高鳴ってしまったり、ちょっとしたことで喜んだり、嬉しくなる。
————そして、こうしてずっと喋っていたいと思えてしまう。
(好き……なんだろうなぁ…)
ずっと話していたい、もっと仲良くなりたい。
桜田さんも、僕のことを嫌ってはいないと思うけど……後一歩、進めないという気がしてならない。
けどその一歩が、どうやって進めばいいのか分からない。
「あの子……すごいわね。野球部に欲しいわ」
桜田さんは、ホームランを打った望を見て、そう零す。
「え、えぇ……そうですね。野球部には入らないと思いますが……」
「冗談よ。欲しいと思ったのは本気だけど、あの子を勧誘したら麻耶に怒られちゃうから」
……麻耶さんは望が好きなことを、自分のクラスの人に言っているのだろうか?
そんなことを思っていると、望がダイヤモンドを回り、ベンチへと戻ってきた。
……すごいよね、望は。これで3打席中3打席ホームランだよ。
野球部に欲しがる理由も分かる気がする。
……少し、モヤっとしたけど。
望はクラスメイト達からの祝福を浴びると、おもむろに僕の方を向いて————
『後一歩踏み出せない……そんな状況か?』
カンペを取り出してきた。
……すごいね。まさしくその通りだよ。
『俺が助けてやろう。いいか、カンペ通りに話すんだ』
流石望だね。
自分もこの試合を楽しみたいはずなのに、僕のサポートをしてくれるだなんて。
「どうかしたかしら?」
「い、いえ!何でもありません!」
危ない……桜田さんにはバレないようにしないといけない。
正直、望の言う通りにしたら、少し不安な部分もあるけど、隣で西条院さんがこちらに気付いて見守ってくれているので、大丈夫だろう。
僕は桜田さんに不自然に思われないよう警戒しつつ、カンペを読み上げる。
『桜田さん』
「桜田さん」
「何かしら?」
『実はお願いしたいことがありまして……』
「実はお願いしたいことがありまして……」
「お願い?……まぁ、私の叶えれる範囲なら」
『パンツを見————ぐふっ』
「……」
西条院さんは、僕が読み上げる前にカンペを叩き折り、望の鳩尾にフックを入れる。
よ、読み上げなくてよかったぁ……。
ありがとう、西条院さん。流石に、そのカンペは読み上げると危ない気がしたから……。
そして、西条院さんは望の代わりに新たなカンペを取り出す。
『もし、この試合に勝てたら、僕と今度の休日どこかでかけませんか?』
これなら、大丈夫だけど……いきなり何?って思われないかな?
————でも、西条院さんが折角サポートしてくれているんだ。
彼女を信じよう。
そして、僕は再びカンペを読み上げる。
「もし、この試合に勝てたら、今度の休日どこかでかけませんか?」
「休日?」
すると、桜田さんは怪訝そうな顔をした。
……やっぱり、いきなりはおかしかったかな?
僕は不安になりながらも、彼女の返答を待った。
「まぁ……佐藤くんとでかけるのは別にいいけど————いいわ。この試合に勝てたらね」
「あ、ありがとうございます!」
僕は思わずガッツポーズしそうになった手を止め、桜田さんにお礼を言った。
「それにしても、あなたも物好きね。私と一緒にでかけたいだなんて」
「物好きなんかじゃありませんよ。桜田さんと一緒にいるのが楽しかったから、僕は一緒にでかけたいんです」
「そ、そう……なら、頑張ってちょうだい。期待してるから」
「はい!」
少しだけ顔が赤くなった先輩は、そう言い残しグローブを持って、守備へ向かっていった。
……よかった。なんとか、桜田さんを誘うことができたよ。
正直、めちゃくちゃ嬉しい。
けど、喜んでもいられない。
結局はこの試合に勝たなくては、でかけることもできないのだから。
僕が桜田さんと仲を深めるためには……この試合は負けられない。
だから、僕は————
「望、手伝って欲しい」
「任せろ親友。この試合、絶対に勝つぞ」
親友がいれば、この試合は絶対に勝てる。
野球部はいなくて圧倒的に不利だけど、何とかしてみせる。
僕は、人生で一番と言っていいほど、気合を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます