春のスポーツ大会!(1)

「さぁ、やってまいりました「全学年男女混合、春のスポーツ大会」実況は私、生徒会会計、時森望と、解説は生徒会副会長、結城陽介先輩でお送り致します!」


「よろしくお願いします」


 程よく心地よい風が肌を撫でる。

 気温も半袖でちょうどいいぐらいの絶好のスポーツ日和。

 グラウンドでは、各々のクラスに別れたテントが張っており、生徒達は活気に溢れていた。


 そんな中、野球部のグラウンドのバックネット裏に、俺と先輩は実況&解説を行っている。


「それにしても、よく1日の授業を無くして、スポーツ大会なんてできたよね」


「そこはあれですよ。最近の若者の運動不足問題を職員室で力説したら、学園長諸共納得してくれました」


「君の行動力には驚かされるね」


 なんのこっちゃない。

 俺の手にかかればちょちょいのちょいさ!……と言ってやりたかったが、中々苦労させられました。

 色んな人に協力してもらったし、どうせ今日の分の授業はどこかで補填されるので、教師側からしたら、過重労働ってだけしかデメリットがなかったから、こうして開催することができたのだ。


「そして、今回はスペシャルゲストとして、桜ヶ丘学園生徒会長、西条院柊夜さんを招いております」


『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』』』


 観客席から、野太い雄叫びが聞こえてくる。

 ……流石西条院だ。

 名前を言っただけで、ここまでの盛り上がりを作り出せるとは。


「はい、よろしくお願いいたしますね」


「さて!紹介も済んだことですし、早速簡単なルール説明を致しましょう!今回のスポーツ大会の競技は野球!野球のルールは説明するのが億劫なのでしませんが、特に変わっている点だけ説明致します!」


 〜特別ルール〜


 ①全学年のクラスごとのチームとする。

 ②6回まで、延長あり

 ③男女混合として、6:4もしくは4:6の割合で出場させること

 ④1試合に必ず9名の入れ替えをしなければならない

 ⑤必ず、全生徒が参加すること

 ⑥総当たり戦により、優勝を決める


「以上になります!」


「確かに、これだったらみんな平等に参加できるし、特にこれといって不利な点も見当たらないね」


「時森さんにしてはまともなルールを作りましたね」


 うっさいやい。

 俺だって真面目にやればこれくらいちゃんと考えれるやい。


「では、ルール説明も終わったので、生徒会長である西条院柊夜さんに、開催の宣言をしてもらいます!」


 すると、先程までざわついていた空気が一変、静寂に包まれる。

 そして、西条院はマイクに顔を近づけ、深呼吸ひとつすると、口を開いた。


「これより、全学年男女混合、春のスポーツ大会を開催致します!皆さん 、くれぐれも怪我をしないよう、頑張ってください!」


『『『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』』』』』


 大歓声が、グラウンドに響き渡る。

 春の日差しが眩しい中、彼女の声と共に幕を上げた。



 ♦♦♦



 始めの試合は何といきなり我がクラスであるB組とC組。

 先行はB組で、後攻はC組となっている。

 しかし、俺や先輩達の出番はまだなので、3回までは実況を続ける。


『プレイボール!』


 審判の先生の声の元、第1試合目がスタートした。


「いよいよ始まりました、春のスポーツ大会。今回、いきなり1試合目から生徒会メンバー全員のクラスであるB組が戦ってしまうため、解説、実況は入れ替わりでお送りしたいと思います。ですので、先輩と西条院が試合に出ている今、特別ゲストとして、生徒会副会長、鷺森麻耶と、生徒会書記、神楽坂アリスを招いております」


「よろしくね〜」


「よ、よろしくお願いします!」


『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』』』


 またもや、観客席から雄叫びが聞こえる。

 ……全く、君達試合に集中しなさい。


『よっしゃ!いくぜ!』


 そんな掛け声の元、トップバッターである男子が打席に立つ。


『プレイ!』


「さて、いよいよ始まりました訳ですが……麻耶ねぇ、どう思う?」


「そうだね〜、頑張って欲しいかな〜」


「な、なるほど……」


 俺の解説下手もさることながら、麻耶ねぇも大概下手だなぁ……。

 解説なのに、何一つ解説してなかったぞ。


「そ、そして!やっぱりこの試合注目していきたいのは女性陣ですよね!」


「どうしてなのかな?」


「え?それはもちろん体操服越しに揺れる胸や半ズボンから覗く太ももがとても素晴らしく「……時森くん?」なんでもありません」


 怖いっす神楽坂さん。

 目が全くをもって笑ってないんですけど?

 それに麻耶ねぇよ。隣で太ももをつねるのはやめてくれない?地味に痛いんだけど?


 これって、俺だけの気持ちじゃないんだけどなぁ……。

 だって、今も現在進行形で男子達が女子の体操服姿を見ているんだよ?

 仕方ないじゃん、思春期の男なんだから。


 ……でも、ごめんなさい。


 俺が無言で頭を下げると、2人は許してくれたのか、その表情に笑みが戻った。


「気を取り直して、実況を再開したいと思います!場内の雰囲気は最高潮!観客席からエールが飛び交っております!」


「すごいよね!みんなすごく盛り上がってるよ!」


「でも、どうしてここまで盛り上がってるのかな?」


「そうだな……このスポーツ大会は何の賞品もないとは言いつつ、異性にアピールできる絶好の機会だ。男子は女子にかっこいいところ見せ、女子はか弱いところを見せて、アピールする……だからこそ、みんなやる気に満ち溢れているのだろう」


「なるほど!そうなんだ!」


「だから、さっきから打席に入る度に男の子がチラチラとこっちを見ているんだね〜」


 そうな事を言わないでくれ麻耶ねぇ。

 男子が傷ついてモチベーションが下がるでしょうが。

 折角、気づかれないようにアピールしていたのに。


『ストライク!バッターアウト!』


「おっと、どうやら話している最中に先頭打者は三振したようですね」


「仕方ないよ。だってC組のバッテリーは野球部エースだから」


「C組のみんなって結構本気なんだね…」


「仕方ないだろ。このスポーツ大会で一番活躍するのは野球だからな。………ちなみに、うちのクラスには野球部は一人もいない!」


「えぇっ!?確か野球部って100人超えていたよね!?」


「アリスちゃん、世の中偶然って言葉があるんだよ〜」


 その偶然は、俺達のクラスをかなり不利にしてしまっている。

 ……まぁ、全員参加というルールがある以上、ある程度の抑止力になるだろう。


 それより、俺達の目標は優勝することじゃない。


 俺は視線を我がクラスのベンチに向ける。

 そこには、若干挙動不審な一輝の姿と、黒髪の少女が喋っている姿があった。




 頑張れよ一輝!

 俺が折角ここまで舞台を揃えたんだ!

 少しも進展しなかったら許さんからな!

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