麻耶先輩とチョコ作り

(※アリス視点)


「すみません麻耶先輩……手伝ってもらっちゃって……」


「ううん!気にしなくてもいいよ~」


 私がそう言うと、エプロンを身に着けた麻耶先輩は笑いながら冷蔵庫にあるチョコを取り出す。


「それにしても、やっぱりアリスちゃんはチョコ作れないんだね~」


「……うぅ」


「でも大丈夫!おねぇちゃんに任せなさい!」


「あ、ありがとうございます!」


 私は腕をまくって力こぶを作る麻耶先輩にお礼を言う。


 今、私は麻耶先輩の家にお邪魔している。

 というのも、今日は時森くんがひぃちゃんのお父さんとご飯を食べに行くらしく、ご飯が作れない私は、麻耶先輩の家でご飯を頂くことになったのだ。


 ……今頃、時森くんは何してるんだろう?

 も、もしかして、もう親公認の仲になっちゃったとか!?


 ————け、けど大丈夫だよね……。

 時森くんのことだから、きっといつもの鈍感さんを発揮して、気づいていないだろうし。


 そ、それより私も頑張らなくちゃ!


「じゃあ、今日はチョコスティックケーキの作り方を教えます!」


「おぉー!」


 私は小さな拳を天井に突き上げた。


 そして、私は帰り道に麻耶先輩にチョコの作り方を教えて欲しいとお願いして、こうしてご飯後に教えてもらっている。


 私は袖をまくり、エプロンのひもを縛って、キッチンに立つ。


「じゃあ、早速チョコを溶かすところから始めよう!」


「はい!」


 私は気合を入れるとチョコをボウルに入れると、今日のために持ってきたこれをボウルに入れて—————


「ま、待ってアリスちゃん!」


 すると、急に麻耶先輩が慌てた様子で私の腕を掴んできた。


「どうしたんですか?」


「今……何入れようとしたの?」


 え?別におかしなもの入れようとしてたわけじゃないんだけどなぁ。

 ちゃんとしっかりチョコを溶かさないといけないから—————


「塩酸ですけど?」


「何で入れようとしたの!?」


 麻耶先輩は驚きながら、私が持っていた塩酸が入っている小瓶を取り上げる。

 でも……それがなかったら、チョコ溶かせないよ?


「……フライパンが溶けた理由が分かったよ」


「???」


 どうしてそんなに疲れているんだろう?

 小瓶を抱えて、息も荒いし、やっぱり無理に教えてもらうのはまずかったのかな?


「と、とにかく!化学で使うものは料理に必要ないんだよ!お湯使ったらちゃんと溶けるから!」


「分かりました……」


 私は麻耶先輩の必死の顔に少し驚きながらも、小瓶をカバンの中にしまう。


 ……そっか、塩酸は使わないんだ。


「こうやって、沸騰したお湯にチョコとバターを入れればしっかりと溶けるんです!」


「ほぇー」


 そう言って、麻耶先輩はボウルを沸騰したお湯の中に入れる。

 すると、チョコはバターと一緒に溶けていった。


 すごいなぁ!

 こうやってチョコって溶かすんだ!


 ………あ、しっかりメモとらなきゃ。


「それで、溶かしたチョコレートに塩と上白糖を加え、泡立て器でしっかり混ぜ合わせて、上白糖を混ぜ溶かします!」


「はい!」


 麻耶先輩は慣れた手つきで材料をかき混ぜていく。


 ……うぅ、麻耶先輩すごすぎるよぉ。

 なんか、女子力の差を見せつけられているような気がする……。


 時森くんって麻耶先輩みたいに料理ができる人が好きなのかなぁ?


「じゃあ、アリスちゃんもやってみて」


「は、はい!」


 そう言われて、私ももう一つ用意してあったボウルを湯の中へと入れた。


 じーっと、チョコが溶けるのを待つ。

 その間に、ちょっと聞きたいことがあったので、麻耶先輩に聞いてみた。


「麻耶先輩ってどうして私にチョコの作り方を教えてくれたんですか?」


「ほぇ?」


「いえ……私と麻耶先輩ってライバルじゃないですか……なのにどうして手伝ってくれるのかなぁって」


 このチョコは時森くんにあげるための練習。

 多分、麻耶先輩も時森くんにあげるし、どうして敵に塩を送るようなことをするのか気になってしまったのだ。


「うぅん……そう言われてもなぁ…」


 麻耶先輩は可愛らしく顎に指を当てて考え込む。


「別に、ライバルと言っても、私たちは蹴落とし合っているわけじゃないと思うし———それに、頑張ろうとしているアリスちゃんをみたら、おねぇちゃんとして、邪魔するんじゃなくて手伝ってあげたくなっちゃったから」


「そうですか……」


 私は、麻耶先輩の話を聞いて少し嬉しくなった。

 頑張ろうとしている私を手伝ってあげたい————そう言ってくれたことが、私にはありがたい事だった。


「それに、この前私を助けてくれたのね?そのお礼も兼ねて手伝っているのもあるんだよ~」


「あ、あれは別に気にしないでください!」


「ううん、私も助けてもらったし……望くんも助けてもらったから————だから、改めてありがとうね、アリスちゃん!おねぇちゃん嬉しかったよ!」


 そう言って、麻耶先輩は後ろから私に抱き着いてきた。


「あ、あぶないですから!落ち着いてください!」


 私は沸騰しているお湯にぶつかりそうになりながらも、麻耶先輩に頭を撫でられる。


 ……でも、なんだろう?

 胸がポカポカして安心するような感じ……。


 私におねぇちゃんがいたら、こんな気持ちになったのかな?


 頼りになって、褒められただけでうれしくなって—————


「じゃあ、気を取り直してチョコ作っていこうか~」


「はい!」


 私は、今までにない感情になりながらも、ゆっくりと麻耶先輩に教えてもらいながらチョコを作っていった。


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