バイト、始めます!(2)

 さて、源さんとマンツーマンでお勉強をした訳だが、俺は今リムジン?みたいなもので優雅に……いや、緊張しながら社長と源さんと一緒に目的地に向かっている。

 ははっ、見ろよ周りの視線。

 この車が通る度に皆凝視してたぜ……本来、俺もそっち側の人間だったんだけどなぁ。


「どうだったかい少年?覚えられたかい?」


 後部座席に座る社長が俺に向かって声をかける。

 ニヤニヤしながらからかうようにーーーーこいつ、無理だと分かっていてあの量を渡してきやがったな?

 心の底からうざいわー、いつか酷い目に合わせてみたい。


「全てとはいきませんでしたが、ある程度は覚えられたかと思います」


「ほう?では今から向かう場所と会議内容を言ってみたまえ」


「はい、この後は六本木支社でマーケティング部との会議になります。六本木支社での業績が下がっているので、そちらの対策や今後の方針を決めるもので、参加者は六本木支社取締役の山下、マーケティング役員の宮木、部長の佐藤と、経理部長の坂上でございます」


「……よく覚えているじゃないか。この調子で頼むよ」


「かしこまりました」


 俺が答えると、社長は少し目を見開いて驚いていた。

 へっ、ざまぁ見ろってんだ!俺だってやる時はやるんだぜい!


 ……しかし、ただ質問の1つを答えたに過ぎない。

 これからが本番なんだ。気を引き締めないと。


 隣で同じく目を見開いている源さんがこちらを向いているが……いや、あなたが教えてくれたんですよね?



 ♦♦♦



「やはり、新しく広告場所を増やすべきです!そうしないと、認知度が増えません!」


「しかし、新商品では既に何本ものコマーシャルを行っている。そこに新たに増やし、効果が著しくなければ、赤字が膨れ上がるかもしれん」


「だが、現状だと売上が上がらないぞ?」


 やんややんや。

 重鎮達が机を挟んで口論している。

 話を聞く限り、互いの意見を主張しあっているものの、あと一歩進むことができない様子だな……って、何上から目線で話しちゃったんだろう?


 というか、秘書ってどういう仕事だっけ?

 社長に言われたままここに来たけど……俺がこの会議の場にいるのっておかしくない?

 源さんは外で待機しているし……おかしいよね?


 俺は今、社長の横でじっと立たされている。

 社長はさっきから一言も話さないし……すっっっげぇ、気まずい!何この空気、嫌い!

 高校生でこんな場所に来るなんて思っていなかったんだけど!?

 ねぇ、もう早速帰りたくなったんだけど!?


「社長、如何致しますか?」


 取締役役の山下さんが社長に尋ねる。

 いつまでたっても平行線なので、社長の意見を仰ごうとしたのだろう。


 社長は少しの間、目を瞑り考えると、ゆっくりと口を開いた。

 ……一体、なんて言うんだろう?ここに来て初めて喋るぞ?


「少年、君の意見を聞いてもいいかい?」


 ……は?


 ……どうして、こいつは俺に話を振る?

 状況分かってんのか?会社のマーケティングに意見しろって言ってんだぞ?

 ……普通、高校生の意見を聞くか?


「私……の意見でしょうか?」


「社長、その子供は?」


「あぁ、今日から私の元で勉強している子でね、こうして会議に出席させている」


 ……あれ?バイトじゃなかったっけ?

 まぁ、間違ってはいないけどさ……。


「今回の商品は若者向けの新作だ。だから、若者である君の意見を聞きたいのだよ。……別に深く考えなくていい。素直に思ったことを言ってくれればいいから」


「……そういうことでしたら」


 なら少しは安心……かな?

 まぁ、ただ意見を出すっていうだけで、方針を決めろって言っているんじゃないから大丈夫か。

 ーーーーーでも、普通は絶対に高校生に意見聞かないよね?

 こういうのって代理店に聞くべきじゃない?


 しかし、話を振られてしまったからには答えない訳にはいかない。

 だから俺は、頭の中で自分の考えをまとめ、自分なりの答えを言葉にする。


「これは私の意見ですが、Webでの宣伝を検討してみてはいかがでしょうか?」


「ほう?Webか?」


「はい、現在我社の新商品の宣伝はTVコマーシャルで賄っております。しかし、最近のデータでは若者のTV離れが多いとされていますので、あまりTVでの反響が低いのではないかと思います。そして、Webでの普及率はTVとは反対に上昇傾向にあります。我社は商品を売るのではなく認知を目的とした広告を行っていますが、それはWebでも問題ありません。最近では別の大手企業もWebでの広告を始めており、Web上だけでなく、You〇ubeなどの動画媒体での反響も多いみたいです」


「「「………」」」


「確かに、母数こそは少ないものの、コマーシャルに比べてコストも低いですし、実践し、失敗に終わったとしてもそこまでの赤字にはなりません。ですので、一度検討してみる価値はあると私は思いました」


 一通り言い終わると、俺は小さく一礼をして1歩下がる。


 ……どうでしょうかね?

 筋違いな話をしてしまいました?

 若者が調子乗ったことを言うな!とか思われてないかな?


 そんな不安が一気に襲いかかる。

 俺は恐る恐る社長の方に顔を向けた。


「………」


 黙ってんじゃねぇよ。

 何か喋ってくれよ、めっちゃ不安なんですけど?


 しばらくの沈黙が続き、ようやく社長が口を開いた。


「……確かに、検討する余地があるかもしれんな」


「はい、Webというのは着眼になかったですね……」


「コマーシャルに比べてコストも少ない……まぁ、規模によるのだろうが、媒体を絞ればそれなりに抑えられるかもしれん」


 社長の言葉に続いて、役員達が口を開く。


 その言葉に、俺は少しばかり安堵した。

 けど、今までこんなこと言われたことなかったの?

 普通、Web何て考えつきそうなんだがーーーーーそこはネームバリューに拘っている大企業だから気が付かなかったのかな?


「……社長、本当に彼は高校生ですか?」


 どういうセリフでしょうか?

 バリバリの高校生じゃないですか?

 それとも老けて見えるってか、この野郎は?


 ……いかんいかん、上司に対して何故か心の中で強い口調になってしまう。

 反省反省(棒)。


「あぁ、中々の逸材だろ?」


「えぇ、私の部署に欲しいくらいですね。将来が楽しみです」



 逸材って……そんな器じゃないんですけど……。





 まぁ、ともかく低評価じゃなくて良かったわ。本当に心臓悪い……。

 この話って現代風のラブコメのはずだよね?何で一高校生が重鎮達の会議に参加してるの?


 ……ほんと、おかしくない?

 西条院さんや、一体君は父親になんて言ったの?

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