恋のキューピット、始めます!
「———そうかそうか、なるほどな」
バレンタインデーから一日。
昨日の騒ぎから一変、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
聞くところによると、一輝はチョコを貰ったことがバレて逃げ回っていたようだが……ほんと、運のいいやつめ。
俺なんか———
「ごめんね、そんな全身痣だらけなのに話聞いてもらって」
「あぁ、さっきから痛みで涙が零れそうになっているが、話を聞く分には問題ない」
正面に座る一輝が申し訳なさそうに口にする。
安心しろ、お前は何も悪くない。
悪いのは登校してきてすぐに袋叩きにした我がクラスメイト達だ。
何でも、チョコを貰ったことによる幸せ罪なんだそうで。
ほんと、どこから情報を入手したのかね?
俺、麻耶ねぇ達にチョコ貰ったことは誰にも言ってないのに。
まぁ、先ほどからあちこち痛むが、大したものではない。
西条院に全関節を外されたときに比べればな……。
けど、先ほどから涙が出そうになる。
あぁ……本当に痛いなぁ。
おっと、話が逸れてしまった。
「————で?その話を聞いて俺にどうして欲しいんだ?」
「実は、僕もどうしたらいいのか分からなくて……」
「めんどくさいやつだなお前は……」
俺は大きくため息をつく。
「つまり、あれか?昨日初めて会った女の子に恋したかもしれないけど、始めて抱いた感情だからどうすればいいのか悩んでいる……と?」
「その通りだよ……」
そう、俺は何故か一輝に現在相談真っ最中。
登校して処刑され終わった後、一輝は深刻な顔つきで俺の元に話に来たのだ。
お題は昨日初めて会った女性の恋愛疑惑。
……何故このタイミングで恋愛相談なのか?
「俺だって、恋愛相談してほしいくらいなのに……」
昨日、彼女達から俺に寄せる想いを口にされた。
それについて、俺も昨日一生懸命に考えたんだ。
……けど、これといってまだ回答が得られてない。
彼女達に抱く感情は間違いなく『好き』だ。
しかし、それが恋愛感情なのか?ということまでは分からなかった。
『自分が考えて答えを出す』
そのことには変わりないが、どうすれば答えが出るのか……俺も誰かに相談に乗ってもらいたい。
「だが、その人のことを思うと胸がドキドキしたり、顔が熱くなるんだろ?」
「うん」
「それって、恋じゃね?」
「そうなのかな……?」
一輝は腕を組んで、深刻な表情で悩む。
「けど、僕は彼女とどうなりたいかまでは分からないんだよね……」
「普通は付き合いたいとか思うもんだがな」
「でも、僕その人と全然関わったことないんだよ?昨日初めて会ったし、名前も知らないし」
「そりゃそうか」
確かに、昨日の今日で会ったやつと付き合いたいか?と言われれば悩んでしまう。
その人は本当はどういう性格なのか?何が好きなのか?自分は本当に好きなのか?
その人のことを知らないのに、いきなり付き合いたいと言われれば、怪しいところである。
一輝は、外見ではなく中身を見るタイプだ。
だからこそ、余計にでも悩んでいるのだろう。
「どうしたもんかね……」
「どうしたんですか?」
俺達が悩んでいると、後ろから西条院と神楽坂がやってきた。
「ん?あぁ……ちょっと考え事をな…」
「そうなの?……時森くんに考え事何て似合わないのに」
「馬鹿にしてんのか?」
悪口じゃねぇか。
いきなり馬鹿にしてくるなんて、この子は一体どうしたというのか?
————けど、
「なぁ、こいつらに相談してみるのはどうだ?俺よりいい答えがもらえるかもしれん」
「そうだね、二人なら話してもいいかな」
「???何の話ですか?」
「あぁ、実はな————」
♦♦♦
「えぇぇっ!おめでとう佐藤くん!」
「そうですね、おめでとうございます」
一通り一輝が二人に事情を説明すると、何故か二人は称賛した。
「ん?どうしておめでとうなんだ?」
この話に、おめでとうの要素何てあったのだろうか?
「だって、好きな人ができるっていいことじゃん!」
「そうですよ。好きな人を見つけることがどれだけ大変な事か……」
「あぁ、そっか」
俺は二人の言葉を聞いて納得する。
一輝は、今まで好きな人ができたことがない。
周りに寄ってくる女子は、外見ばかりを見ている人ばかりだ。
だからこそ、あまり一輝は好きな人を作ろうとしなかった。
それが、ようやくできたのだ。
西条院と神楽坂は、どこか一輝と似たような境遇だったからか分からないが、そのことにすごく共感できたみたいで、自分の事みたいに喜んでいる。
「けど……難しね……」
しかし、二人は喜んだ後に悩ましい顔になる。
やはり、二人でもなかなか難しい課題だったようだ。
「正直に言えば、これからその女の人と関わってみて、自分がどうしたいかを見つける———というのが一番なのでしょうが……」
「あぁ、肝心のその人がどこにいるかも、名前すらも分からないからな」
「僕も、その時名前を聞いていればよかったんだけどね……」
まぁ、それは仕方ないだろう。
初めて恋心を自覚して戸惑ってしまった時に、名前を聞いている余裕なんてない。
俺でも、一輝と同じ境遇だったらそうなってしまうだろう。
「もしよかったら、放課後生徒会室にいらっしゃいませんか?」
「え?生徒会室?」
「えぇ、本当はあまりよくないのですが、生徒会室には全校生徒の名簿がありますし、そこには顔写真が載ってありますから」
「あ、そっか!それで昨日見た人を探せばいいんだね!」
なるほど……流石西条院だ。
それなら、昨日見た人の容姿と顔を思い出いながら探せば見つかるかもしれない。
「今日は部活もないし、大丈夫だけど————いいの?」
「はい、佐藤さんは悪いことはしないと思いますから大丈夫ですよ。そのかわり—————」
すると、西条院は俺の横までやってきて、
「私にも恋愛相談をしてください、時森さん。特に、意中の相手に好きになってもらう方法……など」
「ッッッ!?」
「あ!ずるい、ひぃちゃん!」
耳元で、そんなことを言ってきた。
何故!?このタイミングでそんなことを言うのかね!?
意中の相手に好きになってもらう方法って————本人に聞いちゃダメな奴だよね!?
しかも、お願いしてるのは俺じゃなくて一輝だよね!?
「ま、まぁ……その話は後日に持ち帰るとして————一輝はどうする?なんだったら、その人を探すこととか手伝ってやるが?」
俺は近寄ってきた西条院と神楽坂から顔を逸らすと、考え込んでいる一輝に問いかける。
「是非ともお願いしたいけどいいの?望も、いろいろ忙しいんじゃないの?」
「何を言うか?せっかく親友が好きな人ができたのに、手伝わない友達がどこにいる?———最後まで付き合うから安心しろ」
「ありがとうね……」
お礼なんて、一輝は何を勘違いしているのか?
俺は感謝して欲しくて手伝おうとしているわけではない。
一輝を手伝いたいからするだけだ。
だから、いらぬ勘違いはやめてほしい……少し照れてしまうじゃないか。
「あ、私も手伝うよ!佐藤くんにはお世話になったからね!」
「えぇ、私もお手伝いいたしますよ」
「二人とも……ありがとう」
そう言って、一輝は俺達に頭を下げる。
さて、これでやることが一つ増えたわけだ。
我が親友が、好きな人と関りが作れるよう、頑張らなければならない。
俗にいう、恋のキューピットの始まりである。
……俺も、しっかりと頑張らないとな。
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