第5章 バレンタインデー編

プロローグ

(※柊夜視点)


「すみません、布施さん。手伝っていただいて……」


「いぃえ〜、大丈夫ですよぉ」


 とある日の夜。

 私は家政婦の布施さんが作ってくれた夜ご飯を食べた後、現在キッチンでエプロンを身につけている。


 普段、私が料理をすることは無いのですが、今回は特別です。

 どうしても、私が自分で作りたいものがあるのですから。


「お父様に今度、付き合っていただいた分のお給料は出していただくように言っておきますので……」


「いいのよ〜、そんなこと気にしないで。初めて柊夜ちゃんがお願いしてきたこのなんですもの〜、おばさんちょっと嬉しいから」


 普段、布施さんは夜の18時には帰ってしまう。

 けど、ここしばらくは私がお願いして、少しだけ時間を延長してもらっています。


 というのも、私は料理が全然ダメで、しばらく料理を教えて貰いたかったからなのです。


「それにしても、あの柊夜ちゃんがチョコ作りたいなんて……おばさん嬉しいわ〜」


「チ、チョコぐらい私だって作りたい時あります!」


 私は顔を赤くしながら、チョコをきざんでいく。

 うぅ……教えていただくのは嬉しいのですが、こうしてからかわれるのはちょっと……。


「とか言って〜、どうせバレンタイン渡す男の子がいるからなんでしょ〜」


 そう言って、布施さんは私の脇腹をからかいながら指でつつく。


「べ、別に……友達渡すだけですので…」


 私は少しだけ恥ずかしくなったので、誤魔化してしまった。


 ……違います。

 渡したいのは友達なんじゃなくてーーーーー


「ふふっ、乙女ねぇ〜」


「か、からかわないで、教えてくださいっ!」


「はいはーい!」


 布施さんは、そう言いながら冷蔵庫からお手本を見せるために新しいチョコを取りに行った。


 ……頑張らなくてはいけませんね。


 そんな事を思いながら、慣れない手つきでチョコをきざんでいく。


 目標は14日までにちゃんとした美味しいチョコを作ること。


 ……待ってていてください、時森さん。


「絶対に喜んで貰いますから……」



 ♦♦♦



(※アリス視点)


「お母さん、どうしたらいいかな?」


『そうねぇ〜』


 私は今、お風呂上がりにお母さんとテレビ通話をしている。

 時森くんに聞こえないように、自室でイヤホンをつけて通話。


 ……だって、聞かれたら恥ずかしいもん。


『アリスは料理下手だから、手作りチョコはちょっとハードルが高いんじゃないかしら?』


「やっぱりそうだよね……」


 私は枕に顔を埋めながら、少し落ち込んでしまう。


 お母さんとは離れ離れになってからは定期的にテレビ通話をするようにしている。

 やっぱり、娘が心配なのかロシアから帰る際に何度も釘を刺されてしまったのだ。


 いつもは近況報告だったりたわいもない会話なのだが、今回はちょっと違う。


『……正直、アリスより時森くんの方が料理上手なんでしょ?教えて貰ったら?』


「だ、ダメだよ!こういうのはサプライズで渡したいじゃん!」


 乙女が勇気を振り絞って異性にチョコを渡す日、バレンタインデー。

 それがあと少しまで迫ってきている。


 だから……私も、その……時森くんに渡したいんだけど……。


『でも、一人で作れないじゃない』


「うぅ……」


 手作りを渡したくても料理ができない。

 それに、一人で練習しようとしても、時森くんに止められてしまう。


 あぶなっかしいから、キッチンに一人で立たせてくれないのだ。

 けど、時森くんのいる前で練習なんてしたら……バレちゃうじゃん。


 別に、手作りチョコじゃなくてもいいとは思うんだけど……その…す、好きな人には…ちゃんと手作りを渡したい…から……。


『仕方ないわね……お母さんが超簡単にチョコを作れる方法を教えてあげるわ』


「ありがとうお母さん!」


 私は嬉しくてついに大声をあげてしまう。


 やった!

 これで私も時森くんに手作りチョコをあげられる!


 多分、ひぃちゃんも麻耶先輩も、時森くんにチョコをあげるに違いない。

 ここで、差を広げられたら困るんだ。


「絶対に手作りチョコを渡すんだから!」



 ♦♦♦



(※麻耶視点)


「ふっふふ〜ん♪」


 私は鼻歌を歌いながら、溶かしたチョコを型に流し込む。


 うん、だいぶいい感じでできたと思う!


「お、麻耶。バレンタインには少し早いんじゃないか?」


 すると、後ろからお父さんの声が聞こえてきた。

 どうやら私の鼻歌が聞こえていたようだ。


「確かに早いけど……今のうちから練習しておかなくちゃ!」


「麻耶の料理スキルだったら練習しなくてもいいよいな気がするが……」


 ダメだよ!

 ちゃんと練習しないと、美味しいのが渡せないじゃん!


「だって最後にチョコ作ったの去年だよ?流石に練習しておかなきゃ!」


「そっか……我が息子は幸せ者だなぁ」


 そう言い残し、お父さんはキッチンから立ち去った。


 うん…望くんは本当に幸せ者だと思うよ!

 こんな可愛いお姉ちゃんからチョコ貰えるんだから!


「……頑張ろっと!」


 私は型に流したチョコをラップに包み冷蔵庫に入れる。


 今まで、望くんにはずっとチョコを渡してきた。

 本当はいつも通りのチョコをあげればいいんだけど、今年は違う。


 なんだって、ライバルが増えちゃったんだもん!

 気合い入れないと、負けちゃうかもしれないから!


 まぁ…チョコを渡すだけなので勝ち負けもないはずなんだけど……。


「でもやっぱり、お姉ちゃんが一番って言って欲しいからね」


 好きな人には美味しいって言ってもらいたい。

 そして一番美味しいって言って欲しい。


 それが私の乙女心だから。


 だから頑張らなくちゃ!









 こうして、乙女達はそれぞれの想い抱きながら、勝負の14日に向けて準備を進めるのであった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ※作者からのコメント


 読んでいただきありがとうございます!

 本当は閑話を入れる予定だったのですが、やっぱり話を進めていこうと思いました!


 今回は重い話は無し!

 簡単なプロローグから5章始めていこうと思います!


 これからもよろしくお願いします!

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