恋のアドバイザー!……俺達に適任はいませんよね

「あった!」


 生徒会室に一輝の声が響き渡る。

 探し始めてから数十分後のこと。正直、あの分厚さなので、もう少し時間がかかると思っていたのだが、存外早く終わったものだ。


「早かったね佐藤くん!」


「うん、たまたま早い場所に彼女の情報が載っていたから」


 しかし、見つかったことが嬉しかったのか、あの見つけた時の喜ぶ声といったらーーーー普段の一輝からは想像がつかないな(笑)


「何笑っているのですか?」


「いや何、犬に餌をあげた時みたいだなと思って」


「???」


 例えが分かりずらかったかな?


「ねぇねぇ、一輝くん。どんな子なの?」


「えーっと……『桜田 奏』という人みたいでした」


「お、奏だったのか」


「知っているんですか先輩?」


「あぁ、だって奏はうちのクラスだからな」


 おっと、これは思わぬ朗報である。

 こんなにも早く、その人と関われる接点が見つかってしまうとは。

 これなら、先輩達にお願いすれば一輝の恋も何とかなるんじゃないか?


「奏ちゃんか〜、確かにいい人だよ!」


「どんな人なんですか、麻耶先輩?」


「うーんとね、ちょっと強気な女の子でみんなに優しい子かな〜」


「ちなみに、奏は学級委員も務めるほど、クラスからの人気は高いし、真面目な子だ」


「聞くだけならいい人ですね」


 本当に、まだ会ったことは無いが、2人の印象はかなりいいみたいだ。

 俺は一輝が見つけた写真を覗き込む。

 伸ばしていたのか、黒髪のロングで、黒い瞳。確かに、少し強気な雰囲気を感じる美少女さんだった。


「あ、そういえば麻耶ねぇ。この人って彼氏とかいるの?」


「確かに、そこはかなり重要ですよね」


 彼氏がいてはそもそも初恋が実らない。

 横からかっさらうなんて一輝はしないだろうし、アプローチかける意味が無い。

 だからこそ、一輝の恋の土台に立てるかどうか、そこ次第なのだ。


 俺達は、麻耶ねぇの発言に固唾を飲む。


「いや、いないと思うよ〜。だよね、陽介くん?」


「あぁ、確か今は奏はフリーのはずだよ」


 その言葉を聞いて、俺達は安心する。

 良かった……告白する前に初恋が終わらないで。


「良かったね佐藤くん!」


「そうだね……正直、今日で1番安心した気分だよ…」


 そして、1番胸を撫で下ろす一輝。

 そうだよな、俺達以上に一輝が1番安心したよな。


「じゃあ、早速見つかったことですし、これからの方針を決めましょうか」


「それは嬉しいけど……いいの西条院さん?生徒会の仕事は……」


「それは時森さんが1人でやってくれるので大丈夫です」


「大丈夫じゃねぇよ、この貧乳」


 何仕事を押し付けようとしてんだコラ?

 俺の仕事は終わったけど、他の人の仕事をやるなんて真っ平だぞ。


「いいじゃないですか、佐藤さんの為に協力するんでしょう?」


「それとこれとは話が違うだろうがおい」


「まぁ、といっても急ぎの仕事もないので、今日は生徒会を終わらせてもいいのですけどね」


「じゃあ、何故言った?」


 ほんと、焦らせないで欲しいわ。

 この人は、どうして俺の平穏を脅かそうとする発言をしてくるのかね?


「まぁまぁ。時森くんもひぃちゃんも、喧嘩しちゃダメだよ?」


 そこに割って入る神楽坂。

 あぁ……やっぱり神楽坂はいい子だなぁ……。

 ほんと、ずっと愛でていたいわー。


「喧嘩ではありませんよ。好きだから故のスキンシップです」


「お前、告白してから好意を隠そうとしないな」


「ふふっ、どんどんアピールしていかないといけませんから」


 全く、強かなこって……。


 俺は思わず気恥ずかしくなって顔を逸らしてしまう。


 ここまであからさまに好意を寄せられてしまうのは、嬉しさ半分、少し恥ずかしくなってしまう。


「けど、分かったところでどう動いていけばいいのか分からないんだよね」


「まぁ、単純に話しかけにいったらいいんじゃないか?」


「そ、それが難しいんじゃないかっ!」


「そうだぞ少年。何事も始めが肝心なんだ」


 確かに、それはそうなのだが……。

 正直、どうやってアピールを始めていいのか分からない。

 俺だったらなりふり構わず攻めに行くのだが、一輝はどちらかというとそのタイプではない。


 ……かといって、俺は他に方法が思いつかないしなぁ。

 ーーーーーそれに、他からアドバイスを聞こうにも、


 神楽坂→彼氏歴なし

 西条院→彼氏歴なし

 麻耶ねぇ→彼氏歴なし


 だもんなぁ……。


「あ、そういえば先輩って付き合ったこととかあるんですか?」


「うん?それはあるさ」


 流石先輩っす。

 イケメンで臆病な一輝とは違い、しっかり俺より先に進んでいる。

 これが男としての格の違いというやつなのか……ッ!


 しかし、これで俺たちよりも大分マシなアドバイザーが見つかった。

 これで、何とか一輝の恋も上手くいきそうである。


「それは始めて聞きましたね。生徒会で過ごしてきたのですが、一度もそのような話を聞いたことはなかったので」


「そうかな?うちのクラスでは陽介くんが付き合ってた時はよく話題にあがっていたよ」


「そうなんですか麻耶先輩?」


「うん、二股野郎とか、年上好きのタラシ野郎とか」


 悪口じゃねぇか。

 っていうか、どれもこれもまともな恋愛してみたいに聞こえる悪口なんだが?


 アドバイザーとして、早速不安が出てしまったようだ。


「まぁ、あながち間違ってないよね。俺が付き合っていたのは、基本年上の人ばかりだったし、二股したこともあったしね」


「……それはどうなんですか?」


「結城先輩って意外に女の子の敵だったんですね」


 後輩達が一気に先輩から距離をとる。


 ……流石先輩。

 男のロマンPart3、4を平然とやってのけるなんて……そこにシビれる憧れるぅ!

 いや、マジで。普通に年上好きはともかくとして二股はやっちゃダメですよ先輩?

 俺でも二股なんてしませんからね?


 ……あわよくば、俺も先輩に相談しようかと思っていたのだが、やっぱりやめよう。





 ってことは、俺達って一輝に何のアドバイスができない集まりばっかだよね。

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