春のスポーツ大会!(2)

(※一輝視点)


「久しぶりね。あの時以来かしら?」


「はい、バレンタインの時以来ですね」


 僕は現在、B組のベンチで控えている。

 何と、いきなりスターティングメンバーに選ばれてしまい、こうして僕の打席まで待機しているんだけどーーーー


「それにしても、君サッカー部じゃなかったかしら?」


 ……まさか、桜田さんも同じスターティングメンバーだったなんてね。

 きっと、望が上手いこと調整したのだろう。

 そのおかげもあって、こうして桜田さんと話すことが出来ているのだから……感謝しないと。


「はい……ご存知だったんですか?」


「えぇ、野球部のグラウンドからいつもサッカー部が見えるから」


 そうだった。

 確か桜田さんは野球部のマネージャーだったね。


「あ!僕、佐藤一輝って言います」


「あぁ……そういえば名乗ってなかったわね。私は桜田奏、よろしくね」


 知っていますーーーーー何て言えないよね……。

 勝手に生徒会室で生徒名簿見ました、って言ったら引かれてしまうだろうから。


「そういえば、佐藤くんは運動神経いいのかしら?」


「ま、まぁ……人並み程度ですね」


「そう……B組には野球部がいないから、期待していたのだけど」


 桜田さんは少しだけ落ち込んだ様子で顔を逸らす。

 その姿を見て、僕は慌ててしまう。


「で、でも!頑張りますよ!」


「ありがと。私もやるからには勝ちたいと思ってるから、全力で戦いましょ」


 そう言い残し、先輩は離れたベンチへと戻っていった。


 ……さて、次は僕の番だし頑張ろう。

 正直、野球は自信が無いけど、桜田さんにいい所を見せなきゃ。


 そして、少しでも仲を深めるんだ。



 ♦♦♦



「さて、2アウトランナーなしの状況でこの選手がいよいよ登場!顔面偏差値は脅威の100越え!数々の男達の嫉妬を集める我がクラスの注目選手、佐藤一輝です!皆さん、盛大なブーイングを!」


『『『『『boooooooooou!!!!』』』』』


「何やってるの時森くん……」


「望くん、嫉妬はダメだよ!」


 仕方ないじゃん。

 イケメンは嫌いなんだからさ。


 だって見てよ、あれだけの男子達からブーイングを受けているのに、それをかき消すほどの女子たちの黄色声が聞こえるんだよ?

 ふざけんなって言いたいよね。


「……さぁ、ぴっちゃーだいいっきゅうなげましたー。おーっと、さとうせんしゅ、それをみのがすー(棒)」


「望くん、嫌なのは分かるけど、ちゃんと実況しようね。おねぇちゃん怒るよ?」


「……すみません」


 何で麻耶ねぇに怒られるんだろう?さっき解説適当だったくせに……。

 ……解せぬ。


「おーっと!佐藤選手!デッドボールで出塁!ピッチャーよくやった!」


『『『『『ピッチャーないすぅ〜!!!!!』』』』』


 俺が麻耶ねぇに怒られていると、何と一輝はボールが腰あたりに当たり、痛そうにしながらも、塁に出ていた。

 へんっ!ざまぁみろってんだ!

 観客も、俺と同じ気持ちなのか、本来責められるべきピッチャーを褒めている。


 ……でも、良く考えれば一輝って想い人にいい所を見せないといけないよね?

 俺って、何気に一輝の恋を邪魔してない?



 ♦♦♦



『さて、実況も変わり現在試合も後半に差し掛かりました!』


『ふふっ、やっと私もここで応援できますね』


 試合も進み、現在4回裏。

 とりあえず、先輩が中々いい球を投げているおかげか、試合は1対1と接戦していた。


 でもすごいよね。野球部もいないのに対等に試合しているんだぜ?

 ……まぁ、何故か西条院がランナーのいるところで3ベースヒット打つし、一輝はキャッチャーとして、ピッチャーに素晴らしいリードをしていたりと、2人とも野球部顔負けのプレイをしていたからな。

 ……西条院って、意外に運動神経いいよね。


 というわけで、いよいよ俺の出番。

 実況は先輩に変わり、バックネット裏では西条院、神楽坂が解説を行っている。

 麻耶ねぇも、俺と同じでこの裏の攻撃から参加だ。


「望くん、頑張ろうね!」


「おうってんだ!やるからには勝つぞ!そして、女の子にアピール「……望くん?」いや、麻耶ねぇ達にアピールするんだ!」


 いかんいかん。

 何故か麻耶ねぇの目が一瞬だけ鋭くなった気がした……。

 発言には気をつけないと。


「ストライーク!バッターアウト!」


 すると、打席に立っていたクラスの女子が三振して戻ってきた。

 肩をガックリ下げながら帰ってくる女子に、クラスのみんなから励ましの声が聞こえる。


「よっしゃ!わいの出番やで!」


「いっけー!望くん!ぶっ殺しちゃって!」


 ……麻耶ねぇ、殺すのはどうかと思うよ?

 俺、今から打席に立つだけだからね?


『さて、次の打席には生徒会会計の時森望選手です!ーーーーーそういえば、少年って野球できるの?』


『そうですね……できるのではないでしょうか?』


『時森くんだし、大丈夫じゃないかな!』


「プレイっ!」


 審判の声が聞こえ、ピッチャーが投球モーションに入る。

 ランナーはいない。なので、思いっきり打っても問題ないだろう。


『でも、今思えばよく西条院ちゃんがこんなイベント許可したよね』


 インコース低め、ピッチャーは野球部の人ということもあり、球速もそれなりに出ていた。

 そして、俺はしっかり腰に力をため、ボールめがけて思いっきりバットを振る。

 コースは若干甘いし、これならーーーーー


『そうですね、本当は私も賛成しなかったのですが、友達のためという理由とーーーーー』


 カキーン!


 爽快な金属音がグラウンドに響き渡る。

 高く上がった打球は大きな弧を描き、どんどん飛距離を伸ばしていき、そしてーーーーー


「ホ、ホームラン!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


『時森さんのかっこいい姿が見れるからですかね』


『……なるほどね、理解したよ』



 はっはっはっー!

 どうだい、見たか!このソロアーチを!


 野球できる人はモテるという話を聞いて、練習した甲斐があったぜ!

 見ろよ、あのピッチャーの顔!

 驚きのあまり口を開いたまんま固まってやがる!


 これで勝ち越し!

 野球部がいないクラスで、絶対に優勝してみせる!

 その方が、盛り上がるしな!



 俺はバックネット裏で手を振っている神楽坂に親指を立てると、バットを置いて、ダイヤモンドを一周した。


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