共通の趣味がいいらしい
「しかし、年上の人に対するアプローチの方法なら任せてくれたまえ。これでも、何人もの年上の女性を堕としてきた男だ。参考にはなるだろう」
そう言って、自信満々に胸を張る先輩。
「確かに、その点では一輝の意中の相手も年上。もしかしたら参考にはなるんじゃないか?」
「それもそうなんだけど……なんだろう、この不安感は?」
それはきっと、先輩が二股をしていたという事実がどうしても不安を駆り立てているだけだ。
多分、二股していたという点を除けば、頼りになるに違いない。
「では、どうやって関わりのない人に、接点を作ればいいのでしょうか?」
「そうだね、あくまでこれは俺がやったことだけど、共通する趣味を見つけて接点を作ったよ」
おや?意外とまともな発言でしたね?
てっきり、二股らしいゲスい内容なのかと。
「でも、それってうまくいくのかな~?同じ趣味を見つけてもそれだけじゃ関わることなんて難しいんじゃない?」
確かに、「俺、サッカー好きで、彼女もサッカー好きだった!」って分かったとしても、それからは中々繋がりを持てない。
それに、いきなり同じ趣味があって話しかけに行っても、相手の不信感を煽ってしまうだろう。
「まぁ、そこはイベントを使ったね。例えば、好きなスポーツの試合を見に行って、たまたま出会って、話す機会を作り接点を作ったね」
「なるほど、イベントは確かにアリだね!」
「ふむ、それならいきなり赤の他人が話しかけても不信感はあまり感じられないだろうな」
「しかし、どこまでさりげなく話かけるかが重要になってきますけどね」
そこは先輩の処世術を学べばいいだろう。
伊達に二股をかけていたことはあるのだから。
その手のものはお茶の子さいさいだろう。
「でも趣味か……見つかるかな?」
ソファーに腰を掛けながら、顎に手を当てて悩む一輝。
「別に、同じ趣味を見つけようとする必要はないよ。相手の好きな趣味を自分の趣味にすればいいだけだからね」
まぁ、その手もあるよね。
趣味がないなら作ればいい。
趣味はよっぽどではない限り、真似することはできるのだから。
そこで、お互いの話の共通点を見つけて、仲良くなれればいいことだしな。
「……ねぇ、時森くん」
「ん?なんだ?」
「……時森くんの趣味って何かな?」
神楽坂は何故に今聞いてきたのだろうか?
しかも、少し恥ずかしそうに聞いてくるし……まぁ、いいけど。
「エロゲかな?」
「今度望くんの家を大掃除しに行くね」
「特にゲーム類は廃棄処分しますね」
……何故だろう?
趣味を答えただけなのに、後ろにいる麻耶ねぇと西条院から圧を感じるのだが?
それに、ゲーム類って……俺の宝物捨てる気かな?
「うぅ……流石にそれは趣味にできないよぉ…」
神楽坂は神楽坂で顔を赤くしているし……よく分からんな。
「ほ、他には何か趣味ないの……?」
「他…他かぁ……」
何かあっただろうか?
服を作るのも、あれは趣味ではないし、料理とかも生活に必要なことだしなー。
「特にないな」
「そ、そっか……」
その言葉に、露骨にがっかりする神楽坂。
そんなに落ち込むことかね?俺の趣味がない事くらいで。
「ちなみに、奏の趣味は野球だったかな?」
「そうなんですか?」
「あぁ、奏の野球好きはかなりのものだぞ。野球部のマネージャーをするくらいだし」
「お、よかったじゃないか。早速趣味が分かって」
「いや……といっても、僕野球あまり好きじゃないんだよね……」
そういえば、確か一輝はずっとサッカー一筋だったっけ?
それだと、野球はあまり好きではないのかもしれない。
「まぁ、その話はまた追々考えればいいよ。そろそろ下校しないといけないからね」
先輩がそう言ったので、俺は窓から外を覗く。
あたりはすっかり暗くなっており、グラウンドに残っている生徒もあまりいない。
「そうですね、この話はまた来週考えるとしましょうか」
「そうだね!」
「は~い」
西条院がそう締めくくると、各々帰る支度を始める。
どうせ、このまま考えたってすぐ答えが出るわけでもないんだ。
今日はとりあえず帰って、また来週話し合えばいっか。
「時森さん」
俺が帰り支度を始めていると、不意に西条院が小声で話しかけてきた。
「どうした?」
「お父様からの伝言で「明日は予定が空いているか?」だそうです」
「ん?明日は空いているが……」
このやりとり前もした気がするなぁ……。
「「例のバイトの件だが、明日から来てくれないか?」ということなのですが、いかがでしょうか?」
「あー、あの件か」
そう言えば、以前西条院パパと食事した時にそんな話になったな。
追って詳細は話すとか言っていたけど、急すぎやしませんかね?
まぁ、幸いにして明日は土曜日だし、大丈夫なのだが……。
「いいぜ、ここで断ったら、西条院のお父さんに悪いからな」
折角この話をいただいたんだ。
後で神楽坂には事情を話すとして、働かせてもらおう。
「ふふっ、では決まりですね。また時間と持参物はご連絡いたします」
「そっか……明日はよろしくお願いしますって伝えといてくれ」
「分かりました」
そう言い残すと、西条院は自分の荷物がある場所へと戻っていった。
それにしても、明日から始まるとはなぁ……。
何の心構えもしてなかったんだが、大丈夫なのだろうか?
……まぁ、これも社会勉強だ。
明日はしっかり勉強させてもらおう。
そんなことを思いながら、俺は帰り支度を進めた。
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