初恋相手の捜索
時は進み放課後。
俺達は恋のキューピット&タダ働きの為に生徒会室へと訪れた。
「あ、一輝くんだ!やっほー!」
俺達が生徒会室に入ると、先に来ていた麻耶ねぇが一輝を見るや大きな声で声をかける。
「お久しぶりです麻耶さん」
「うんうん、久しぶりだね~!」
「お、初めて見る顔じゃないか」
すると、先輩もこちらに気付き、いつもと見慣れない顔に少しだけ驚いた。
「初めまして佐藤一輝です」
「俺は結城陽介だ。ここでは生徒会の副会長をしている。よろしく頼むよ」
そう言って、先輩が差し出した手を、一輝は握り返す。
うん、流石先輩だ。初対面なのに仲良くやっていけそうな雰囲気である。
……しかし、イケメンが二人並んでいる姿は、どうにも目が痛い。
美少女が並んでいる姿は目の保養になるのだが、イケメンが並んでいると————
「時森くん大丈夫?目が充血しているけど?」
おっと、どうやらイケメンを見ていたら目が充血してしまったようだ。
通りでさっきから目が痛いと思ったよ。
あれだね、やっぱりイケメンはこの世に存在しちゃダメだね。
この世の男子達に害しか与えない。
「時森さん、その振り上げている鈍器は一体何ですか?」
「ん?この世の平穏の為に害虫駆除を行おうとしていただけだが?」
「はぁ……顔がいい人を見ると、どうして時森さんは頭が馬鹿になるのですか……」
「失礼な、俺のどこが馬鹿に見えるっていうんだ」
「歯ぎしりして、目から涙を流しながら鈍器を振りかざしているその姿こそ、馬鹿にしか見えないのですが……」
おっと、俺はいつの間にかそんな醜い姿になってしまったとは。
いけないね……イケメンを見たらどうしても右手が勝手に疼いてしまう。
静まれ……我が右手に宿る邪龍よ!
「大丈夫だよ!おねぇちゃんの中では望くんが一番かっこいいから!」
「ありがとう……」
何故だろう?
麻耶ねぇが励ましてくれるのは嬉しいのだが、発言が息子を励ますお母さんみたいに聞こえるのは?
……嬉しさが自然と半減何ですけど?
「それより、佐藤少年はどうして生徒会に?」
「そうだよ、一輝くんが生徒会室に来るなんて初めてじゃないかな?」
「えぇ……実は————」
♦♦♦
「なるほど、要はそのぶつかった人を探している、と?」
「そうなんです」
「えぇ!一輝くん好きな人できたんだ!おめでとう!」
一輝が一通り事情を話すと、麻耶ねぇは自分の事のように喜んだ。
やっぱり、似たような境遇の人は共感しやすいのだろうか?
「このことは西条院ちゃんは知っているのかい?」
「えぇ、事情を聞いたうえで、生徒名簿の閲覧を許可しました」
「なら、俺からは言うことはないね」
すると、先輩は腰かけていたソファーから立ち上がり、本棚から一冊のファイルを取り出す。
「これが全校生徒の情報が書かれてある名簿だ」
「ありがとうございます、結城先輩」
「けど、一輝くん。探してもいいけど、あまり他の人のページは見ないようにね?一応個人情報だから」
「分かりました」
そう言って、一輝は生徒名簿を受け取る。
しかし、その厚さは数十㎝あり、なかなかに分厚い。
ここから探すのはなかなか骨が折れそうだ。
「さて、時間もかかりそうだから、早めに確認するか」
「そうだね!」
俺達も、ファイルを覗くようにして見る。
「確か、一輝が会った人は黒髪のセミロングだったよな?」
「うん、そうだよ」
「けど、私たちじゃそれだけだと分からないよね。写真を撮ったのも多分前だと思うし」
「そうだね~、この写真は入学したときに撮ったものだから、髪型なんかは変わっててもおかしくないね~」
それだと、話を聞いた俺達だけでは見つけるのは難しそうだ。
本も一冊しかないし、手分けしてというわけにもいかない。
……ここは、実際に会った一輝だけに探してもらうしかないようだ。
「しかし、全校生徒となると時間がかかりそうですね。ただでさえ、我が学園は全校生徒が多いですから……」
「そうなんだよな……せめて、学年だけでも分かればいいんだが…」
俺と西条院は頭を悩ませる。
「だが、佐藤少年の話を聞く限り、初対面でも敬語じゃなかったんだろう?だったら、2年生を考えるべきだと思うね」
「確かにそうですね」
先輩の話を聞いて俺は少し納得する。
俺達と同じ一年生なら、初対面の相手には敬語を使うだろう。
だって、制服だけじゃ学年何て分からないからな。
すると、相手が上級生かもしれないということを考えて、必然に敬語を使ってしまう。
逆に、上級生なら誰に対しても敬語を使わなくていい。
始めて話す人は同級生か下級生なのだから。
それに、3年生は現在自由登校。
学校に登校している3年生はごく僅かだ。
となると、考えられるのは2年生。
……流石先輩です。
俺達では気づけないことに気づいてくれました。
まじリスペクトっす。
「分かりました、2年生の人を探してみます」
そう言って、一輝は生徒名簿をめくる。
その姿はかなり真剣で、見つけてみせると言わんばかりだ。
(……ここまで、真剣にしているところを見せられたら、頑張ってほしいって思ってしまうな)
親友が初めて好きな人かもしれない人物と歩み寄ろうとしている。
そのことに、長年一緒に友達をやってきた俺は嬉しく思う。
「よかったね、一輝くん……」
麻耶ねぇが優しい目で一輝を見ながら呟く。
……そっか、麻耶ねぇもずっと一輝を見てきたもんな。
きっと、麻耶ねぇの中では一輝も弟として見ているのだろう。
だからこそ、弟の成長に、どこか嬉しく感じる部分があるのかもしれない。
思えば、神楽坂が喜んでいたのも、麻耶ねぇと同じ理由なのかもしれないな。
確か、幼なじみって言ってたし。
「さて、私たちは仕事をしますよ」
西条院が手を叩き、俺達に仕事に戻るように促す。
先輩たちも、ソファーで名簿とにらめっこしている一輝から離れ、己の仕事を始めていく。
———さて、俺も一輝の初恋相手が見つかるまで、ちゃんと仕事しますかね。
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