さぁ!皆さんお勉強です!

 新学期にもなり1月の下旬。

 未だ寒さに震えながらも、今日も今日とて俺達は学業と友達との交流で大忙し。

 校内のあちらこちらでは友人同士のたわいのない会話やカップル達のイチャイチャした声が聞こえてくる。

 ………リア充爆発しろ。


 そして我が1年B組の教室は、今日も変わらず賑やかだった。


「ねぇ……望?」


「(パシャ)……ん、どうした一輝?」


「い、いや……ね?」


 朝っぱらから我が親友はどうしてこんなに疲れきっているのだろうか?


 現在朝のホームルーム前。

 俺は一輝と机を向け合いながらたわいのない会話をしていた。


(((パシャ、パシャ、パシャ)))


「………」


「(パシャ)だからどうしたんだよ?……あ、もうちょっと視線こっちに向けて」


 お、いいね〜!

 その角度、その表情!とってもいいよ!

 さて、この調子でドンドン撮っていきましょう!


「……どうして僕はこんなに写真を撮られているの?」


「(パシャ)ん?別に深い意味は無いぞ?………おい、山田!その角度だど手の位置がよく見えないだろ!もうちょっと上に合わせて!」


「はい!すいません!」


 俺は山田に注意をして、引き続きシャッターをきった。

 それに続いてクラスの連中も負けんばかりに一輝にフラッシュを浴びせる。


「深い意味がなかったら、こんなに写真撮られないよね?」


「(パシャ)まぁ、これは俺達の勉強用に必要なんだ。我慢してくれ」


「勉強用?」


「あぁ、そろそろあの日が近いだろ?」


 そう言って、俺はカレンダーを指さす。

 そこには超派手派手にキラキラシールでデコレーションした丸が見える。

 きちんとあの日が分かりやすくなるように。

 ……もぅ、派手派手だ!


「……あんなにアピールされたバレンタインは初めて見たよ」


 一輝は若干呆れた声で呟く。


 そう、来月の14日には男達が夢見るバレンタインデー。

「このチョコ受け取ってくれない?」から始まり「うん、甘いね」と返事をしたあかつきには「私の方が甘いよ?」「じゃあ、そっちも頂こうかな」と最後はラブラブチュッチュで終わることのできるスペシャルイベント!


 男達は、その夢を叶えるためにどうしても女性陣からチョコを貰わなければならない。

 しかし、以前のクリスマスと同じように土下座しても女子から引かれるだけ。


 ……ならばどうすればいいのか?


 俺達も学習する生き物だ。

 チョコをもらうためには土下座でお願いするのではなく、自分自身がチョコを貰えれるようなナイスガイになればいいのではないか?


 そう思ったが吉日。

 俺達はナイスガイになるべく、こうしてクラス一のイケメンである一輝を見て勉強しているのだ。


「というわけで、俺達の勉強用に、こうして写真を撮らせてもらっているんだ」


「な、なるほどね」


 一輝は若干引き気味に納得してくれる。


「あの顔……反吐が出るぜーーーーはい!いいね!いい角度だよ!」


「妬ましいなあの顔はーーーーーもう1枚、もう1枚いいかな!?」


「これだからイケメンは嫌いなんだよねぇーーーーーはいOK!」


 みんな、しっかり己がナイスガイなるため唇を噛み締めながら必死に撮影している。

 うんうん、みんな勉強熱心だね!


「そんなに嫌なら撮らなきゃいいのに……」


 何を言っているんだ一輝よ?

 吐き気を感じてもナイスガイになる為には我慢するに決まっているだろう?


「今日は何をしているんですか?」


 不意に後ろから声が聞こえる。


 俺達が撮影をしていると、後ろから我がクラスの美少女ーーーー西条院と神楽坂がやってきた。

 ……なんというか……相変わらずこの2人の周りには神々しいオーラがあるように感じるのだが……。


「あぁ、あの日の為に俺達は勉強中なんだ」


「あの日?」


 神楽坂が首を傾げて不思議そうにしていたので、俺はカレンダーを再び指さした。


「なるほど、バレンタインデーだね!」


 納得したのか、神楽坂はポンと手を叩いた。

 いやー本当にその仕草は可愛らしい!お持ち帰りしちゃおっかな〜!

 ……いや、一緒の家に住んでいるんでしたね。もうお持ち帰りしてましたね。


「神楽坂さん!どうかこの僕にチョコを!」


「西条院さん!この哀れな愚民にお恵みを!」


「ギリでもなんでもいいのでチョコください!」


 見事な切り替えとはまさにこの事を言うのだろう。


 神楽坂と西条院が現れると男子達はカメラを放り投げ、綺麗な誠意ある姿勢ーーーー土下座でチョコをお願いしていた。


 おい、お前ら。

 さっきまでのナイスガイはどこいった?

 早速土下座してるじゃねぇか?まだバレンタインには早すぎるだろ?


 ……全く、これだからモテない連中は困るんだ。

 俺みたいにもうちょっと余裕を見せるとかして欲しいものだよ。


「頼む2人とも!俺にもチョコを!」


「どうして時森さんまで土下座しているんですか……」


 すみません、どうしてもチョコが欲しかったんです。

 やっぱあれだよね、このクラスにいると土下座が身についちゃうよね。


「ね、ねぇ……時森くん?お願いだから顔をあげて……ね?」


 神楽坂は俺の土下座を見て心配してくれる。

 ……うぅ、なんて優しい子なんだ!


「じゃ、じゃあ!俺にチョコくれるのか!?」


「え、えっと……」


 え?なんで視線を逸らすの?

 もしかしてくれないの?ここまでお願いしているのに?


「私達が時森さんにチョコをあげるわけないじゃないですか」


「ぐはぁっ!?」


 俺はショックで床に倒れ込む。

 な、なんてことだ!?もしかしたら神楽坂と西条院は俺にチョコをくれるかもと期待していたのに!?


 俺たちの仲はその程度のものだったというのか!?


「ひ、ひぃちゃん……!そんなこと言っちゃっていいの!?」


「まぁ、どうせ渡すならサプライズの方がいいじゃないですか」


 2人は小声でなにか話していたが、ショックのあまり聴力が低下した俺には聞き取ることは出来なかった。


 ……うぅ、チョコ欲しかったよぉ。


「でも望?そんなに落ち込んでいるけど、毎年麻耶さんからチョコ貰っているよね?」


「………」


「「「………」」」


「あ……ごめん」


 一輝の発言により、教室中に静寂が訪れる。

 土下座していた連中も、俺も、その一言によって固まってしまった。


 確かに、俺は毎年麻耶ねぇからチョコを貰っている。

 麻耶ねぇのチョコは美味しいし、超嬉しいよ?

 でも男だったら何個も欲しいじゃん?麻耶ねぇ以外にも欲しいのですよ俺は。


 あとさぁ………



 なんで今言うの?



 本当になんで今言うかなぁ……?

 見てくださいよ、あの男達の鬼気迫る顔。

 もうね、小さいお子さんだったら泣きながら逃げ出してますよ。


 俺みたいな鋼の精神を持ってなかったら逃げ出してますよ。


「………」


「「「………」」」


 しばらく俺達は互いの顔を見合う。

 しかし、徐々に男達は己の懐から鈍器を取り出して構え始める。


 ……あぁ、ダメだわ。


「やっぱ怖い!!!」


「「「待てや時森ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」


 俺はその場から勢いよく逃げ出す。

 だって怖いんだもん!本当に怖いんだもん!

 その後に続いて男達も俺の後を追ってくる。


「猪突猛進!猪突猛進!」


「この俺がド派手に首を切ってやろう!もう派手派手だ!」


「お前の生殺与奪の権を俺に握らせろ!」


 なんでみんな鬼〇の刃みたいなセリフを口にしてるの!?

 君たちが持っているのは刀じゃなくて鈍器だよね!?


 でも怖い!捕まったら殺されちゃう!

 首を切られなくても殴られて殺されちゃう!


 今なら鬼の気持ちが分かっちゃう!


「一輝ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 俺は親友のことを恨みながら必死に廊下を授業が始まっても駆け回ったのであった。










 結局、俺達は新学期に入って38枚目の反省文を書かされました。


 ……俺、そろそろ反省文で本作れるんじゃね?

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