麻耶ねぇが我がクラスにやって来た!
「望、お昼食べようよ」
「おう、いいぞ」
授業が終わり、俺が弁当を広げようとしていると、横から一輝に声を掛けられる。そして、俺が了承すると一輝が正面の空いた席へと座った。
「私たちもいいですか?」
一輝に続くかのように、西条院も俺に声をかける。
その後ろには、俺の作った弁当を持った神楽坂の姿もあった。
「わ、私もいいかな……」
「お、おう……」
俺と神楽坂はお互いに顔を逸らしてしまう。
……いかん、昨日の神楽坂の姿が脳裏から離れないせいで、まともに顔を見ることができん。
神楽坂も同じ気持ちなのか、顔を赤く染めている。
「……お二人とも、何かあったのですか?」
「今日の朝からそんな感じだよね」
「な、何もないぞ!」
「そ、そうだよ!」
俺達の様子を見た西条院と一輝から怪しむ目を向けらたが、俺たちは悟られないように首を横に振りながら否定する。
昨日、俺は結局風呂場で意識を失ってしまい、それに慌てた神楽坂が俺をリビングまで運び、看病してくれた。
意識を取り戻した俺は、何故か裸ではなくて、ちゃんとした寝間着だった。
神楽坂にそのことを聞いてみると、
『は、裸のままでは風邪ひいちゃうから……そ、その……着替えさせてあげました…』
つまるところ、俺を心配してくれた神楽坂は俺の体をふいてくれ、風邪をひかないように俺をパジャマに着替えさせてくれたのだ。
ということは、俺の裸もバッチリ見られた挙句に、体を触られてしまたというわけで。
……いや、心配してくれたのはありがたいんだけど、男の尊厳全てを昨日失った気がする。
ということもあり、昨日からずっと俺たちの間には気まずい空気が流れている。
お互いに、異性の裸を見てしまったことへの恥ずかしさ。
それが今も現在進行形で続いているのである。
「は、早く食べようぜ!時間が無くなってしまう!」
「そ、そうだね!早く食べよ!」
「「………」」
俺達はごまかすように、机に弁当を広げる。
「はぁ……今は追及しないでおきましょう————アリス、後でお話があります」
「……はい」
どうやら、西条院はごまかしきれないようだ。
……すまん、神楽坂。
俺が欲望に駆られ、変なこと言ってしまったばかりに。
「の・ぞ・む・く~ん!お昼一緒にたべよっ!」
俺が心の中で神楽坂に謝っていると、急に我が教室に麻耶ねぇが弁当を持って教室に現れた。
「ど、どうして麻耶ねぇがここに!?」
「う~ん、望くんとお昼を一緒に食べたくて来ちゃった♪」
来ちゃった♪じゃねぇよ!?どうして来ちゃったんだよ!?
今まで一緒に食べたことなかったじゃん!
俺が驚いているのをよそに、麻耶ねぇは大きな胸を揺らしながら俺たちのところまでやって来た。
「あ、みんなおはよ~」
「こんにちはの時間ですよ鷺森さん」
「どうもです、麻耶さん」
「こんにちは、麻耶先輩!」
そして、みんなに挨拶をすると、俺の後ろまで回り込み、おもむろに抱き着いてきた。
……ふむ、今日もよい柔らかさなもので。
————じゃない!
「麻耶ねぇ。お願いだ、今すぐ離れてくれ」
「ん?どうして?」
どうしてって、そりゃ————
『お前ら、時森を埋める準備はできたか!』
『コンクリ、準備よしです!』
『スコップも人数分用意できました!』
『撲殺用の鈍器もOKです!』
後ろで嫉妬に狂った連中がいるからです……。
ここ、生徒会室じゃないんですよ。
物わかりのいい生徒会メンバーじゃなくて、性欲と嫉妬の塊であるチンパンジーしかいないんです。
このままだと……俺、殺されちゃいます。
「麻耶さん、とりあえず離れてあげてくれませんか?……望の命が危ないんです」
「ん?どういうこと?……もしかして、一輝くんもハグして欲しかったの?……ごめんね、もう望くんにしかしない事にしたから~」
「い、いえ!そういうことではなくてですね———」
『お前ら、もう一人追加だ!』
『あのイケメンも、わが校のお姉ちゃんに手を出そうとしたぞ!』
『やっと、やっと佐藤も殺ることができるんだね~、僕嬉しくなっちゃうよ~』
「………」
一輝は後ろの死刑宣告に、悲しみの涙を流す。
……なんというか、その…ごめんな?うちのねえちゃんが。
俺を庇ってくれただけなのに、巻き込まれてしまったもんな。
……本当に、ごめんな。
「麻耶ねぇ頼む。本当にこのままだと、俺と一輝の命が飛び散りそうなんだ」
俺がそう言うと、麻耶ねぇは後ろで殺意に満ち溢れている連中を見る。
「こら!そんなもの持ってちゃ危ないでしょ!静かにしてて!」
『『『はぁ~い!!!』』』
麻耶ねぇが注意すると、連中は己の武器を捨てて、にっこりとほほ笑んだ。
……流石麻耶ねぇ。
一瞬で連中たちの殺意を取り除くとは。
見てよあの連中の顔。
麻耶ねぇに話しかけられただけで、よだれを出しながら喜んでいるぞ。
……普通に気持ち悪いわ。
「じゃあ!一緒に食べよっか!」
「はいっ!」
「そうですね」
「「……」」
そう言って、麻耶ねぇは空いている席へと座り、自分の弁当を広げる。
しかし、一方で俺と一輝は複雑な気分だった。
「……ねぇ、望」
「……どうした?」
「これって……命の危機が去ったことに喜んでいいの?」
「……いいんじゃないか」
本当は麻耶ねぇの所為で命の危機にさらされたわけだけど。
ただ勝手に、俺たちが巻き込まれただけなんだけど。
……とりあえず、早くご飯を食べてしまおう。
俺と一輝は、若干の疲れを感じつつ、弁当を広げた。
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