エピローグ〜再び神社にてお願いを〜

 後日談……というわけでないが、結局麻耶ねぇをいじめていた連中は一週間の停学となった。

 というのも、西条院や俺達生徒会が学校に報告した訳ではなく、自分達で報告しに行ったらしいのだ。


 ……心境の変化が起こったのか、はたまた第三者の介入があって自白しに行ったのは分からない。


 麻耶ねぇクラスでは何事も無かったように賑やかで、あれから麻耶ねぇに対するいじめは起こっておらず、無事今回のお話は終わりを迎えた。


 そして、生徒会仕事も終わり俺と麻耶ねぇは家の近くの神社に足を運んでいた。

 神楽坂は、今日西条院の家にお泊まり会をするみたいで、今は一緒にいない。


「……なぁ、麻耶ねぇ?」


「どうしたの望くん?」


 俺と麻耶ねぇは石階段をゆっくりと登る。

 あぁ…年寄りにはこの階段はきついなぁ…。


「なんで俺達神社に来ているんだ?」


 俺はここに来た経緯を聞く。

 だって麻耶ねぇは「望くん!ついてきて!」って言っただけで何も話してくれないんだもん。


「なんでって、ここはお参りするところだよ?」


 そんなん分かっとるわ。

 神社がお参りするところじゃなかったら何する場所なんだよ?

 巫女さんか?巫女さん見る場所なのか?


「じゃなくて、なんでお参りするのかってことだよ。初詣でお参りしたばっかだろ?」


「あぁー」


 そう言って、麻耶ねぇはポンっと手を叩く。

 ……うむ、その行為は大変可愛いらしい。


「……あの時のお願いを変えようかと思って」


「はぁ?」


 麻耶ねぇはそう呟くと、石階段ゆっくりと登っていく。

 俺は不思議に思ったが、仕方なく麻耶ねぇの後ろをついていくのであった。


 ……この階段、意外に腰くるわー。



 ♦♦♦



「う〜ん、やっぱり誰もいないねぇ〜!」


「流石にこの時間だし、誰もいないだろ」


 俺達は石階段を登り追えると、神社の前まで着いた。

 日は沈み、辺りが暗くなってきているためか、周りには人っ子一人いなかった。


「……さっさと終わらせて帰ろうぜ。今日は麻耶ねぇの家に泊まりに行くんだから、母さん待たせると申し訳ない」


「うん!そうだね!」


 そう言って、俺達は賽銭箱の前まで足を運ぶ。

 そしてお互いに財布を取り出し、5円玉を取り出そうとする。


 ……あれ?


「……あ、俺5円持ってないわ」


 あちゃー、昨日買い物した時に使っちゃったか?

 俺、基本的に5円玉はずっと財布に入れておく主義なのになぁ。


「はい、5円!」


「お、ありがとう」


 俺の様子に気づいたのか、麻耶ねぇが俺に5円玉を差し出してくれた。

 それを受け取り、賽銭箱へと放り投げる。


 そして二礼二拍手一礼。


 手を合わせて、俺は目を瞑る。


 ……神様、俺のお願い叶いませんでしたね。

 早速、不幸な目にあってしまいました。


 けど、それを恨んだりしていません。

 だって、そのおかげで俺と麻耶ねぇは……昔とは違うんだって分かりました。


 一人で抱え込むのではなく、みんなと協力して前に進む……その事に気が付きました。

 だから、これからは俺達は昔よりも多く笑って過ごせると思います。

 傷つくこともなく、互いに助け合い、寄り添っていきます。


 そうだな……神様、お願い変えてもいいですか?

 自分達はこれから昔よりも幸せになれると思う。


 ーーーーだから、


「みんなとずっと一緒にいられますように」


 こんな素晴らしい人達と巡り会えた。

 叶うことなら、これからの人生ずっとみんなと一緒にいたい。


 俺は頭の中で神様にお願いをし終えると、そっと目を開く。

 すると、同じタイミングで麻耶ねぇも目を開いた。


 ……どうやら、そっちもお願いし終わったようだな。


「行くか?」


「うん!」


 俺達はお互いに神社に背を向けて、自分たちの家へと歩き出す。

 ……さっさと家に帰ってしまおう。


「ーーーーーで、結局何のお願いに変えたんだ?」


 俺は聞きたかったことを麻耶ねぇに聞いた。


 すると、麻耶ねぇは足を止め、俺を真っ直ぐ見据えて口を開く。


「私のお願いは恋愛成就だよ」


「……え?」


 俺は一瞬、麻耶ねぇの言葉に頭が真っ白になった。


 ……麻耶ねぇって……好きな人いたの?

 俺、初耳なんだけど?


 俺は驚くのと同時に、胸のどこかがモヤっとしてしまった。


「……誰か聞いていい?」


 あまりこういう話は本人には聞かない方がいいのかもしれない。

 けど、俺は胸のモヤを解決したくて、思わず麻耶ねぇに聞いてしまった。


 すると、麻耶ねぇは少し頬を赤らめる。


「……ねぇ、望くん?私、今まで好きって気持ちが分かんなかったんだ」


 ゆっくりと、麻耶ねぇは俺の元まで近寄ってくる。


「告白も沢山された……けど、好きってことが分からなくて、今まで断ってきた」


 夕日に照らされた麻耶ねぇはどこか綺麗で、思わず見蕩れてしまう。


 ……どうして、こんなにもドキドキするのだろうか?

 今まで、麻耶ねぇにこんな気持ちになったことがないのに。


「けど、ある時私はこの気持ちに気づいたんだ……好きっていうのは誰かと一緒にいたい、この人見ると胸がドキドキして、ずっと目で追いかけてしまって、どこか放っておけなくなるーーーーこの気持ちの事なんだって」


 胸に手を当て、自分の気持ちを確かめるように、言葉を紡ぐ。


「それに気づかせてくれたのは……私が死のうとした時に、私の手を引っ張ってくれた人、私の為に傷ついてくれた人、私が一人何も感じなかった時に、病室で寄り添ってくれた人」


「………」


「私は、そんな彼の事が好き、大好きーーーーーこの気持ちは、昔から変わらない」


 俺は麻耶ねぇの言葉を聞いて上手く言葉が出なかった。


 誰?どんな人?

 ……確証はない。

 けど、その人はどうしてもーーーーー


「ふふっ、今日はここまで!じゃあ、早く帰ろっか!」


 麻耶ねぇは俺の口に人差し指を当てると、一人先に石階段を降りていった。


 俺は一人、その場に呆然と立ち尽くしてしまう。


「………」


 麻耶ねぇ好きな人。

 ……鈍感な人でも分かる。


 今まで気づかなかった。

 麻耶ねぇがそんな気持ちでいたことに。


 俺は麻耶ねぇのことは大切な人だと思っている。

 でも…情けない話だが、ずっと俺は『姉』だと思ってきた。


 けど……この感情は一体何なのか?

 神楽坂に告白された時と、西条院に好きな人の話をされた時と同じ気持ち。


 胸の中にモヤがかかっていて、俺の心に小さな針が刺さっている感じ。



「はぁ……なんだんだよ、これ?」


 俺は早歩きで麻耶ねぇの後を追いかける。

 この気持ちの答えを一旦後回しにして、今という現実を過ごすために。





 いつかは答えを出さないといけないのだと思っている。

 でも、今は……もう少し考えさせて欲しい。

 ちゃんと、俺なりに答えを出してみせるから。



 複雑な気持ちを抱えたまま、俺は石階段駆け下りた。














 こうして、このお話は終わり。

 苦い過去の思い出を、克服し、互いに大事なことに気づくことが出来た。

 それは、決して自分達だけでは気づくことができず、周りに支えて貰ったからこその結果。


 この物語は間違いなくハッピーエンド。


 だから神様ーーーーー



 これからも、みんなとずっと一緒にいられますように。

 大切な人に巡り会わせてくれた、この現実に感謝を。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ※作者からのコメント


 これで第4章~完~!

 今回は麻耶ねぇと望の過去が混ざったお話となりました。


 重い話でコメントに色々意見が割れてしまったようですw

 作者としても、重い話が続いたので、少し執筆スピードを早めちゃいましたw


 皆さんにはたくさんのコメントいただきありがとうございます!

 これからも、沢山のコメントやレビューいただけると嬉しいです!


 次は少し閑話を挟む予定ですが、西条院→神楽坂→麻耶と話を進めてきましたが、次はどういうお話になるのでしょうか?


 長々話してしまいましたが、ここまで書いてこれたのも皆さんのおかげです!

 これからもどうぞよろしくお願いします!

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