神楽坂とお風呂回です!

 俺は今、いい湯加減の湯船に浸かっている。

 体の芯まで温めてくれる絶妙な温度。

 一日の疲れた体を癒してくれるかのようなこの入浴という行為に、俺の気持ちは————


「や、やばい……本当に、どうすんの?」


 穏やかではなかった。


 先ほどの神楽坂の発言からしばらくして、


『時森くん、先に入ってていいよ』


 と言われて、こうして一人で先に入っているのだが————


「これ……神楽坂が本当に入ってきたら……」


 間違いなくヤバイ!

 俺の理性的な面でも、この後のことを考えても、俺の未来は明るくない!


 もし、このことが神楽坂の両親や、西条院、クラスの連中に知られたりでもしたら……殺されるのではないか?


「いや…いやいやいや」


 俺は考えを振り払うかのように首を振る。


 あの神楽坂のことだ。

 もしかしたら、勢いであんな発言をしたことに恥ずかしくなり、結局入ってこないかもしれない。

 うん、そうに違いない。


 俺はそう思うことにすると、体を洗おうとして湯船から立ち上が————


「時森くん、入るね?」


「ヒィィィィッ!?」


 俺は勢いよく湯船へと戻る。


 え!?ちょっと本気で入ろうとしてるの!?

 今日の神楽坂さんどうしちゃたの!?


 いや、いやいやいや。

 入ると言っても、きっと水着で入ってくるに違いない。

 流石に男の前で生まれたままの姿で現れるはずはないだろう。


「し、失礼します……」


 そして、扉が開き、神楽坂が入ってきた。


「ッッッ!?」


 俺は思わず顔を逸らし、鼻を押さえる。


 その姿は、局部をバスタオル一枚で隠しており、透き通った肌がこれでもかというぐらい露出させている。

 ……しかも、肩口にひもがない!


 ————ということは、


(水着じゃ……ないッ!?)


 俺は、その衝撃の事実に驚いてしまう。


「時森くん……顔真っ赤だよ?」


 そう言って、人に言えないくらい顔を真っ赤にした神楽坂が中に入ってくる。

 俺はその姿を見ないように必死に顔を逸らす。


「か、神楽坂……その、こういうのは本当によくないと思うんだ。年頃の男女が同じ湯舟に浸かるなんて……」


「時森くんがそれを言うの?時森くんが言い出したことだし、この前だって私たちのお風呂を覗こうとしてたじゃん。それに—————」


 そして、俺の近くまで寄ってきて、耳元でそっと囁く。


「私、覚悟してねって言ったよね?」


「ッッッ!?」


 言った!言ったけども!?

 それでお風呂場に突撃って行動的すぎない!?

 いつの間にこんなにたくましくなっちゃったの!?


「ふふっ、時森くんかわいいなぁ」


 マウントをとって喜んでいるのか、嬉しそうに笑う神楽坂の声が聞こえてきた。


 ……俺の理性————ちゃんと持つのか!?



 ♦♦♦



 そして、俺と神楽内は同じ湯舟に一緒に浸かっている。


 さっきまで、俺は必死に耐えたんだ。

 顔を壁に向けて、神楽坂の体を洗う音を聞きながら、必死に息子の暴走を止めていたんだ。


 ……それなのに、


「ねぇ、時森くん。どうしてさっきから私を見てくれないの?」


 これは流石に耐えれそうにありません!!!


 神楽坂の体が、最早至近距離にあるんです!

 透き通った肌に、バスタオルでは隠し切れない発育した胸、そして先ほどから足に伝わってくる神楽坂の柔らかい太ももの感触。


「すまん……こればっかりは許してくれ…」


 俺はかすれ切った声で、神楽坂に謝る。


「そういえば、この前お母さんが言っていたんだけど……」


 神楽坂はお湯をチャプチャプさせながら、恥ずかしそうに口にする。


「す、好きな人と……結ばれるには……既成事実が一番なんだって…」


(何でそれを今言った神楽坂ァァァァァァァッ!?)


 何!?襲えって言ってるの!?

 無理に決まってるじゃん!?俺にそんな度胸ないんだからさ!?

 じゃなかったら、伊達に童貞続けてませんよ!


 それに、何まんざらでもなさそうな声してるの!?

 それがどれだけ俺の理性を刺激してるのか分かってる!?


「そ、そうか…」


 俺は、そんな言葉しか返すことができなかった。


「う、うん……」


 気まずい沈黙が浴槽を包む。

 聞こえてくるのは、互いの息遣いと、水滴が落ちる音のみ。

 そして———


(まずいッ!?俺の心音聞こえてないよな!?)


 俺の心臓の音はもうバクバク。

 先ほどから、その所為で湯船の水に波紋を作っている。


「ねぇ……時森くん…」


 俺が少し焦っていると、沈億を破るように、神楽坂が口を開く。

 その顔は、今日の中で一番顔が赤く、勇気を振り絞っているようだった。


「わ、私の……おっぱい、見る……?」


「ふぁっ!?」


 な、なにを言い出すんだこの子は!?

 急に、何の前触れもなく、己の乳房を見ないか……なんて!?

 痴女になり果ててしまったのかこの子は!?


「急に何を言うんだお前は!?」


「だって……さっきから時森くんの視線が…私のおっぱいばっかりなんだもん…」


 なんていうことでしょう。

 必死に見ないようにしていたというのに、己の意思とは反対に、視線が神楽坂の胸に行っていたとは。


「い、いや!べ、別に見たいわけじゃないぞ!」


 俺は慌てて否定する。

 そうしないと、これでは俺はただの変態さんじゃないか!


「け、けど————」


 すると、神楽坂は俺の方までグッと近づいてきて、己の体を俺に押し当ててくる。

 そして、俺の限界を打ち破るような一言を口にした。


「時森くんなら……恥ずかしいけど…見てもいいよ…?」


 見てもいい…見てもいい…見てもいぃ。


 俺の頭の中で、神楽坂の言葉か反響する。


 神楽坂のあの胸を、見てもいい……だと…ッ!?

 柔らかそうなあの胸を、麻耶ねぇ程ではないが、発育したあの胸を、美少女のあの胸を……見てもいい……。


 俺はその光景を想像する。

 すると————


 ブシャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!


「と、時森くん!?鼻血が!鼻血がすごい勢いで出てるよ!?」


 我慢の限界に達した俺は、盛大に鼻血をぶちまけてしまう。










 ……あぁ、女の子の体って、こんなにも素晴らしかったんだ。


 楽園エデンを求めた男達どうしよ、やはり、ここは素晴らしいものだったぞ。

 皆、どうかこの楽園エデンに辿り着いてくれ。


「大丈夫時森くん!?ねぇ、しっかりして!」


 俺は朦朧とした意識の中、見てもないはずの楽園エデンに感銘を受けた。


 そのことに満足し————心配そうに俺を抱きかかえる神楽坂の柔らかい感触を感じながら、己の意識を手放した。




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