第6章 春のスポーツ大会編

プロローグ

(※一輝視点)


「はぁ……はぁ…」


 僕は、一人誰もいない廊下の隅で荒々しい息を吐く。

 サッカー部で鍛えていたつもりの持久力も、彼ら相手では息を切らしてしまうらしい。


 僕はちらりと角から廊下を見渡す。


『おいっ!佐藤の奴はどこに行った!?』


『くそッ!早く見つけて、一人だけチョコをもらった大罪によって処刑しないと!』


『きゃはははハハハハハハハッ!』


 そこには、禍々しいくらいの負のオーラを全身に纏わせている僕のクラスメイトの男子達の姿が。

 そして、その手には鈍器やスタンガンが握られている。


 男子達は、廊下をキョロキョロして僕を探しているみたいだけど、どうやら見つけきれていないらしい。

 しかし、廊下の隅に身を隠している僕は、いつ見つかるかという恐怖に内心冷や汗をかいていた。


 じっと、クラスメイトが立ち去るのを待つ。


『ここにはいないぞ!』


『あっちを探す!そして、一人だけ大量にチョコを貰った佐藤に天罰を!』


『アキャキャキャキャキャキャキャ!』


 そして、クラスメイトは僕がいる場所とは間反対の方向へと向かって走り去った。

 その背中が見えなくなるまで、僕は息を潜める。


「……行ったみたいだね」


 完全に姿が見えなくなると、僕は廊下へと顔を出した。

 そのことに、胸を撫でおろす。


「本当に、困ったものだね……」


 嫉妬や妬みの集大成というべきか?

 ここまで必死に僕を追いかけるなんて、どこまで人の幸せが嫌なんだろうか?


 自分も努力して幸せを掴めばいいのに……。


 僕は、ポケットに大量に入っているチョコを見て呟く。


「……僕も好きでチョコを貰ったわけじゃないんだけどなぁ」


 こうして男子から追いかけられる原因となったこのチョコ。

 今日はバレンタインデーということで、僕はいろんな女子達からチョコをもらった。


 休み時間になったら、必ず一人は女子がチョコをくれるという謎の現象。

 そのおかげで、ポケットから溢れるほどの量になってしまったし、実はカバンの中にもまだたくさんある。

 そして、そのチョコを見て一つも貰えなかった男子達からは、こうして追いかけまわされる始末……ほんと、ため息しか出ないよ。


 チョコを貰いたかったら、自分も頑張ればいいのに……。

 どうしてもそう思ってしまう。


 僕は何故周りの女の子からチョコを貰えるのか分からない。

 けど、一人だけ僕が知っている限り頑張ったからチョコを貰えた人がいる。


 その人———望は、『彼女が欲しい』という目標のために努力してきた。

 そして、その性格で助けを求める人に手を指し伸ばしてきたから、望はチョコを貰えたんだと思う。

 本人からはチョコを貰ったという話は聞いていないけど、きっと今年も麻耶さんからチョコを貰うと思う。

 多分、神楽坂さんや西条院さんからも……。


 僕も、聞いた話では彼女たちは皆望に助けられたと聞いた。

 何の見返りもなく、ただ救ってあげたいと思った一心で。


 ……西条院さんは分からないけど、麻耶さんや神楽坂さんは望のことを好きなはず。

 麻耶さんは昔からそうだったし、神楽坂さんに関しては、クリスマスの後、そのことをラオンのメッセージで聞いた。


 こうして好意を寄せられたから、望はチョコを貰うことができた。

 だから、みんなも頑張ればいいのに……そう思ってしまう。


「けど……」


 僕はどうなんだろう?

 これと言って、特別な何かをしたわけでもない。

 ただ、周りから少し顔がいいと言われているだけで、こうしてたくさんのチョコを貰ってしまった。


 何故、彼女たちは僕にチョコをくれたのだろうか?


 ……僕の、どこに好意を寄せてくれたのだろうか?


 今でも、たまに告白をされることがある。

 その時は、優しい性格とか、部活に熱心に打ち込む姿を好きになりました———とか言われたけど、果たして本当なのだろうか?


 告白してきた女子達のほとんどが、あまり関わりのない人達。

 それなのに、僕の何を知れたというのか……?


「西条院さんと神楽坂さんが羨ましいよ……」


 彼女たちを見た時、どこか僕と同じ匂いがしたんだ。

 外見だけ見ている人たちに囲まれて、自分をさらけ出せていない姿に、僕は親近感を覚えた。


 けど、二人はしっかり中身を見てくれる人が現れた。

 それは、僕の親友で———


「はぁ……恋愛って難しいな…」


 叶うことなら、僕も2人みたいに、中身を見てくれる人と恋をしてみたい。

 それは、僕の自分勝手で、傲慢な考えかもしれないけど————そう思ってしまう。


「とりあえず……今日は帰ろう」


 クラスメイトに見つかる前に、早く校門を出なければ、また追いかけまわされるかもしれない。


 そう考えると、俺は廊下の隅から勢いよく体を出す。

 すると———


「きゃっ!」


「うわッ!」


 勢いよく、現れた人影にぶつかってしまう。

 僕はぶつかった衝撃で思わず尻をついてしまい、相手も同じく尻をついてしまった。


「す、すみませんっ……大丈夫ですか!?」


「いたたぁ……あぁ、私は大丈夫よ」


 ぶつかった、女子生徒は両手を振って答える。


(綺麗な人だなぁ……)


 僕は、ぶつかった相手を見てそう思ってしまった。

 肩口までのサラリとした黒髪に、透き通った瞳。そして、ちょっと強気な雰囲気を漂わせているが、どこか安心させてくれるような雰囲気にも感じた。


「それより、あなたも大丈夫?」


「え、えぇ…大丈夫です」


 僕は少し緊張して言葉がうまく出なかった。


「ふぅーん…ならよかったけど———チョコ、落ちてるわよ」


「あぁ!しまった!」


 床には僕が貰ったチョコが大量に散らばっていた。

 どうやら、ぶつかった拍子にポケットから出てしまったようだ。


 僕は慌ててチョコを拾う。

 すると、ぶつかった女の人も屈んで一緒に拾ってくれた。


「ありがとうございます……」


「気にしないで。私が前を見ていなかった所為でもあるんだし、これくらいはさせて。それに—————」


 そして、女の人は僕に向かって笑いかけてくる。


「女の子が一生懸命作ったチョコだもの。こうやって床に散らばったままなん可哀想だものね」


「ッ!?」


 僕は、思わずドキッとしてしまった。


(……どうして?ただ拾ってもらっただけなのに、こんなにも胸がドキドキしてしまうなんて)


 顔が熱くなっているのを感じる。

 そして、それ以上に胸が高まっていくのを感じた。


「はい、これで全部でしょ」


「あ、ありがとうございました」


 拾い終えると、女の人は僕にチョコを渡してくれる。


「次からはちゃんと大事に持っておかないとダメよ?ポケットの中に入れるて、粗末に扱っちゃダメ!いい?」


「は、はい!」


「よろしい!」


 そして、再び彼女は満面の笑みで笑う。

 その姿に、僕の胸が先ほどよりも高まっていくのを感じる。


「あ、そうだ。これあげるわ」


 彼女は何か思い出したのか、カバンから一つのチョコを僕に渡してきた。


「これも何かの縁だし、もらって頂戴。別にホワイトデーのお返しとかいいから」


「え?で、ですが……」


「友達にあげようと思ったんだけど、今日風邪で休んじゃって渡せなかったの。どうせ持って帰るよりかは、誰かに食べてもらった方がいいからね」


 そう言うと、彼女は僕の方に背中を向けて、廊下の先に歩いて行った。


「じゃあね、またどこかで会いましょ」


 そして、その言葉を言い残し、立ち去ってしまった。


「……」


 僕は、渡されたチョコを手に持ちながら、呆然と彼女の後姿を見ていた。

 彼女がいなくなった後も、顔が熱いし、胸の高まりも収まらない。


(これって……)


 今日初めて会ったはずなのに。

 少ししか会話なんてしていないのに。

 全然、彼女んことなんて分からないはずなのに。


 僕は、この気持ちを抱いてしまった。

 案外、僕ってチョロいの?


 ———でも、


「恋……なのかな?」




 僕は、生まれて初めて恋をしたかもしれない。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


※作者からのコメント


というわけでプロローグ!

終わらせるか続けるか悩んだ作者でしたが、続ける方針でいきました!


というのも、まだヒロイン達の魅力が出し切れていないのと、主人公の葛藤が弱いかな?という理由です!


変な間延びという訳ではなく、作品として、伸ばした方が面白いという結論になりました!(ちなみに、作品のラストは決まってますw)


というわけで、これからもご愛読いただければ幸いです!

では、またどこかで!

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