俺、閃きました!

 長いバイトが終わり、疲れた体は癒すことができず、学校が始まる。

 あぁ……俺に癒しと安らぎを……といっても、現実は非常なものだ。

 春休みは下旬からなので、まだ学校に通わなくてはならない。


 しかし、春休みに突入しては問題が発生してしまう。

 それは何かというとーーーーー


「さて、一輝くん。春休みに入る前に、少なくとも関係性は築いておかなくてはならないということは理解しているかね?」


「う、うん……休みに入ってしまえば、会える機会がなくなってしまうからね」


 現在お昼休憩。

 互いに弁当を広げながら、我が親友の恋の方針を決めるべく話し合っていた。


 そう、春休みに突入してしまうと、親友の恋が成就しにくくなってしまうという問題があるのだ。


 それは俺としても望ましくない。

 できるだけ、早いうちに親友には幸せになって欲しいし、春休みに入ってしまえば、俺達だって手伝えなくなる。


 なので、早期アプローチが必要となってくるのだ。


「と言っても時森さん、どういう風に関係性を作っていくつもりですか?」


「そうだよ!接点もないのに、いきなり関係性を築くなんて難しいんじゃないのかな?」


 一緒に席を囲んで昼飯を食べている二人が各々の疑問を口にする。

 ちなみに、神楽坂の弁当は俺が作ったんだぞ♪えっへん!


「まぁ、幸いにして先輩や麻耶ねぇと同じクラスだからな。さりげなく接点を作るのは可能だが………それより、君には関われる素晴らしい口実があるじゃないか」


「口実………?」


「そうだぜ、チェリーボーイ♪」


「その言い方は腹が立つね……」


「それを言ってしまえば、時森さんもチェリーボーイなのではないですか?」


 こらこら、変な事言うんじゃないよ。

 俺のどこがチェリーボーイに見えるってんだ?

 確かに事実として俺はチェリーボーイだが、パッと見た感じと、この作品的にはプレイボーイだろ?

 しかも、女の子がそんな単語を口にしてはいけません!

 興奮してしまうでしょ!


「ま、一輝がチェリーボーイかは置いといて、口実って言うのはホワイトデーのことだ」


「あ、そっか!佐藤くんってチョコ貰ったんだよね!」


 そう、男としてチョコは貰ったからには返さなくてはならない。

 それが義理チョコだろうが本命チョコだろうが、好意には好意で返す義務がある。

 そんな義務があるからこそ「あ、それじゃあいきなり話しかけに来てもおかしくないね!」となってしまうだろう。

 ……ふふふ、相変わらず俺の頭の良さには惚れ惚れするぜ。


「でも、桜田さんはお返しはいらないって言ってたし……」


「なーに、そんなの「俺の気持ちは抑えられませんでしたから!」って言っておけばいいんだよ」


「それは、何かがっつき過ぎみたいで、ちょっと……」


 こいつ……自分の恋愛となると途端に弱気になるな……。

 そんなの、男だったら黙って突撃した方がかっこいいじゃないか。

 ……まぁ、人それぞれだけど。


「けど、やっぱりホワイトデーを接点の口実にするのはちょっと良くない気がするんだよね……」


「どういうことでしょうか、神楽坂アリスさん?」


「どうして敬語なの……?」


 そこはいいんだよ。

 それより、俺の完璧な作戦のどこが悪いか教えて欲しいです。


「確かに、あまりホワイトデーを口実にするのは良くない気がしますね」


「だから、どうしてですか?西条院様?」


「ホワイトデーだと、まだ2週間はありますし、どうせでしたら、ホワイトデーにアタックをかけた方が、結ばれやすくなると思うのです」


「そう!それ私もそう思った!」


 なるほど……その意見は納得する部分があるな。

 確かに、今日は3月の1日。

 ホワイトデーまでは2週間もあり、その間に何もしないというのは、時間が勿体ない。

 ホワイトデーにアタックするというのも、イベントで気持ちが昂った瞬間を狙うという意味では、いい案何ではないだろうか?


 ……流石、女の子といったところか。


「結ばれやすくなるのですよ、時森さん」


「どうして俺に向かって言う?」


「結ばれやすいよ、時森くん!」


「……そうですね」


 分かってるから!それを遠回しに伝えてこないで!

 自分の中ではちゃんと分かってるから!


「だが、それだったら振り出しに戻るよな」


「そうだね、桜田さんとは学年も部活も違うし、関わる機会なんてないから……」


 そうなのである。

 一輝はその桜田さんとはたまたま出会っただけで、本来は関わることのなかった存在だ。

 その接点を急に作れという方が、普通難しい。


「うーん、難しいねぇ……」


 そう言って、神楽坂は腕を組んで悩む。

 ふむ、腕を組んでいることによって意外と大きい神楽坂の胸がしっかり強調されて、知らぬ間に俺の視線もーーーーはい、なんでもありません。

 もう見ませんから、西条院さんや?そんなに鋭く睨まないでくれませんか?


 ……しょうがない、真面目に考えるとしよう。


 でも、考えても考えても、いい答えが出ない。

 それはみんなも同じなのか、同じく弁当を食べる手を止めて、一生懸命悩んでいる。


 先輩が言っていた通り、何かイベント事があって、たまたま話す機会を作れれば、それが一番なのだが………ん、イベント?


 ーーーーーハッ!閃いちゃったぞ、俺!

 名案!これだったら、全てうまく物事が進むのではないか!?

 こんなことを思いつくなんて、俺ってやっぱり天才!


「どうしたんですか?そんな「俺、いいこと閃いちゃった♪やっぱり俺って天才〜♪」みたいな顔をして」


「久しぶりにお前の観察眼が怖く感じたよ」


 やっぱり、こいつのエスパー力は顕在のようだ。

 最近、お目にかかってなかったから、久しぶりに背中がゾワゾワってなった。


「それって、佐藤くんが話せる機会を作れることなの?」


「あぁ、何の違和感もなく、話すきっかけを作ることができ、俺達も一輝を常にフォローしてもおかしく思われないーーーーそんな素敵な方法を思いついたのさ!」


 俺は勢いよく立って腕を広げる。


 確かに、イベントやきっかけがないと、中々いきなり接点を作るのは難しい。

 だが!きっかけや、イベントがなければ作ればいいじゃないか!


「それ、どんな方法なのですか?」


「それはーーーーーー」









「全学年男女混合、春のスポーツ大会だッ!」

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